「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
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» 2019年01月10日 10時00分 公開

世界自動車市場前年割れの衝撃、成長鈍化が前提の生き残り策に舵を切れIHS Future Mobility Insight(10)(3/3 ページ)

[濱田理美(IHS マークイット), 川野義昭(IHS Markit Automotive),MONOist]
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「オートモーティブ・パラドックス」にどう対応するのか

 ここからは、川野氏によるグローバルの自動車販売動向に基づく分析を紹介する。



IHS Markit Automotiveの川野義昭氏 IHS Markit Automotiveの川野義昭氏

 自動車の生産動向と販売動向がほぼ一致している国や地域は、“地産地消”に取り組んでいるといえる。インドを中心とした新興国がそれにあたる。一方、日本や韓国、ドイツといった自動車の輸出国は、生産台数が販売台数を大きく上回っている。

 2025年までの主要市場における自動車の販売台数予測を見ると、年平均で約2%程度の成長となる。新興国市場では、インドや東南アジアなどが全体の成長率平均を上回る。一方、既に成熟している欧州や北米といった市場は、買い替え需要で支えられている状態だ。世界全体の販売比率を見ると、2025年には新興国が60%を越えると予測している(図4)。

図4 図4 2025年までのグローバルにおけるライトビークルの販売動向。棒グラフは地域別の販売台数を、赤色の折れ線グラフは世界全体に対する新興国市場の割合を示している(クリックで拡大)

 とはいえ、自動車産業は政治リスクや貿易リスクに左右される比率が高い。例えば、米国では政策金利が3%以上になると、自動車販売に影響及ぼすといわれている。その背景にはローンを組んで(銀行からお金を借りて)購入する顧客が大半だからだ。この傾向は、インドやブラジルでも同様である。一方、中国では現金で購入する人が多いことから、政策金利の変動に伴う影響は限定的だ。

 では「電動化」「自動運転」「MaaS(Mobility as a Service)」など新技術の観点から、主要地域の自動車販売の動向を見てみよう(図5)。

図5 図5 自動車市場の主要地域別に見る新技術の普及予測とその影響(クリックで拡大)

 EV(電気自動車)の普及によってもたらされる電動化は、排気ガスや燃費の削減に向けて世界全域で進むと予想される。一方、自動運転については、インドなどの新興国では自動車購買の動機になっていない。車線を守って走行しないことが多いインドに代表されるように、新興国では交通ルールが“軽視”される傾向にあり、そういった地域は自動運転の普及が可能な状況とはいえないからだ。

 これらの新技術の中で注目したいのは、MaaSの普及によるインパクトである。グローバルの自動車販売台数は、2021年以降には1億台を突破すると予測されているが、個人が必要とする自動車は減少し、その代わりに法人向けフリート販売が増加する。いわゆる「オートモーティブ・パラドックス」だ。日本でも自動車は「ステータスとしての所有」から「移動の手段」に利用者の意識が変わりつつあり、カーシェアリング利用拡大の機運が高まっている。今後、自動車メーカーは「シェアリングを前提とした自動車」の開発にも注力する必要があるだろう。

 ただし、国ごとに見ると、MaaSが普及する要因はそれぞれ異なる。例えば、インドでは個人の自動車保有率はまだ低く、当初はライドシェアリングビジネスの拡大とともに個人の自動車所有率も向上するだろう。今後のインドで自動車販売台数の成長率が向上すると予測するのは、このことが背景にある。

 また中国は、中国全体で見ると自動車の保有率は欧州、北米と比較して低いものの、人口が集中する湾岸都市部については渋滞や駐車場不足、大気汚染など社会的問題に直面するような状況にある。もちろん、モビリティに対するニーズや期待は大きいが、「自分で運転したい」というニーズは他地域に比較して低い。MaaSの市場成長にとっては理想的といえるだろう。

 その一方で、欧州ではMaaSが普及しないとみられる。これは、タクシー組合が強く、カーシェアリングが事業主体として成立しにくいからだ。この傾向は日本も同様である。

 このように、新技術による自動車販売動向へのインパクトは、地域特性によって大きく左右される。北米や欧州、日本の自動車メーカーはCASEの開発に積極的だが、その競争も激しい。全ての市場に受け入れられる新技術(搭載自動車)を販売するのは困難だと考えてよいだろう。濱田(氏)も指摘している通り、今後、自動車メーカーには地域特性を鑑み、「集中」と「選択」の戦略が求められているのだ。

プロフィール

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濱田 理美(はまだ さとみ) IHS マークイット 日本ビークル・プロダクション・フォーキャスト シニア アナリスト

ティア1サプライヤーの国内外OEM向け営業・マーケティングを経て、2012年より現職。国内の車両生産予測に加え、日系自動車メーカーを中心にグローバル主要各国の生産・販売動向、各自動車メーカーの事業戦略や業界動向の調査・分析を行い、顧客の業務全般をサポート。


プロフィール

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川野 義昭(かわの よしあき) IHS Markit Automotive 日本・韓国ビークル・セールス・フォーキャスト マネージャー

2002年シアトル大学経営大学院修了後、自動車専門の民間消費者調査会社を経て08年csm ワールドワイド(現IHSオートモーティブ)入社。一貫して車両販売における市場動向の調査、分析・需要予測を担当。

所属学会:産業学会、日本エネルギー学会、行動経済学会、交通工学研究会、日本マーケティング学会、日本統計学会、応用経済時系列研究会など


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