製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

老朽化設備で乗り切るための“創意工夫”、不正と疑われずに定着製造マネジメントニュース

SUBARU(スバル)は2018年9月28日、東京都内で会見を開き、2017年10月から数回にわたって明らかになった完成検査の不適切な扱いに対する社外専門家による調査結果を発表した。その調査によって、既に報告書で公表している不正に加えて、燃費、排ガスの抜き取り検査とそれ他の完成検査業務で新たに複数の不適切行為が判明した。

» 2018年10月01日 07時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
スバルの中村知美氏

 SUBARU(スバル)は2018年9月28日、東京都内で会見を開き、2017年10月から数回にわたって明らかになった完成検査の不適切な扱いに対する社外専門家による調査結果を発表した。その調査によって、既に報告書で公表している不正に加えて、燃費、排ガスの抜き取り検査とそれ他の完成検査業務で新たに複数の不適切行為が判明した。

 会見に出席したスバル 代表取締役社長の中村知美氏は、「背景にあるのは工程処理能力に対して過大な業務量が課されていたこと、容易に不適切行為に及びうる環境があったこと、組織上の特性による規範意識の低下などがあり、現状や課題に対する経営陣の認識が不十分だった」と語った。

先輩から「書き換えOK」の指示、後輩にも受け継ぐ

 これまでスバルの完成検査に関して、社内で規定した資格を持たない作業員が完成検査を実施していることや、燃費、排ガスの抜き取り検査で本来は無効となる測定でエラーがないものとみなしたり、書き換えて有効な測定結果として処理したりしていたことが判明している。

 今回、燃費と排ガスの抜き取り検査に関して新たに発覚したのは、トレースエラーした時間を1685台で書き換えていたことだ。トレースエラーは1回につき1.0秒以内であれば許容される規定だが、1.0秒以内のものも、300秒を超える大幅なトレースエラーも、全て0.0秒としていた。無効となるトレースエラー時間については再測定を回避するため書き換えており、本来は許容されるトレースエラー時間を0.0秒としたのは、運転技術の不足を指摘されるのを避けるためだったという。トレースエラー時間の書き換えは燃費や排ガスと比べて大きな問題でないと認識する者が少なくなかったようだ。

 この不正は遅くとも1990年代前半、10・15モードや11モードが導入されていた時期から行われていたという証言があったという。トレースエラー時間について、班長や先輩から「0.0秒に書き換えればいい」という指導があり、それが後輩にも引き継がれるなど、現場任せの教育によって長年継続的に行われていたと社外専門家は指摘している。

 また、試験室の温度や湿度については、建物の老朽化によって、定められた温度と湿度を維持したり何度も再現したりするのが難しいことから、書き換えを行っていたことが判明した。この他にも、排ガスや燃費を測定する端末上で、数値の書き換えやデータのコピーを行った形跡があることも明らかになった。その真意は明らかになっていないが、データをコピーすることで測定結果を作出したものと社外専門家は分析している。さらに、シャシーダイナモ上で車両を走行させずに、測定端末で作成したExcelファイルに測定データを入力していた事実もあった。

 これらの事実を踏まえ、排ガスや燃費の性能を改めて検証した結果、保安基準と諸元値は満たしていた。

 燃費と排ガス測定以外の完成検査工程でも、不適切な行為が見つかった。ブレーキや舵角、スピードメーターの指針誤差、サイドスリップの検査において、社内規定に沿わない手順で測定作業が行われていた。検査規格を満たさない結果が出る場合に、合格するために規定の手順を無視していた。再測定で完成検査工程が滞るのを避けるためだった。また、規格を満たさないのは部品や車両の問題ではなく、検査手法が原因だと判断して手順を無視していたという証言があった。

 これらの精密測定プロセスの不正行為は、通報やアンケート、ヒアリングによって判明したもので、客観的な記録や資料がないため、具体的な期間や範囲については特定されていない。精密測定プロセスとは別に、保安基準について確認する工程や、その他の複数の品質保証工程があることから、品質や保安基準は満たしているという。

設備の老朽化は努力では補えない

 社外専門家がまとめた報告書では、経営陣に対し、完成検査制度が持つ公益性や重要性に対する自覚の乏しさ、不適切行為の誘因となりうるリスクの認識の薄さ、完成検査工程への設備投資の制約、現場とのコミュニケーション不足があったことを指摘した。

 設備投資の制約がしわ寄せとなっていたことについて、「経営陣は新たな設備投資にかなり抑制的な傾向があり、直接の利益につながらない検査部門ではその傾向が特に顕著だった。現場の創意工夫によって検査が実施できている場合は予算が通らないという証言もあった。設備の老朽化や調整不良を努力で補うことが過大な業務負荷につながり、検査員の不正や手抜きにつながった」と社外専門家は言及している。

 社長の中村氏は、「優先順位を低くしていたという認識ではない。品質の確保は、今も昔も一番だと思っている。ただ、こういうことが発生したのは申し訳ないと感じている」と会見で述べた。

 再発防止策として、経営陣による品質保証へのコミットメント強化や、CQOが品質保証プロセス全体を監視する権限を強化を進める。また、完成検査部門を製造部門から切り離して独立性を確保するとともに、プロセスと業務量の抜本的な見直しも実施していく。

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