AIで磁性体のエネルギー損失を最小にする形状設計を自動化する技術製造ITニュース

富士通と富士通研究所は、AIを活用し、エネルギー損失を最小にする磁性体形状を自動で設計する技術を開発した。コンピュータ上の仮想空間において、磁性体形状の試作開発を自動化できる。

» 2018年06月14日 09時00分 公開
[MONOist]

 富士通は2018年5月30日、富士通研究所と共同で、AIを活用し、エネルギー損失を最小にする磁性体形状を自動設計する技術を開発したと発表した。同技術により、コンピュータ上の仮想空間で磁性体形状の試作開発を自動化し、従来は数カ月以上かかっていた形状設計を数日で完了できることを実証した。

 磁性体は、電子機器に多く含まれる部品の1つ。電子機器の電源内の電気エネルギーを蓄えるインダクターやEV用モーターなどで活用されるが、磁気によってエネルギーの一部が熱となって失われる磁気損失が必ず発生する。この磁気損失は磁性体の形状に依存し、素子や機器のエネルギー効率に直結するため、磁気損失を考慮した磁性体の形状設計が重要となる。

 今回両者は、AIを活用することで、磁気損失を最小にする形状をコンピュータ上で自動設計する技術を開発。開発したのは、「高精度磁気損失シミュレーション技術」と「AI活用による設計最適化技術」の2つの技術となる。

 高精度磁気損失シミュレーション技術では、インダクター材料として使用される磁性体「フェライト」の微細組織の誘電効果を定式化し、インダクターに流れる渦電流の分布を正確に計算可能にした。これにより、数MHzまでの広い動作周波数領域で、フェライトの磁気損失の主因となる渦電流損失の推定誤差を10%以下に抑えることができるようになった。

 また、AI活用による設計最適化技術では、この磁気損失シミュレーションと生物の進化の仕組みを模倣した遺伝的アルゴリズムとを連携させ、形状パラメーターを自動探索する方式を開発。磁気損失が少なくなるような磁性体の寸法を自動で探索可能になった。例えば、インダクタンスを一定にするという制約条件下では、インダクターの体積と磁気損失のどちらの値も、それより優れた形状は存在しないという最適解の集合を自動で見つけることができる。

 両者は、2020年度中に同技術を含む設計サービスをHPCクラウドサービスで提供するとしている。

photo 左:インダクターの磁気損失シミュレーション(磁性体内部の磁束密度分布)、右:実験と計算の比較 出典:富士通
photo インダクターの自動設計結果(各点が1つのインダクター形状に対応) 出典:富士通

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