地元の技術を集結「完全地産」のお土産――製造業ご当地お土産プロジェクト(長野県)地方発!次世代イノベーション×MONOist転職

「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第27回。長野県伊那市の製造業者が連携して、完全地産に取り組んでいる「製造業ご当地お土産プロジェクト」を取り上げる。

» 2018年06月15日 09時00分 公開
[MONOist]

イノベーションの概要

 長野県南部に位置し、南アルプスと中央アルプスに挟まれた谷、伊那で「製造業ご当地お土産プロジェクト」が行われている。背景にあるのは、電子部品や精密機械など伊那の経済、雇用を牽引(けんいん)してきた製造業が、海外へのシフトによって空洞化していること。お土産プロジェクトは伊那の製造業者などが協力して、企画から製造まで全てを地域内で行う「完全地産」の最終商品を生み出し、各社の技術アピールや地元町工場間でのネットワーク構築により製造業を活性化させようという取り組みだ。商品の付加価値を高めて地元の観光やイベントでの利用を進め、生産量を確保して企業負担を少なくし、商品の企画、開発、生産が継続できる環境を作ることを目的としている。

「製造業ご当地お土産プロジェクト」のWebページ

 参加している企業は、製品設計から精密機器、金属加工、プラスチック加工、金型、ラベルなどの印刷や和菓子製造までさまざま。これまでに商品化されたのは、回すと花が開く直径2センチのコマ「サクラコマ」、伊那市のイメージキャラクター「イーナちゃん」を組み立てて歩かせることができる「とことこイーナちゃん」、たたかれても転ばずに竜巻のたたく回り続けるバランスコマ「タオレネード」、真っ赤に熟したプチトマトそのもののかわいさながら、よく回る「信州産プチトマトコマ」、たまごと黒ごまの2種類の味が楽しめる「伊那谷のたからものプリン」、SBC信越放送のイメージキャラクター「ろくちゃん」をデザインした「ろくちゃん防犯ブザー」である。

 参加企業の1社であるスワニーは、シャッターを下ろしたままの店舗が多い伊那市の商店街に、空き店舗を活用した「内職ワークスペース」を開設。登録した市民が、お土産プロジェクトの製品や地元企業が発注する内職を請け負う。高齢者でも主婦でも気軽に加わることができ、市街地に人と活気が戻り始めている。

イノベーションの地域性〜長野県といえば……

 長野県は、本州のほぼ中央に位置する日本で4番目に大きな県。北アルプス、中央アルプス、南アルプスと3000m級の山々が連なることから「日本の屋根」とも呼ばれ、県全体の標高も高い。例えば市役所の標高が日本一高いのは茅野市の801.6mで、東京スカイツリー(634m)を有に超える。海抜1346mにある小海線野辺山駅は日本最高所のJRの駅だ。軽井沢、上高地、蓼科など有名な避暑地も多く、1998年には冬季オリンピックも開催された。

 3000m峰の数(15座)、日本百名山の数(29座)は全国1位。平均寿命、野菜の摂取量、移住したい都道府県ランキングも1位。農産物ではレタス、セロリ、エリンギ、えのき、ぶなしめじの収穫量が1位、そば、りんご、ぶどうは2位。ワイン用のぶどうの生産量は1位である。

 きれいな水と空気は精密機器に適しており、諏訪地域を中心に精密機械や電子産業が盛ん。顕微鏡・拡大鏡の出荷額は全国1位、電子部品・デバイスの出荷額は全国2位である。

 長野・信州といえば、そばも有名。お土産プロジェクトに取り組んでいる伊那には、「信州そば発祥の地」の伝説があり、奈良時代に里人から暖かくもてなされた修験道が、お礼にそばの種とそば栽培を伝えたとされている。

ここに注目! 編集部の視点

 中国をはじめとする海外に生産を移し、部品を現地調達に切り替える企業が増えるに連れ、中小のものづくり企業の受注は減る。自社で最終製品を作るというのは、その打開策ではあるが、地域で連携して、しかも「お土産」を作るという目の付け所が面白い。

 それぞれの製品は、これまでに培ってきた各社の技術やノウハウ、全日本製造業コマ大戦で話題になったコマの技術などが凝縮したもので、品質の良さは言うまでもない。正真正銘のMade in japan、Made in INAの伊那土産。「完全地産」の赤いロゴが誇らしげに見える。

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