特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

大前研一氏が語るAI、「使いこなせない企業は淘汰される」モノづくり最前線レポート

技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長で、ビジネス・ブレークスルー大学の学長である大前研一氏が「AIと日本経済再生」をテーマに基調講演を行った。

» 2018年07月17日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 技術商社のマクニカは2018年7月12〜13日、ユーザーイベント「Macnica Networks DAY 2018」を開催。その2日目にビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長で、ビジネス・ブレークスルー大学の学長である大前研一氏が「AIと日本経済再生」をテーマに基調講演を行った。

AIの限界と可能性

 大前氏はAIの本質として「基本的にはビッグデータのマイニングと言い換えることができる。そのため、データ分析をプログラムする人のインテリジェンスによって、結果は影響を受ける。完全に想定外のことに対して新たな解を発見することはない」と述べる。

photo ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長で、ビジネス・ブレークスルー大学の学長である大前研一氏

 ただ、AIは発展を続けている。現在のAIブームは第3次だとされているが「以前のAIに対して、機械学習や深層学習によって新たなフェーズに入った。IoT(モノのインターネット)機器などを手足とし、脳の領域をAIが担うようになる」(大前氏)とし、企業経営の競争軸にもAIが大きな影響をもたらしつつあることを指摘する。

 AIの応用分野は急速に拡大しており、製造業の在り方や自動車産業などを大きく変えつつある。特に「MaaS(Mobility-as-a-Service)」の実現に向けて動き出す中、自動車メーカーや配車サービス企業などが一斉に市場獲得に向けて動き始めている状況だ。大前氏は「配車サービスにも需要予測や経路予測などでAIの活用が欠かせない。配車サービスが重要になってくるのは、自動車メーカーは直接ユーザーにつながっていないという課題があるからだ。この配車サービスなどが定着した時にエンドユーザーを握っているのは自動車メーカーではなく配車サービス企業になることがあり得る」と大前氏は強調する。

 さらに「これらのシェアリングサービスが広がり、自動運転化などが進むとクルマの数は今までの10分の1しか必要なくなるかもしれない。産業構造が大きく変わる」と指摘している。

 ただ、この領域については「まだ誰が勝者になるのかは全く分からない状況だ。自動車メーカーなのか、レンタカー業者なのか、配車サービス業者なのか、駐車場業者なのか。これからの取り組みで全てが変わってくる」と大前氏は語る。

AI時代に日本が取るべき方策

 「ここ数年で世界に最も大きな影響をもたらした技術的な進化は『モバイル』だったが、その競争軸がAIへと移ろうとしている。業界や国境を越えてこの流れが加速し、AIセントリックな時代が始まろうとしている。経営にも大きなインパクトを与え始めている。今後はAIを有効に活用した企業が、そうではない企業を打ち倒す時代が来るだろう」と大前氏は競争軸を変える大きな変化だと訴える。

 自動運転や、監視システム、医療、スマートファクトリー、金融などさまざまな業界でAIへの投資が進んでいる。企業の時価総額のグローバルトップ企業を見ても「2007年のトップ10企業にはIT系ではマイクロソフト1社が入っていただけだった。しかし2017年には、7社が入っている。さらに中国勢が大きく躍進しており、日本企業の存在感は著しく低下している」と大前氏は警鐘を鳴らす。

 これらのグローバルトップ企業はほぼ全てがAIへの投資を加速させているが、特に大前氏が訴えるのが「中国の脅威」である。「国策の影響も当然あるが、中国IT企業はAI産業やロボット産業に積極的な投資を進めている。AI特許出願数も既に日本をはるかにしのぐ勢いとなっている。米国のトップ企業であっても中国の数社に対しては、遅れてきている面もある。日本としても対応策を考える必要がある」と大前氏は訴えている。

 日本企業の競争力については「日本は1世代前まではAIの領域では世界的にも強い面があったが、現在は企業としてのスタープレイヤーはいなくなってしまった」と大前氏は技術的に劣勢にあると切り捨てる。その中で「AIはあくまでも人が理解できるデータをマイニングする技術であるので、分からないことを考えてコンセプトを出すのは人間の仕事だ。これらを組み合わせて価値を生み出すことが重要だ」と大前氏は述べている。

 その上で「企業は『全社的なAIプロジェクト』などの形でAIの活用を進めるのではなく、機能別組織において個々にAIを活用できるようにシフトしていくべきだ」とAI活用のポイントについて訴えていた。

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