完全ワイヤレスイヤフォンのキラー技術「NFMI」の現在・過去・未来小寺信良が見た革新製品の舞台裏(9)(3/4 ページ)

» 2018年05月17日 10時00分 公開
[小寺信良MONOist]

BluetoothにはないNFMIの特徴

―― NFMIが音楽用として注目され始めた背景としては、どういうものがあるんでしょう。

平賀 NFMIではない従来製品では、左右の伝送もBluetoothで行います。しかし、どうしても電波というのは周波数が高くなればなるほど、水に吸収されてしまって飛ばないという現象が起こるんですね。

 人体は70%が水といわれておりますが、両耳の間を直線方向で通信しようとすると、当然ながら頭の中、つまり水分を大量に含む脳で減衰してしまう。それを今どうしているかというと、出力を上げたり、イヤフォンから長いアンテナを出したりして、電波の回り込みを利用することになります。

 しかしそうして出力を上げると、閉鎖された空間では電波が反射してしまったり、あるいは他での受信、つまり盗聴に弱くなったりといった問題も出てくるんですね。

 また現状のBluetoothでは、レイテンシ(遅延時間)が長いという問題もあります。スマートフォンとイヤフォンの通信で遅れ、加えて左右のイヤフォンの通信でも遅れますので、レイテンシが2倍になりますよね。従って、動画の音声を聴いたときに違和感があったり、通話しようとすると会話にならないほどの遅れが生じたりします。

 もちろん、左右の音切れの問題も解決したいというニーズも、われわれとしては重視してきたところです。

NFMIを用いた完全ワイヤレスイヤフォンの特徴 NFMIを用いた完全ワイヤレスイヤフォンの特徴(クリックで拡大) 出典:NXPジャパン

NFMIの原理は相互誘導

―― NFMIを使うと、なぜそれらの問題が解決できるのでしょうか。

平賀 それにはまずNFMIの原理を知って頂くのが早いと思います。

 中学校か高校かで習うと思うんですけれども、電流が流れているコイルに、別のコイルを近づけると、そちらにも電流が発生するという現象があります。これは電流とコイルによって磁場が発生し、その磁場の変化によってもう1つのコイルで電磁誘導が起こる、相互誘導という現象なんですが、NFMIはこの現象を利用して信号を伝達しています。

 電波ではなく磁力を使うので、電波干渉に強いだけでなく、水の中でも通ります。耳と耳の間の距離を通信させるのであれば、脳の中を通って直線距離でいけますので、非常に小さいコイルと電流で済みます。もうちょっと広範囲の、ボディーエリアと言いますか体全体くらいの距離を伝送する場合でも、コイルを大きくしたり電流を大きくしたりすることで、簡単に可能になります。

 出力が小さいということは、消費電力が少なくて済むということですね。加えて最小限の出力で済みますから、盗聴されにくいという特徴があります。

―― 水を通って通信できるということは、スイミングなどでも使えるということですね。

平賀 もともとブラギのDashは、4GBの内蔵メモリを用いた音楽プレイヤー機能も搭載しています。スマートフォンとのBluetooth通信は不要で、NFMIだけで完結する、プールにも入れるという製品になってますね。

―― 通信原理による特徴というのは分かりました。一方でなぜレイテンシが短いのか、原理からは読み取れないのですが。

平賀 これは通信プロトコルに大きな特徴があります。技術的にはTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)といいますか、時間を分割したスロット方式になっていまして、音声とデータのスロットが送受信できるようになってるんですね。

 Bluetoothのプロトコルと違って、音声用のスロットがきちんと予約されているので、余計なデータが割り込んでこないということなんです。完全にレイテンシがゼロではないんですが、常に一定の遅延量であるというところも、重要なポイントです。

―― 音質面ではいかがでしょう。やはり今の完全ワイヤレスイヤフォンの課題は、ハイレゾができないというところに1つの限界があるように思うんですが。

平賀 先ほどビットレートが596kbpsというお話をさせていただきましたけど、今後は高音質対応として、求められるビットレートが上がっていくだろうということは分かっています。一般的にハイレゾといわれている、高音質音声コーデックの「apt-X HD」対応といったところは、当然見据えて開発を進めています。

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