「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

「CES 2019」に見る、MaaSのインパクト次世代モビリティの行方(3)(3/3 ページ)

» 2019年02月04日 10時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

MaaSで注目される「Lightweight」とは

 米国では商用施設やホテルなどにUberやLyft専用の乗り場が整備されているほど、ライドシェアサービスが浸透している。このライドシェアをMaaSと同義に捉える人もいるが、MaaSとはもっと広義なものだ。

 MaaSとは、複数の交通手段の中から、個人の嗜好や要望、その時々の状況に応じて最適な移動手段をワンストップで提案するというものだ。ライドシェアサービスはその移動手段の1つにすぎず、他にもバスや鉄道、飛行機なども含む。これらの乗り物を自律化することで、安全性を保ちながら利便性を向上させるとともに乗車コストを下げられるとして期待されている。

 このMaaS領域において最近注目されているのが「Lightweight」と呼ばれる乗り物だ。これは、家のドアから目的地のドアまで、ファーストワンマイルからラストワンマイルまでを含む移動を意識したもので、既にバイクシェアやシェアスクータなどのサービスが展開されている。身軽かつ渋滞を避けての移動などのメリットがあるからだ。これらのLightweight Vehicleも、いずれは自律走行により自分の目の前までやってくるようになることは容易に予想できる。現にセグウェイ(Segway)も、自分の目の前まで自動走行でやってくることキックスクータの研究開発を進めている。実現すれば、放置スクータなどの問題も解決される可能性がある。

 また、ファーストワンマイル、ラストワンマイルを意識しているのは人の移動だけではない。物流領域においても、仮に自動運転車による宅配が実現したところで、どのようにして荷物を玄関まで運ぶかが課題になっており、ここも広義にはMaaSの領域だと考える。過去にはフォード(Ford Motor)やメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)からラストワンマイルをドローンで届けるコンセプトが提案されたが、CEES 2019で注目を集めたのがコンチネンタル(Continental)だ。コンチネンタルは、自動運転宅配車から配達先のドアまで届ける犬型ロボットを提案した。これにより玄関先に荷物を届けることでラストワンマイルを解決しようというものだ。MaaSを考えるときはこのようなモノの移動も含めて考えていくと、より新たなビジネス創出につながるだろう。

コンチネンタルの犬型ロボット コンチネンタルの犬型ロボットは自動運転宅配車から降りて荷物を乗せ換え、ドアまで運ぶ(クリックで拡大)

ベルが「空飛ぶタクシー」を披露

 マイカーの数を減らすことで、環境問題への対応や渋滞緩和を目指すライドシェアにもまだまだ課題は存在する。自動車に頼り続けている限り渋滞解消は難しいのでないかとして、Uberを中心に考えられているのが「空飛ぶタクシー」だ。Uberは2023年の商用化を目指した調整を進めている他、2018年12月には日本でも空飛ぶタクシーのロードマップが策定され話題となっている。今回のCES 2019で注目を集めたのは、Uberへの機体供給パートナーでもあるベル(Bell)が提案する、4人(パイロットを含めると5人)乗りの空飛ぶタクシーだ。

 空飛ぶタクシーは、道路を使用しないことから渋滞を回避でき、より短時間で目的地に人を運べるとして、世界中で注目を集めている。また、例えば米国でミシガンからシカゴに移動しようとした場合、五大湖があるため回り道が必要となるが上空を通過できればかなりの時間をセーブできることになる。

ベルの空飛ぶタクシー ベルの空飛ぶタクシーは、サービス開始当初はパイロットによる運転を想定しているが、いずれは自動運転に移行する計画(クリックで拡大)

 空飛ぶタクシーへの注目は意外にも欧州で強い。これは、イタルデザイン(Italdesign)のMassimo Martinotti氏によると「欧州は細い道が多く渋滞が慢性化していることから、街中からクルマを排除しようという動きがある」ためだ。これはライドシェアが早くから促進されている理由の1つでもあるが、クルマが街中に存在していることには変わりないため「道を通らない」空飛ぶタクシーの検討が進んでいるそうだ。

 ベルのCEOであるMitch Snyder氏によると、2020年代半ばの商用化を目指すものの、そもそもこの類の移動手段の名称さえも定義されていない状態であり、現在米国連邦航空局(FAA)との協議を進めているとしている。

 このような移動手段の進化、多様化は、インフラ面や他産業にも大きな影響を与える可能性がある。例えば、空飛ぶタクシーの場合、乗降のためのスペースや充電インフラの確保も必要になる。また、現在開発が進められているハイパーループ(Hyperloop)は、将来的には最高時速1200kmになるとも言われているが、移動時間の大幅短縮は、例えばこれまで宿泊が必要であった場所への移動も日帰りが可能となり、ホテル業界にまで影響を与えかねない。



 このように、MaaSは、単なる移動の最適化を実現するだけでなく、インフラや他産業への影響も伴う。さらに、それぞれの国や都市によっても事情が異なることから、1つの成功事例を横展開できるわけでもない。それぞれのユースケースに応じたMaaSの検討と、そのためのインフラ整備が重要なる。このことが、多くの課題を伴う一方で、MaaSがビッグビジネスになると期待されている理由でもあるのだ。

筆者プロフィール

吉岡 佐和子(よしおか さわこ)

日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.