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» 2018年12月05日 13時00分 公開

金属3Dプリンタ:受託金属積層造形の先駆けはオーダーメイド医療を目指す (2/3)

[加藤まどみ,MONOist]

装置は頻繁に停止する

―― 装置はまだ発展途上だと思いますが、実際に使用している立場としてはいかがでしょう。

 装置は実際のところ、頻繁に停止する。装置メーカーによって傾向は異なるが、例えばリコーターが造形途中の造形物に引っ掛かるといったことがある。何かトラブルがあって停止すること自体はどの加工装置にもあることだが、問題は停止した時すぐに気付けるかどうかだ。気付かずに時間がたってしまうと造形物に熱収縮が生じ、再開後に段差ができたり、場合によっては割れたりしてしまう。そのため当社ではカメラを設置して、離れていてもスマホなどで監視できるようにしている。夜通し装置に張り付いていることもあり、本当に大変だ。

 メーカーは新材質のパラメータ開発に積極的だが、それよりも熱膨張を鎮めるための時間をユーザー側でコントロールできるなど、ひずみを抑えるための仕組みがほしい。自社で改造できないこともないが、改造してしまうと「保守できない」となるため実際は難しい。

―― 造形シミュレーションは活用されていますか。

 導入はしていないが必要だと感じている。こういった条件で造形すれば、このようにひずむというシミュレーションはたくさん出ている。知りたいのはどうすればひずみをなくせるかということだ。どのような向きやサポートにしたらひずみにくくなるかがポンと返ってくればよいと思う。今は手動で向きを変えて、計算に1、2時間待つという状態だ。繰り返し条件を変えて試したい場合は時間がかかりすぎる。

トレーサビリティーの確保は厳しい

―― 粉末の管理やリサイクルはどのようにされているのでしょう。

 粉末は湿度10パーセント以下の保管庫で保管している。アルミニウムであればkg当たりが約3万円なので、造形物の形状が何であれ100kgを1回の造形に使用すると300万円分になる。このコストを顧客に要求することはできないので、実際に使用した粉末代と掛かった時間をベースにして請求することになる。造形物にならなかった粉末は再利用するが、一度使用するとやはり粉末の状態は変わる。それを何度も混ぜることになるため、トレーサビリティーを取るのは実質的に不可能だ。航空宇宙などの基準の厳しい部品には使えない。例えばGEであれば、粉末も製造しているので一度使用した粉末を溶かして新しい粉末を作ることができる。そういったことができない限り、飛行機のエンジン部品に使うことはあり得ないだろう。

―― 積層造形物の標準規格はいずれできるのでしょうか。

 現状では積層方式やメーカーによって造形物の品質は異なる。そもそも使用する粉末もメーカーによって指定されている状態だ。粉末は再生粉になるのでトレーサビリティーが取れなくなってしまう。今のところ3Dプリンタ製の材料はJIS規格にはなり得ない。粉末の共通化は、ある規格に統一する考え方が示されるか、樹脂プリンタのように買収、統合でもなければ無理だろう。

―― 日本での積層造形の活用は遅れているといわれますが、どう思われますか。

 日本と海外では産業構造が異なる。日本の製造業は中小企業で成り立っているため、海外の大手と同じ方法でやることはできない。中小企業が1億円もする装置を買うことは通常不可能だ。部品メーカーにとっては大手メーカーから積層造形の設計図が来なければ取り組みようがない面もある。自動車部品は量産を前提としているので本質的に積層造形の適用は難しい。ベンツの高級車なら、積層造形の部品を搭載して先進技術の採用をアピールすれば、すごいクルマということで買ってもらえるが、日本はそうではない。

オーダーメイド医療が有望

―― 現在はどんな分野に注目していますか。

 医療分野に注力しているところだ。一品一様の個人に合わせたところに需要があると思っている。例えば間違えて他人の入れ歯を装着すれば違和感しかないように、医療では個人に合わせる必要がある。この3Dプリンタの特徴を生かせるオーダーメイド医療に取り組む。

 今取り組んでいるのは股関節の疾患で、骨盤側に取り付ける純チタン製のカップを造形する。大腿骨は骨盤にあるくぼみにはまっており、その間に軟骨があるが、足を動かすたびに軟骨がすり減っていき、痛みや動きづらさが出ることがある。この股関節の疾患の治療用となる体内埋め込み部品に取り組む。

 現状ではアメリカから輸入した製品をベースに患者の骨を削るなどの形をとっている。しかし日本人とアメリカ人では根本的に体格が異なるし、日本人には正座のような独特の習慣もある。そのため日本人向けのものが必要だ。しかし従来の加工法で一人一人に合わせたカップや大腿骨を作ろうとするとコストがかかってしまう。このため名古屋市立大学病院と協力して、経済産業省のサポーティングインダストリー(戦略的基盤技術高度化支援事業、通称サポイン)の補助も受けながら開発を進めている。

 材料については純チタン製のものを開発している。生体適合性があるとして広く使用されているものは、アルミやバナジウムが含まれる64チタン合金だ。これは航空機にも使われているもので、骨と比べると硬すぎる。そのためより柔らかい純チタンでの造形を目指している。純チタンは不純物が少ない点でもより生体に適している材料だ。

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