「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
連載
» 2018年06月05日 10時00分 公開

IHS Future Mobility Insight(4):モビリティサービスが自動車市場に与えるインパクトはプラスかマイナスか (3/3)

[川野義昭(IHS Markit Automotive),MONOist]
前のページへ 1|2|3       

モビリティサービスの普及で自動車市場が拡大するインド

 インドでは、2030年に向けてのEVの普及姿勢を軟化させ、いわゆるHEVなどのより多くの電動化に向けた選択肢も検討することで、電動化に向けた今後の方針スタンスにやや変化がみられたといえる。自動運転に関しては、渋滞環境や交通インフラ整備状況を鑑みると自動運転自体の普及/発展に向けてのハードルは高いとみられ課題は多いであろう。

 一方で、サービスとしてのモビリティという意味でインドは特徴的な傾向を示している。インドは北部と南部で気質が異なるといわれているが、インド人全体としては新たな商品/機能や考え方を柔軟に受け入れる価値観があり、合理性に富んでいる。これが新しいテクノロジーや産業を受け入れる土壌につながっているとみられる。

 カーシェアリングなど都市地域における新たなモビリティサービスによる影響としては、インドにおける中長期販売を押し上げる効果があるとみており、特に新しいモビリティサービス(すなわちウーバーやオラ(Ola)に代表されるようなライドシェアリング/ヘイリング、カーシェアリングなど)は、2030年など長期に向けて年間販売へのプラスインパクトが30万台弱程度に達すると見込まれる。背景としては、ライドシェアリングビジネスがインドで拡大するとみており、まだ全体レベルではインドにおける車の保有台数が低い状況で、とくにタクシーサービスを中心としたライドシェアリングビジネスの拡充(増車)により、二輪車から四輪車への移行期の前段階での足掛かりとなるとみているためである。

 タタ・モーターズ(Tata Motors)の低価格車「NANO」は、結局のところ大多数の二輪車ユーザーにとってその価格はまだ高過ぎた。その一方で、クルマを購入できる層にとっては競合ひしめく多種多彩なブランド群からNANOという安すぎるクルマを買うという決断には至らず、普及しなかったことは記憶に新しい。

 多くの消費者、もしくは潜在ユーザー層は、インドにおいて自己の基本的な移動実現のためにウーバーやオラを利用することになるとみている。これは直接クルマの購買には結び付かないものの、全体の市場としては移動がしやすくなることで、クルマによる移動の頻度が上がるだろう。こうした消費者は、家計の財政的な事情でクルマの購入には至らないものの、ライドシェアリングを利用することでタクシーなどを通じた移動が可能となり、より利用が促進されるというわけだ。

 また、モビリティサービスの成長期では、政府がライドシェアリングビジネスを支援することで人口の多いインドでの新たな雇用が生まれ、またその雇用を確保し続けることで継続的な生活水準の向上を通じて車購入への道筋が明らかになり、市場規模を徐々に押し上げると見込んでいる。空き時間を有効活用し、サービス提供による収入を個人ベースで行ったり、自らが事業者となったりすることで、収入を得ていくという考え方だ。いわば、公共交通機関の一端を担うことで、より消費者にとって便利な社会を実現し、一方で従来的な公共交通機関の整備やインフラにかかる膨大なコストや土地用地取得に関わる無駄を抑制/排除しマーケットにおける政府の関与を低減させることで、より効率的な政策運営を実現していく方向である。

 とはいえ、自動車販売市場にとっては一定の変化は避けられない見通しである。例えば、新たなモビィリティサービスの参入によりライドシェアリング/ヘイリングへ分割するようなビジネスモデルの変更を余儀なくさせられ、個人所有ベースの現在の販売システムとは互いを補完しつつ競合も生まれるような状況となり、エンドユーザーのタイプの変更に伴う売り方が異なってくる可能性もあるとみられる。

 労働市場における若年人口の教育水準向上などは、今後の発展の潜在能力をさらに引き上げるためにも必要となろう。

 これらのように、一般的に米国や中国、西欧諸国など新たなモビィリティサービスの参入/導入により市場規模へマイナスのインパクトとみる市場が多いのに対して、インドはプラスの影響となると予測されていることが特徴的である(図4)。

図4 図4 地域別影響まとめ(クリックで拡大)

「オートモーティブ・パラドックス」で自動車業界はどうなるのか

 全般的には、クルマのユーザー、ドライバー、オーナーといった、特に乗用車ユースでの場合では、クルマによる移動自体は増加する方向であるにもかかわらず、個人自体が必要とするクルマは減少傾向になるという「オートモーティブ・パラドックス」現象が起こることが未来のモビリティ社会、自動車の新しい方向性を特徴づけることになるであろう。クルマの所有から利用に変わることで、個人所有は減少し個人向け販売の形態から法人向けフリート販売としてカーシェアリングなどの用途でまとまった台数で販売できるようになることで、自動車メーカーとしては生産コストなど多くのメリットが生まれるとみられる。

 昨今の自動車メーカーによる協業や資本業務提携など、メーカー同士の勢力図の中で合従連衡の変遷がみられると同時に他業界への協業、提携を通じて限られた資源を効率的に配分していかなければならない状況に置かれている。新たなモビリティ社会の実現のために長期にわたる投資が必要で、かつこうした分野は変化が激しく競争環境も厳しさを増しているため、先行きが必ずしも明確になっているというわけでもない。手探りの状況で取捨選択を迫られ各社の我慢比べのような状況になっているとも言えよう。

お知らせ

連載を執筆するIHS Markitオートモーティブ主催のセミナー「2018 オートモーティブ・テクノロジー・エグゼクティブ・ブリーフィング〜自動車産業のパラダイムシフト--自動運転と電動化が再定義するモビリティ〜」が、2018年6月12日(火)、東京コンファレンスセンター・品川で開催されます。同社の海外・国内アナリストが一斉に登壇し、本連載のテーマである「新モビリティ」が自動車産業に与える変化とその対応、自動運転やMaaSなどの新しいキーテクノロジー、車載向け半導体の展望などを集中解説します。この他、官公庁のスピーカーによる基調講演、国内自動車メーカーや外資系テクノロジー企業のスピーカーによる招待講演、ライドシェアなどに取り組んでいる政府や地方自治体の担当者が参加するパネルディスカッションもあります。

日時:2018年6月12日(木)9:00〜17:30(受付開始8:30)

場所:東京コンファレンスセンター・品川

⇒セミナーWebサイトはこちら

プロフィール

photo

川野 義昭(かわの よしあき) IHS Markit Automotive 日本・韓国ビークル・セールス・フォーキャスト マネージャー

2002年シアトル大学経営大学院修了後、自動車専門の民間消費者調査会社を経て08年csm ワールドワイド(現IHSオートモーティブ)入社。一貫して車両販売における市場動向の調査、分析・需要予測を担当。

所属学会:産業学会、日本エネルギー学会、行動経済学会、交通工学研究会、日本マーケティング学会、日本統計学会、応用経済時系列研究会など


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.