連載
» 2018年12月28日 11時00分 公開

海外医療技術トレンド(42):欧米に負けないオーストラリアのデジタルヘルス、NSW州にみるMedtechと地域創生 (2/3)

[笹原英司,MONOist]

地域のソーシャルキャピタルが支える医療技術イノベーション創生

 これらのうち医療技術(MedTech)領域では、2018年10月、「NSW医療技術産業開発戦略」が策定・発表されている(関連情報)。表1は、MedTech領域における主要戦略テーマを示している。

表1 表1 ニューサウスウェールズ州政府の医療技術産業開発の主要戦略テーマ(2018年10月)(クリックで拡大) 出典:State of New South Wales「NSW medical technology industry development strategy」(2018年10月)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 NSW州の医療技術産業は、オーストラリア最大規模の総売上高約48億オーストラリアドル(約3733億円)、MedTech企業数約1100社、雇用者数約7000人を誇っている。その中で、産官学連携の中核的役割を果たしているのが、オーストラリア医療技術協会(MTAA)が運営するMedTechナレッジハブだ(関連情報)。MedTechナレッジハブは、医療技術情報ポータル「PulseLine」(関連情報)向けにコンテンツを開発/提供している他、デロイトと連携した包括的スキル支援(関連情報、PDF)、州政府のブースティングビジネスイノベーションプログラム(BBIP)/TechVoucherと連携した中小企業支援などを行っている。

 そして、MedTech産業振興に欠かせないのが、地域コミュニティーが蓄積するソーシャルキャピタル(信頼、社会規範、ネットワークといった社会関係資本など)の活用だ。オーストラリアでは、税を財源とする公的医療制度と民間医療保険をミックスさせた社会保障制度の下で、市民と一般医(GP)、病院、介護施設などが、ICT(例:My Health Records、地域保健医療ポータル)を介して連携する地域包括システムが構築/運用されている。例えば、NWS州内の西シドニー地区では、「より健康なコミュニティー、エンパワーされた個人、持続可能性のあるプライマリーヘルスケア労働力」をビジョンとするウェントウェスト(WentWest)の下に、西シドニー・プライマリーヘルスネットワーク(WSPHN)が構築/運用されている(関連情報)。

図2 図2 ウエストミード・リビングラボにおけるモデル化の基本コンセプト(2018年5月)(クリックで拡大) 出典:The University of Sydney「Westmead Academic Strategy 2018-2022」(2018年5月)

 西シドニー地域には、シドニー大学のデジタルヘルスイノベーション拠点である「ウエストミード応用研究センター(WARC)」(関連情報)があり、モバイル医療アプリケーションを利用した糖尿病向け疾病管理支援プログラム(関連情報)などを展開している。加えてシドニー大学は、リビングラボ構想を「2018〜2022年ウエストミード学術戦略」の柱に据えて(関連情報、PDF)、図2に示すような、「エンゲージメント(Engagement)」−「イノベーション(Innovation)」−「評価(Evaluation)」−「適用(Application)」のサイクルのコンセプトをベースに、市民を起点とする産官学連携モデルの構築に取り組んでいる。

 くしくも西シドニー地域では、2018年10月15日、日本の三井住友フィナンシャルグループと三菱重工業が、NSW州政府との間でスマートシティー開発に関する覚書を締結したことを発表している(関連情報)。スマートシティーの上位レイヤーサービスに位置するMedTech領域でも、日本企業のグローバル展開に期待したいところだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.