トヨタ車が月を走る、燃料電池搭載の有人与圧ローバをJAXAと共同開発宇宙開発(2/2 ページ)

» 2019年03月13日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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有人月面探査を2030年代前半に想定

 さまざまな国と地域が協力して行う国際宇宙探査ミッションでは、人類の持続的な繁栄を目指し、「人類の活動領域の拡大」と「知的資産の創出」を目的として、人類が大気圏を超え、月、火星に到達することを目指している。JAXAも、その参画に向けて国際調整や技術検討を進めており、日本として優位性や波及効果が見込まれる技術で貢献していく方針だ。

 現在は、日本の国際宇宙探査への参画に向けて、シナリオの検討や具体的なミッションの技術検討を行っている段階。この中で有人与圧ローバは、2030年代に想定している有人月面探査を支える重要な要素となっており、2029年の打上げを目指している。

「有人与圧ローバ」によるミッション構想打ち上げ環境と月面環境の要求 2030年代前半に想定する「有人与圧ローバ」によるミッション構想(左)。その打ち上げ環境と月面環境ではさまざまなことが求められる(右)(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 月は、6分の1の重力がある重力天体だ。その地表面にはクレータ、崖、丘が存在し、地球と比べて過酷な放射線環境や温度環境、極高真空環境にさらされる。広域の有人月面探査には、そのような環境でも1万km以上を走破できる有人与圧ローバが必要になる。このミッション要求と、トヨタ自動車が考える“宇宙でのモビリティ”構想が一致し、2018年5月から両者共同で有人与圧ローバの概念検討を行っていた。

 これまでの共同検討で、有人与圧ローバシステムの1次案を検討し、解決しなければならない技術課題の識別を終えたという。今後は、それらの技術課題について、両者が持つ技術、人材、知見などを生かし、着実に解決していく方針だ。JAXA 理事の若田光一氏は「国際宇宙探査は、未知なる世界への挑戦だ。そのためには、我が国の技術力を結集して“チームジャパン”として取り組んでいくことが重要だと考えている。今回のトヨタ自動車との連携をきっかけに、さらにチームメイトが増え、“チームジャパン”として国際宇宙探査に挑戦し続けていきたい」と強調する。

 トヨタ自動車 取締役 副社長の寺師茂樹氏は「私たちのクルマづくり、さらに、燃料電池をはじめとした電動車両、そして自動運転の技術を通じ、今回の月面でのプロジェクトに参画できることは、エンジニアにとってこの上ない喜びであり、非常にワクワクしている。電動車両は普及しないと地球環境への貢献にはならない。トヨタは『電動化フルライン』メーカーとして、電動車両の普及を目指して完成車だけでなく、システムや技術などさまざまな形でお客さまに提供したいと考えている。今回の共同検討もその一環であり、“チームジャパン”の一員に仲間入りさせていただき宇宙にチャレンジしたい」と述べる。

 また、JAXA 理事長の山川宏氏は「今回、トヨタ自動車が国際宇宙探査に挑戦する“仲間”に加わることを大変心強く思う。今後の共同検討により、トヨタ自動車の優れた走行に関する技術力を活用させてもらい、有人与圧ローバの実現に向けて、技術検討が加速していくことを期待している」と語る。

 トヨタ自動車 社長の豊田章男氏も「自動車業界としては、これまで『ホームタウン』『ホームカントリー』を念頭に取り組んできたが、これからは、地球規模の環境問題への対応など、われわれの故郷である『ホームプラネット』という概念が非常に大切になってくる。国、地域といった枠を超えて、どのような役割を果たしていけるのかを考え続けている私たちと、国際宇宙探査は志を同じくするものだと思う。また、クルマは地球上のあらゆる地域で使われており、地域によっては生きて帰ってくるための相棒として活躍している。今回のプロジェクトに求められることは、まさに生きて帰ってくるということだと思う。そうしたプロジェクトに、これまで培ってきたトヨタの車両の『耐久性、走破性』と『FC』という環境技術に期待を寄せていただいていることを大変うれしく思う」とコメントを寄せている。

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