トランプ政権の「SAFE」で激変する米国燃費規制、中国はEV普及をさらに加速IHS Future Mobility Insight(11)(2/3 ページ)

» 2019年01月30日 10時00分 公開

自動車メーカーの願いは「規制の一本化」

 CAFE/GHG規制案は、NHTSAとEPAが広範囲にわたる調査と分析に基づいて作成した。注目したいのは、両方とも「MY2026」まで「MY2020」の基準を維持するという方針であることだ。Domestic/Import Passenger Car(いわゆる自家用車)とLight Truck(ピックアップトラックなど貨物の積載量が4000ポンド未満のトラック)向けの「フットプリント」または「サイズベース」の目標カーブがゼロになっている。つまり、2020年の規制値を2026年まで維持することが、トランプ政権の提案である。

 これが実現すると、どのようなことが起こるのか。図3は左側が乗用車、右側がピックアップトラックのCAFEを、自動車メーカーの国別にグラフ化したものである。最上位にある赤色の点線がオバマ前政権で達成すべき目標で、CAFE/GHG規制案が上から2番目にある赤色の実線だ。

図3 図3 “Preferred Alternative”の展望。ほとんどの日本の自動車メーカー(濃紺マーク)は2026年まで燃費を改善する必要がなくなる(クリックで拡大)

 もし、CAFE/GHG規制案が実現すれば、多くの日本の自動車メーカー(濃紺マーク)は2026年まで燃費を改善する必要がなくなる。なぜなら、内燃機関を搭載する車両だけで規制を達成しているからだ。そうなれば、電動化戦略も見直しが必要になるだろう。また、多くの自動車メーカーやサプライヤーは、フレキシビリティやインセンティブに関する拡大要求を提出している。こうした要求が通れば、自動車メーカーはパワートレインの改善を短期間に急ぐ必要はなくなる(可能性が高い)。

 さらにトランプ政権は、カリフォルニア州のGHG規制/ZEV規制も撤廃しようとしている。もし、CAFE/GHG緩和に加えてこれら規制が撤廃されれば、自動車メーカーは規制達成のために、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)といった電動車両(いわゆるエコカー)製品を米国市場に投入/拡大する必要もなくなるのだ。

 これらの方針は2019年前半に決定するが、先行きは不透明だ。ちなみにカリフォルニア州は、CAA強制排除権免責を剥奪すれば、法廷闘争する姿勢を貫いている。

 こうした規制緩和の動きを自動車メーカーはどのように捉えているのか――。もろ手を挙げて歓迎していると考えるのは間違いだ。どのベンダーでも「燃費規制は少しずつでも厳しくすべき」であるとのスタンスであり、「トランプ政権、やりすぎ」というのが本音だろう。

 自動車メーカーが望むのは、連邦政府とカリフォルニア州が協力し、規制を一本化することだ。州によって販売できる車種が異なるという混乱は避けたい。さらに法廷闘争になれば、判決が出るまで特定の車種は販売できないという事態に陥る。

 振り返れば、2009年にブッシュ政権からオバマ政権に交代した時には、規制強化が一気に進んだ。トランプ政権の規制緩和は、その揺り戻しのようにも見える。つまり、2020年の大統領選挙以降は、再び揺り戻しがあるかもしれない。

 もし揺り戻しが起これば、自動車メーカーは厳格な規制に直面するだろう。もっとも、自動車メーカーには次の規制強化まで電動化車両の導入と内燃機関改善計画を維持し、クレジットを蓄積するという選択肢が残されている(図4)。

図4 図4 GHG/CAFE規制に想定される将来シナリオ(クリックで拡大)

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