コードレスでもサクサク作業、36Vコードレス電動工具を推進するHiKOKIモノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

工機ホールディングスは2019年2月25日、記者向けに工場見学会を開催し、同社の戦略製品であるコードレス電動工具「マルチボルトシリーズ」の特徴や使い勝手をアピールした。同社はコードレス電動工具の性能向上を目的に36Vバッテリー化を推進しており、5〜6年後をめどに全製品を36V対応とする予定だ。

» 2019年02月27日 14時00分 公開
[松本貴志MONOist]

 工機ホールディングスは2019年2月25日、記者向けに工場見学会を開催し、同社の戦略製品であるコードレス電動工具「マルチボルトシリーズ」の特徴や使い勝手をアピールした。同社はコードレス電動工具の性能向上を目的に36Vバッテリー化を推進しており、5〜6年後をめどに全製品を36V対応とする予定だ。

コードレスセーバーソー「CR36DA」で木材を切る様子(クリックで拡大)

18Vバッテリーと同じサイズ、18V機器との互換性も確保

 旧社名「日立工機」から2018年6月に社名変更を行った工機ホールディングスは、70年の歴史を持つ老舗の電動工具メーカーだ。同年10月に製品ブランドを「HiKOKI」へと一新し、製品競争力やマーケティングコミュニケーションの強化に取り組んでいる。

 同社製品の主な顧客は製造現場や建築現場で働くプロフェッショナルな職人だ。同社で研究開発本部 第二設計部⻑ 兼 第四設計部⻑を務める仲野義博氏は、製品の設計思想について「プロの顧客がどこでも思い通りに使うことができることを指向している」と話す。既成概念による当たり前品質を提供する設計から、新しいアイデアを取り込み魅力的なユーザー体験を実現する「デライト(Delight)設計」を心掛けていると説明した。

 同社製のコードレス電動工具は、高性能かつ小型を実現した高耐久ブラシレスモーター、小型化と低振動を両立する新機構、そして高い安全を維持しつつ高容量化を達成したバッテリーをコア技術としている。コードレス工具の製品ラインアップで主力を担う「マルチボルトシリーズ」はこれらの集大成ともいえる存在だ。

工機ホールディングスのコア技術(クリックで拡大)

 マルチボルトシリーズは、コードレス工具の取り回しの良さと電源コード付き電動工具(以下、AC工具)のパワフルさを兼ねそろえていることが特徴。仲野氏は、これまでの電動工具市場について「ユーザーはパワー、耐久性、精度、取り回し性を求めている。AC工具はパワーの大きなものから小さなものまでラインアップが豊富だが、電源コードがついていることから取り回し性に劣る部分がある。一方で、コードレス工具はコードがなく使い勝手に勝るがパワーがないことが欠点だった」と語り、「取り回し性能に優れパワーもあるという市場のホワイトスペースを狙った製品がマルチボルトシリーズになる」と製品の概要を説明した。

 高出力を生み出すマルチボルトシリーズのカギはバッテリーにある。一般的なプロ向けコードレス工具では18V供給のバッテリーが用いられているが、マルチボルトシリーズでは高電圧化し、36Vのバッテリーを採用している。マルチボルトバッテリーの効果をコードレス丸のこの性能面で例示すると、18V従来品「C18DBL」からマルチボルトシリーズ「C3605DA」で切断スピードと作業中に工具の止まりにくさを示す“ねばり”に約2倍の改善があったとする。「マルチボルトシリーズはAC工具と同等のパワーを発揮する」(仲野氏)と、従来のコードレス工具から大幅な性能向上を果たしたことを強調した。

コードレス丸のこにおける従来品とマルチボルトシリーズの比較(クリックで拡大)

 一方で、マルチボルトバッテリーの開発には多くの課題があったという。コードレス工具の取り回しの良さを維持するため、バッテリー重量の増加はできる限り抑える必要があった。また、マルチボルトシリーズ専用品としてしまうと普及しにくいと予想されるため、主流である既存の18V対応工具と充電器にもマルチボルトバッテリーを使用できる互換性が求められた。この場合、マルチボルトシリーズと18V対応工具で供給電圧を切り替える機構も必要となる。

 HiKOKIでは電池セルのサプライヤーと協力し、従来品と同等の質量とサイズにしつつも出力2倍となる新型高出力セルを採用した。また、マルチボルトバッテリーの取り付け部を18Vバッテリーと同形状とすることで互換性も確保した。

マルチボルトバッテリーの概要(クリックで拡大)

 そして供給電圧の切り替え機構も端子構造を工夫したことにより実現している。マルチボルトシリーズの端子は上下に分割された構造となっており、マルチボルトバッテリーを接続すると、18Vユニット2つが直列回路となることで36Vの供給が可能だ。一方、従来品の端子は上下に分割されていない一枚もの構造なので、マルチボルトバッテリーを接続すると、電池セル5個1組の18Vユニット2つが並列の回路構成となる。仲野氏は「従来品の電池形状と同じスペースにこの機構を入れることに非常に苦労した」と開発当時を振り返る。

左:端子構造の比較 右:マルチボルトバッテリーを従来品とマルチボルトシリーズに接続した場合の比較(クリックで拡大)

 よって、マルチボルトバッテリー「BSL36B18」を例に挙げると、マルチボルトシリーズの工具で用いる場合に供給電圧36V・放電容量4.0Ahの性能を発揮する電池、従来の18V工具で用いる場合には供給電圧18V・放電容量8.0Ahの性能を発揮する電池となる。高電圧によるモーター駆動の効率化や作業効率の向上により、従来の18Vバッテリーと同程度の作業量を確保している。

 また、マルチボルトシリーズはAC-DCアダプターを用いることで、コンセント電源を確保できる場所では「無限に作業できる」(HiKOKI担当者)。マルチボルトバッテリーとAC-DCアダプターの組み合わせによって、あらゆる環境でAC工具並みの作業効率を実現するという。

 同社では、プロ向け電動工具のコードレス化を推し進める武器としてマルチボルトシリーズの製品ラインアップ拡大を目指す。コードレス電動工具の全製品をマルチボルトシリーズとする方針で、「全製品の36V化は5〜6年後をめどにやっていく」(仲野氏)としている。

左:マルチボルトシリーズの製品ラインアップ 右:マルチボルトバッテリー(右)と従来バッテリー(クリックで拡大)
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