ポメラ DM30を分解――メカ・電気・デザインのコラボに優れた製品隣のメカ設計事情レポート(9)(3/5 ページ)

» 2018年06月15日 13時00分 公開
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3.ヒンジ機構

 観音開きのヒンジ機構は、非常に良く計算されて設計されている。このヒンジ機構には次の3つの機能が備わっている。

  • 3-A:観音開き機構
  • 3-B:キーボードのスライド機構
  • 3-C:キースタンドの開閉機構

 以降、この順番で解説する。

3-A.観音開き機構

 図7において、回転部分にギアを使用することにより、写真の右のギアが左のギアの周囲を半時計周りに90度に回転し、右のギアに直結しているキーボードは180度回転し閉じる。

図7 観音開き機構

 ギアがなくても、このヒンジ機構を作ることはできるが、左もしくは右キーボードを中央キーボードに対して常に一定の位置関係で回転させることによって、左もしくは右キーボードと中央キーボードの隣接するキー同士との接触を防ぎ、さらに左右キーボードにスライド機構(3-B項参照)を持たせるために、このようなギアを使用している。良く工夫した設計であると考える。ちなみにこれらのギアは別部品ではなく、キーボード下の樹脂部品と一体で成形されている。

3-B.キーボードのスライド機構

 左右のキーボードは図7のように閉じるに従って、外方向(図8写真では右方向)にスライドする機構になっている。図8の写真右は写真を撮る都合上、キーボードは開いたままとしている。

図8 スライドする左右キーボード

 もし、左右キーボードにスライド機構がない場合、左右キーボードを閉じると、図9写真左のように一部のキーが出っ張ってしまう。

図9 左右キーボードを閉じた状態でのキーボードの出っ張り

 片側3mmの出っ張りなので、最外形では横幅が6mm大きくなってしまう。横幅を大きくしないために、この左右キーボードのスライド機構を設けてある。スライド機構がなくとも、1個当たりのキーの横幅やキー同士の間隔をわずかに小さくすることでも、この製品の横幅の6mm増をなくすことができると考える。しかし、キーインのしやすさを考慮した個々のキーの大きさと、製品のコンパクトな最外形にこだわった、設計構想の軸のブレない設計であると想定する。

3-C.キースタンドの開閉機構

 図10の写真上にあるように、キースタンドはキーボードを完全に開くと、自動的に90°の角度で開く機構になっている。

図10 キースタンドの開閉機構

 これはとても便利であると同時に、「良くできた製品である」という満足感をユーザーに与えるだろう。

 図10の写真下にあるように、キースタンドと一体になった小さなフックが、スライドする左右キーボードの裏側に引っ掛かることによって、キースタンドが開閉する。図9の写真左で分かる通り、左右キーボードは、3mmスライドすれば十分であるにもかかわらず、それ以上スライドする。その理由は、キースタンドを90°の角度で開閉するために必要だからである。

 ここまで解説したように、このヒンジ機構は3つの機能も持ち合わせた、非常に賢い設計となっていると考える。

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