「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

MaaSは鉄道など公共交通や都市計画にどのような影響を及ぼすか和田憲一郎の電動化新時代!(27)(4/5 ページ)

» 2018年04月23日 06時00分 公開

1960年代前後に作られた道路やビル、今後どうすべきなのか

和田氏 1960年代にはオリンピックという緊急性もあり、川の上に沿って高速道路などが作られた。しかし約50年以上たった今、かなり老朽化している。今後はどうすべきなのか。

中村氏 基本は直していくしかない。何とかして騙し騙し、時には抜本的に直していくしかない。なかには「いらない道路」という判断も出てくるのではないか。

 例えば、韓国のソウルでは、2004年に都心にあった高架道路を約6kmに渡って廃止している。昔の川の上に作った高架道路を廃止し川を再生した。ただし、廃止するにあたって別の道路を作るのではなく、地下鉄を強化してクルマを使わなくても済むようにしたり、路上駐車の取り締まりを強化して道路が流れるようにしたりするなど、多くの施策を同時に実施した。その結果、掘り返した運河を6kmの公園にし、ゲリラ豪雨時には雨を溜めるようにしている。

 また、米国ボストンは高架道路をやめて、地下トンネルをつくり、地上部を公園緑地にしている。このように考えると、今話題になっている東京の日本橋も再生する可能性はあるのではないだろうか。なお、日本では人口が減り、シェアリングが増えると、首都高は今のままのレベルは必要かとの議論はあるだろう。

EVによりクルマの動線が変わる

和田氏 自動運転車、ワイヤレス給電などの新技術が出てくるとクルマの動線が変わると思われる。そのような変化は都市交通、都市計画にどのような影響を及ぼすのか。

中村氏 電気自動車(EV)が増えると最初に立体駐車場の設計が変わる。エンジンを搭載したクルマの場合は防火基準が厳しく設定されているが、EVではそれほどの要件は必要なくなる。

 また、自動運転車が普及し、これが将来大きく進展すると、クルマの形が大きく変わるのではないか。具体的には、運転席や助手席を区別する必要がなくなる。そうなると、会議室がモビリティ空間にもなる。その結果、建物の形が変わる。建物の形が変わると建物の形を規制する都市計画の制度も動いてくるのではないか。個人的な意見だが、会議室のようなクルマに乗っていると、クルマの振動などにより、かなり酔うように思われる。

 また、シェアリングが増えてくると、駐車場の数が変わる。ロサンゼルスでは中心市街地の3分の1が駐車場といわれているが、そのような規模はあまり要らなくなるのではないか。つまり都市計画が変わる。余計な心配かもしれないが、シェアリングで24時間稼働するクルマと、通常のマイカーとして使うクルマでは、クルマの耐久性など仕様が変わってくるように思われる。

MaaSが発展すると、都市交通にどのような影響を及ぼすのか

和田氏 欧州では、公共交通機関やレンタカー、タクシーなどを組み合わせて人の移動を行うMaaSというサービスが生まれている。MaaSが発展すると、都市交通にどのような影響を及ぼすのか。

中村氏 2018年、あっという間にMaaSが流行るのではないだろうか。もともとはフィンランドのヘルシンキの人々が始めたものだ。2017年10月にモントリオールで開催されたITS会議や、オーストラリアの会議などでも既にセッションができている。

 やっていることで特徴的なのは、公共交通やレンタカー、シェアリング、タクシーなどを組み合わせて、スマートフォン上でシームレスに一括で予約と決済ができることだ。つまり出発地点から到着地点まで予約と決済がスマートフォン上で完結できる。法人や個人、さらには月間使い放題などいろいろなメニューがあり、契約の仕方によって選べるようになっていることも面白い。

 ここでのMaaS業者のメリットは、マージンを得られることと、その人の移動情報を得られることだ。この情報はマーケティングなど多方面にも活用できる。ただ、もともとヘルシンキは政策的に自家用車への依存度を下げようとしたという背景もある。鉄道もシェアリングも公営交通サービスであり、それに民間サービスを加えたものを民間が第三者として運営している。

 では日本で同じようなものができるのかと言えば、かなり状況が異なる。まず行政側が政策的な面で、MaaSに対して関心度が低い。民間が民間でやるのであれば、口を出さないスタンスだ。

 さらに、現在の日本ではMaaSに関する正式な定義もない。EUでは一応定義があるが、日本ではまとまっておらず、学者は学者、産業界は産業界で、それぞれの考え方で言っているのが現状だ。

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