「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

ルネサス「R-Car」がAWSにつながる、車両データ使うクラウドサービスの開発支援車載情報機器

2018年10月17日に開催したユーザーイベント「R-Carコンソーシアムフォーラム」において、アマゾンウェブサービス(AWS)のクラウドに、ルネサスの車載用SoC(System on Chip)「R-Car」のスターターキットをつなげる「コネクテッドカー用ソフトウェア開発ツール(SDK)」を利用したデモンストレーションを行った。

» 2018年10月23日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
ルネサスの車載用SoC「R-Car」を使ったコックピット。ここで運転したデータがAWSと連携できる。コンソールには「Amazon Echo Dot」が埋め込まれている(クリックして拡大)

 車両の情報をクラウドに集め、道路の状況と組み合わせた分析結果をリアルタイムにフィードバックする――。こうしたアイデア自体は、コネクテッドカーが提供できる価値の1つとして以前から挙げられている。しかし、実際にそうしたサービスを開発するには、車両データの取得や取り扱い、想定する環境でアプリが動作するかどうかのテスト、実際にクラウドと接続してサービスを検証するといったハードルがある。そのため、自動車業界以外の企業がこうしたクラウドサービスのソフトウェアを開発するのは簡単ではなかった。

 ルネサス エレクトロニクスは、車両のデータを活用したクラウドサービスの開発を簡単かつ迅速に進めるため、アマゾンウェブサービス(AWS)のクラウドに、ルネサスの車載用SoC(System on Chip)「R-Car」のスターターキットをつなげる「コネクテッドカー用ソフトウェア開発ツール(SDK)」を提供していく。

車両の施錠状態をクラウドから確認できる。これを利用すれば、宅配の荷物をクルマのトランクに置くようなサービスも開発できる(クリックして拡大)

 運転シミュレーターを使い、ブレーキやステアリングの急な操作などを起こすと、位置情報とともにクラウドの地図データ上に記録される。また、通信が圏外となるエリアを車両が出たタイミングで情報を配信したり、荷物の配達のためクラウド側から車両の荷室を開けることを許可したりといった、実際のサービスを想定した動作もR-CarとAWSのクラウドサービスで試すことができる。

 同スターターキットのユーザーはルネサスのWebサイトを通じてコネクテッドカー用ソフトウェア開発ツールをダウンロードできるようになる。AWSだけでなく地図データ大手HEREのクラウド位置情報サービスとも連携可能。他のクラウドサービスとも幅広く連携していく方針だ。ツールは商用版と評価版を用意し、評価版は2018年12月から「R-Carコンソーシアム」の会員向けに先行して提供する。

運転シミュレーターの挙動をクラウドに

 コネクテッドカーSDKは、車両データを使用できるシミュレーターと、車両データを管理するエッジコントローラー、ドライバーモニタリングなどのアプリケーションと連携するVehicle API、クラウドと接続するインタフェースで構成されている。R-Carのスターターキットでは、JavaScriptやPythonといったプログラミング言語を使用して、クラウド連携サービスのソフトウェアを開発できる。AWS上で開発したアプリケーションはR-Carにデプロイでき、アプリケーションをクルマにインストールする仕組みも整う。

 2018年10月17日に開催したユーザーイベント「R-Carコンソーシアムフォーラム」において、コネクテッドカーSDKを利用して車両の情報とクラウドを連携させるデモンストレーションを行った。R-Carで動作する2台の運転シミュレーターがあり、それぞれのシミュレーターの車両情報をクラウドに集めた。ブレーキやステアリング、アクセルの操作情報だけでなく、ワイパーの作動、信号無視や歩道に乗り上げるといった事故などもクラウド側の地図情報に反映できる。

2台分のシミュレーターの車両データをクラウドに挙げた結果。信号を無視したドライバーがいること、ある車両が走るエリアで雨が降っていることなどがクラウド上で確認できる。感情エンジンを使って推定したドライバーの精神状態も収集している(左)。歩道に派手に乗り上げて事故を起こした様子。事故だけでなく信号無視などの情報もクラウドに集めることができる(右)(クリックして拡大)

 SDKで利用できる車両データとして、World Wide Web Consortium(W3C)が、Web技術によって車両情報を取得するために定めた「Vehicle API」で扱う車両データの中から利用頻度の高い100種類を選定している。シミュレーターはW3CのVehicle API以外のAPIに加えて、天候や道路状況の選択も可能だ。開発するアプリケーションに合わせて運転シミュレーターで車両を走らせてクラウドとの連携をテストできる。クラウド側からも約100種類のAPIを提供する。

 コネクテッドカーSDKは、ドライバーモニタリングなどのデータとも連携する拡張性を持つ。居眠りなどに加えて、ソフトバンクのグループ会社が手掛ける「感情エンジン」で認識したドライバーの精神状態などについても実際のクラウドと連携させることができる。車両だけでなく、ドライバーの状態にも合わせたクラウドサービスの開発に対応する。

 自動車向けのクラウドサービスでは、膨大なデータ量をどう扱うかという課題が切り離せない。1台の自動車が生み出すデータ量は約4TBに上るという試算があり、これを全てクラウドに上げることは難しい。車両側のハードウェアにも負荷がかかる。ルネサスはR-Carコンソーシアムのメンバー企業と協力しながら、大容量のデータをフィルタリングする仕組みも整える。ユースケースに合わせてデータを上げる頻度や上げるデータの種類、ドライバーモニタリングで生まれる個人情報に関わるデータの扱い方を検討していく。

コネクテッドカーの中核にもR-Car

 ルネサスはR-Carを使ったクラウド連携を進めることで、コネクテッドカーで起きる電気電子システム(E/E)のアーキテクチャの変化にも対応する。ソフトウェアの更新によってクルマの性能を最新に保つには、現状のE/Eアーキテクチャが複雑すぎるため、自動車メーカーはECU(電子制御ユニット)の統廃合を進めていく方針だ。

 まずは車両の機能のドメインごとに機能を集約できる性能のECUが配置され、その後さらに高性能なビークルコンピュータともいえるECUが採用される。クラウドとビークルコンピュータの連携も進む。現在、15社の自動車メーカーが、R-Carを使ってビークルコンピュータが中心となるE/Eアーキテクチャの検討を進めているという。2019年に、E/Eアーキテクチャを刷新した電気自動車を量産する欧州自動車メーカーもその1社だ。

 ルネサス 執行役員兼オートモーティブソリューション事業本部 CTOの吉岡真一氏は、「ビークルコンピュータは高い処理性能を持つだけでなく、末端のアクチュエーターのECUまで状態を把握する必要がある。幹であるビークルコンピュータと枝葉のマイコンやセンサーまでつなげられることはわれわれの強みになる」とコメントしている。

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