「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

都市国家シンガポールに見る、EVとカーシェアリングの可能性IHS Future Mobility Insight(5)(1/3 ページ)

自動車保有を大幅に制限している都市国家・シンガポールでも導入されつつあるEVやカーシェアリング。そのシンガポールを例に、EVやカーシェアリングの可能性を考察する。

» 2018年07月05日 10時00分 公開

 現在の自動車業界で最もホットな話題の1つであるEV(電気自動車)とカーシェアリング。ちまたにあふれる情報は、その両者に明るい未来を描き出す。しかしながら、本当にEVやカーシェアリングはそう急激に普及するのだろうか。都市国家シンガポールを例に、現状と将来を考えてみたい。

シンガポール、特殊な自動車環境の国

 東京23区と同程度の面積に約561万人(2017年6月)が暮らす都市国家シンガポール。国土面積の12%を道路が占めるというシンガポールでは、極端な渋滞回避や環境対策のために国策で自動車の登録台数をコントロールしている。

 過去、徐々に引き下げてきた車両保有台数の伸び率をさらに絞る方向で、2015年に上限0.25%としていたものを、2018年2月からは0%にすると発表した(日本国内の販売台数は漸減だが保有台数の対前年増加率は軽自動車を含む乗用車で2017年は約7%であった)。

 シンガポールで自動車を入手するためには、まず自動車所有証COE(Certification of Entitlement)を入札によって購入しなければならず、このCOEの発給量を政府がコントロールすることで、登録台数を制限している。COEは排気量、馬力、用途によってカテゴリー分けされるが、2018年6月の落札価格は乗用車最小カテゴリーで3万6426シンガポールドル(約300万円)だった(必ずしもカテゴリーとCOE価格は比例せず、あくまで入札によって価格が決まるため、時に小型車の属するカテゴリーが高級車よりも高くなることがある)。これに加えて、車両本体価格以外にその他の諸税などがかかる。例えば、現地で人気の小型セダン「Corolla Altis(カローラ・アルティス)」は約800万円程度となる。

 従って、自動車を購入する層は必然的に富裕層が中心となり、日本で高級車といわれるE、Fセグメント、とりわけ富裕層の好むBentley(ベントレー)やFerrari(フェラーリ)といった超高級車の販売比率が世界的にも高いのがこの国の特徴である。

図1 図1 世界全体の販売台数セグメント別構成比推移とシンガポールのE+Fセグメント割合(クリックで拡大)

 入手するだけでこれだけの金額がかかり、さらにガソリンも近隣国に比べ高価だったりと、庶民には高根の花である自動車。政府は公共交通網の充実を図り、2017年には今後5年間で280億シンガポールドル(約2.3兆円)を鉄道/バス輸送関連に投資すると発表しており、自動車に頼らなくても利便性の高い移動手段の拡充を目指す。しかしながら、スコールの多いシンガポールで、小さな子供がいたりしたら、やはりちょっとした移動に車が欲しいと思う場面も少なくはないだろう。

配車サービスの台頭とそれに付随する問題

 そのシンガポールに拠点を置く配車アプリ運営会社Grab(グラブ)は、地域内で競合であった米国のUber(ウーバー)の東南アジアにおける事業を継承した。Uber撤退にあたり、東南アジア各国で独占にまつわるさまざまな問題、政府対応が発生したものの、シンガポールではGrabにこれまでの料金体系を維持するなど条件を設け、事実上統合を容認した。

 配車サービスは乗降場所の自由度がタクシーより高く、運賃は事前にチェックできて明確、運賃もタクシーより安い場合がある、とユーザーには大きなメリットがあり、この利便性によって自家用車を持たなくてもよくなるという車両台数の抑制効果がある。その一方、このサービスを含むプライベートハイヤー用の自動車登録台数が急激に増加しており(図表2 シンガポールの自動車保有台数の推移)、結果として全体の保有台数を抑えても、実際に路上で走行している台数は増えている可能性が高い。消費者に受け入れられているものの、その利便性の高さゆえに、ユーザーの嗜好が公共交通機関から配車サービスにシフトするにつれ、渋滞を招き、利便性も損なわれる可能性がある。

図2 図2 シンガポールの自動車保有台数の推移(クリックで拡大)

 2017年よりGrabと協業を開始していたトヨタ自動車は2018年6月13日、Grabに10億米ドル(約1100億円)を出資し、Grabに役員を2人派遣することも発表した。シンガポール内における走行データ連動型自動車保険の提供など、これまでの協業をさらに一歩進め、新しいモビリティサービスやMaaS(Mobility as a Service)車両開発の検討も開始するなど、東南アジアにおけるトヨタ自動車のプレゼンスを高めるための戦略の一環としてシンガポールは欠かせない存在となっている。

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