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» 2019年01月29日 06時00分 公開

エコカー技術:熱効率50%をより実用的に、SIPから生まれた「モデルベース燃焼制御システム」 (1/3)

科学技術振興機構(JST)は2019年1月28日、東京都内で戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の取り組みの1つである「革新的燃焼技術」の成果を報告する公開シンポジウムを実施した。

[齊藤由希,MONOist]

 科学技術振興機構(JST)は2019年1月28日、東京都内で戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の取り組みの1つである「革新的燃焼技術」の成果を報告する公開シンポジウムを実施した。

革新的燃焼技術のプログラムディレクターであるトヨタ自動車の杉山雅則氏(クリックして拡大)

 SIPがスタートしたのは2014年度で、2018年度が最終年度となる。当初、革新的燃焼技術のプログラムではガソリンエンジンとディーゼルエンジンの正味最高熱効率を50%に引き上げることを目標に掲げた。2014〜2018年度の5年間で、参画した産学の研究者は延べ1300人に上る。また、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)からは毎年120人が支援した。

 5年間の取り組みの成果として、革新的燃焼技術プログラムはガソリンエンジンで51.5%、ディーゼルエンジンで50.1%の正味最高熱効率を得たと発表した(※1)。これは、ガソリンエンジンの超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)とディーゼルエンジンの高速空間燃焼が実現したことによるものだ。また、両方のエンジンに共通する機械摩擦損失の低減、ターボ過給システムや熱電変換システムの効率向上に関する技術を開発し、これらの技術を統合することにより、50%を超える正味最高熱効率を達成した。

(※1)関連記事:熱効率50%に達するクルマのエンジン、オールジャパンの研究が支える

知見はソフトウェアやモデルに

 革新的燃焼技術のプログラムでは、各分野の研究で得た知見をモデルやソフトウェアの形式にまとめることを重視してきた。成果を自動車用エンジンの次の研究開発に継承しやすくするとともに、燃焼や流体を扱う自動車以外の産業分野においてモデルベース開発(MBD)を推進するためだ。成果をまとめたデータベースも構築する。

 その成果として3次元燃焼解析ソフトウェア「HINOCA(火神)」(※2)、ガソリンの粒子状物質(PM)の生成をモデル化した「RYUCA(粒神)」、エンジン燃焼のモデルベース制御システム「RAICA(雷神)」がある。HINOCAとRAICAについては、書籍として出版する。

(※2)関連記事:メッシュ作成が不要の国産エンジン解析ツール、熱効率50%を目指す

燃焼設計だけでは性能は実現しない

デモに用いたテストベンチの構成(クリックして拡大) 出典:東京大学

 シンポジウムの開催に合わせて、RAICAのエンジン制御システムについて、SIP 革新的燃焼技術の制御チーム 制御グループ グループリーダーの山崎由大氏(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)がディーゼルエンジンを使ったデモンストレーションを実施した。

 デモでは、3段噴射の双峰形部分予混合化燃焼を行うディーゼルエンジンを用いた。この燃焼技術はSIPで開発したもので、単段噴射や2段噴射よりも優れた熱効率の向上と騒音低減が実現できる。“双峰形”は燃料が燃焼したタイミングを示す熱発生率(J/deg)のグラフが2つの山を示すことが由来だ。しかし、この新しい燃焼はハードウェアだけでは成立しない。

 テストベンチは、排気量2.8l(リットル)のディーゼルエンジンとダイナモメーター、ECUとエンジン制御システム、ドライブシミュレーターという構成だ。ドライブシミュレーター上でのアクセル操作に応じて、ディーゼルエンジンベンチもリアルタイムに動作する。このテストベンチにおいて、従来のマップ制御(※3)とRAICAによる制御を比較した。

(※3)現状では、あらゆる条件下でエンジンを作動させる実験で得た数値をマップ(表)化することで量産車のエンジンの制御技術を開発している。ECUは走行条件に合わせてマップから最適な値を参照してエンジンの動作を決める。信頼性の高い手法だが、高度な燃焼コンセプトを実現する精度が確保できなくなる可能性がある。

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