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» 2019年01月07日 07時00分 公開

モノづくり最前線レポート:離陸する航空機電動化の時代――この転換期に日本製造業は飛翔できるか (2/4)

[松本貴志,MONOist]

電動化はスモールスタートで、小型機は最速の移動手段にとなるか

 ECLAIRコンソーシアムでは航空機電動化が量的な意味とともに機体サイズの面においても“スモールスタート”で進むと見立てている。単発プロペラ機やVTOL機を含む小型航空機では既に推進系と装備系で電動化技術の開発が進みつつあり、技術的難易度やリスクは比較的低い。小型機の電動化技術は空飛ぶクルマなど「新しい輸送システムとして新産業創出が期待できる」(西沢氏)と認識を示す。

 一方で、航空業界におけるCO2排出総量の削減に対しては「寄与は小さい」とし、「旅客機からのモーダルシフトによるCO2排出削減の効果も期待できるかもしれない」と予測する。

 内燃機関を搭載する現在の小型固定翼機は「オンデマンドな移動ニーズに対して高い機動力を持つが、(単位座席と移動距離当たりの)燃費は良くなくそもそも移動手段としてあまり利用されていない」(西沢氏)。小型機ではピストンエンジンやターボプロップエンジンの採用が多いが、「同じ巡航速度で比較すると機体が小さくなればなるほどエネルギー効率が悪くなる。また、巡航速度も高速になればなるほどエネルギー効率が悪くなる」とする。

左:各航空機種別によるエネルギー効率の比較 右:各交通手段で比較した移動時間と距離の相関関係(クリックで拡大) 出典:航空機電動化コンソーシアム

 VTOL機を含む小型航空機の推進系純電動化はこれら課題を解決し、オンデマンド移動ニーズに対して最速の移動手段になる可能性を持つという。「機動性の高さを維持しつつ、現在の旅客機並みにCO2排出量を低減できる。旅客機は空港のアクセス時間や待ち時間、タキシング等で移動時間の合計で見るとロスが多いが、VTOL機では巡航速度が低速であっても“エアタクシー”として移動時間の短縮に寄与する可能性がある」(西沢氏)。

 西沢氏は、電動小型機の社会実装過程について「固定翼機は既にFAR(米国連邦航空規則)で耐空性基準が定まっており、小サイズで巡航速度が低速なものから2020年前後から普及が始まるとみられる。VTOL機は耐空性基準が暫定で策定される見通しで、非商用かつ人口密集地の外で2020年代前半から社会実装が進むと考えられる」と述べた。

小型固定翼機と小型VTOL機の社会実装時期目標(クリックで拡大) 出典:航空機電動化コンソーシアム

技術リスクが高い旅客機、推進系はハイブリッド化で進むか

 航空業界のCO2排出低減で最も重要な存在となるのはやはり旅客機だ。旅客機は航空機全体におけるCO2排出総量で大部分を占めているが、その電動化技術は装備系で採用が始まったばかりで推進系はほぼ未開拓な分野となる。西沢氏は「航空業界のCO2排出を低減させるには旅客機の電動化が必須だ。技術リスクは小型機よりも高いが、推進系の電動化も待ったなしの状況だ」と語る。

2050年における旅客機機体サイズとCO2排出量の比率(クリックで拡大) 出典:航空機電動化コンソーシアム

 小型機では推進系の純電動化が主流となるが、旅客機は航続距離の面から内燃機関を併用するハイブリッド方式で電動化が進むとみられる。ここで、西沢氏は「航空機は回生電力が発生しないのでハイブリッドを採用する意味がないと考える人もいるが、航空機は車とは違う考え方でハイブリッドの利点がある」と指摘する。

 西沢氏は初期のハイブリッド方式として有望なシステムとして、パラレルハイブリッドとシリーズ・パラレル・パーシャルハイブリッド、また高度な電動化技術が求められ技術的に高リスクだが革新的な改善が望めるシステムとしてシリーズハイブリッドを挙げた。

左:各ハイブリッド方式の概要 右:各ハイブリッド方式の導入時期と効果予測(クリックで拡大) 出典:航空機電動化コンソーシアム

 パラレルハイブリッドとシリーズ・パラレル・パーシャルハイブリッドでは、ジェットエンジンが引き続き必要推力の一部を発生させる役目を担う。パラレルハイブリッドはバッテリーに接続されたモーターがエンジン軸動力の一部をアシストする方式で、シリーズ・パラレル・パーシャルハイブリッドはエンジン軸動力の一部を発電機により電力に変換し、胴体尾部に設置されたBLI(Boundary Layer Ingestion:境界層吸い込み。胴体の境界層を吸い込むファンで、胴体で発生する摩擦抵抗を抑制する効果が期待できる)を駆動する方式となる。

 西沢氏は、「旅客機における最初の電動化手法で有望に見えるのはシリーズ・パラレル・パーシャルハイブリッドだ。この方式は現在の機体形状として一般的なチューブ&ウィング形状で実現でき、電動化の規模も抑えることが可能だ」と説明する。パラレルハイブリッドとシリーズ・パラレル・パーシャルハイブリッドは2030年代から実装され始めるとみられ、従来技術から約10%程度のエネルギー消費低減を果たすとする。

 また、シリーズハイブリッドは機体に搭載したガスタービンの軸動力全てで発電を行い、多発分散設置された電動ファンを駆動するというもの。この方式ではファンの設置自由度が高くなるため、機体形状をチューブ&ウィング形状からさらに効率的なBWB(Blended Wing Body:翼と胴体が一体となった機体形状)とすることができ、さらには燃料電池と組み合わせた複合サイクル化も可能だ。2040年代からの社会実装が予測され、従来技術から30%以上のエネルギー消費低減が見込まれている。

 西沢氏は、将来の旅客機について「最終的には機体形状も従来とは全く異なり、多くの電動ファンを搭載した形態になるだろう」と述べるが、その実現にはパワーエレクトロニクスや電池、先進材料等の幅広い技術分野で解決すべき課題が存在している。

ハイブリッド方式の理想形となるバイオ燃料、複合サイクル、超電導モーターを採用したBWB機のイメージ(クリックで拡大) 出典:航空機電動化コンソーシアム

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