「はやぶさ2」は舞い降りた、3億km彼方の星に、わずか1mの誤差で次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(13)(2/4 ページ)

» 2019年03月19日 10時00分 公開
[大塚実MONOist]

より広いL08-B1ではなく、L08-E1に決めたワケ

 はやぶさ2には、初号機になかったミッション機器として、「インパクタ(衝突装置)」が搭載されている※2、3)。インパクタは、小惑星表面に人工クレーターを作り出すための装置なのだが、露出した小惑星の地下物質を採取するためには、クレーター付近に精度良く降下する必要がある。本来このために用意されていたのがピンポイントタッチダウンだ。

※)関連記事:小惑星に人工クレーターを作れ! 〜インパクタの役割と仕組み【前編】〜

※)関連記事:爆発までの40分間で小惑星の裏側に退避せよ! 〜インパクタの役割と仕組み【後編】〜

 ピンポイントタッチダウンでは、ターゲットマーカーを事前に小惑星表面に落としておき、それを目印にして降下を行う。探査機のフラッシュを光らせると、それを反射してターゲットマーカーも光るので、カメラの画像処理で容易に識別できる。ターゲットマーカーの投下座標は正確に分かっているので、いわば「灯台」として使えるというわけだ。

 通常のタッチダウンでもターゲットマーカーは投下するが、従来方式は投下して落下するターゲットマーカーを追尾するため、着陸精度はターゲットマーカーの投下精度で決まっていた。しかし、ピンポイントタッチダウンは事前に投下しておいて、それに対してオフセットすることも可能なので、着陸精度は投下精度に依存しない。

従来のタッチダウン(左)と、ピンポイントタッチダウン(右)の違い 従来のタッチダウン(左)と、ピンポイントタッチダウン(右)の違い。複数のターゲットマーカーを使うことも可能だ(クリックで拡大) 出典:JAXA

 ただ、ピンポイントタッチダウンでも精度はまだ足りなかった。そのため、小惑星モデルをより高精度化して、重力の影響をさらに正確に評価したり、自律制御のパラメータを最適化し、探査機の位置制御や姿勢制御をより細かく行えるようにしたりなど、さまざまな対策を施した。また今回の地形にあわせ、着陸時の姿勢を傾けることで、安全性も高めた。

高精度化のために、追加で行った対策 高精度化のために、追加で行った対策。従来は真下に降りていく予定だったが、斜めに降下する方式に(クリックで拡大) 出典:JAXA

 こうした努力を積み上げた結果、着陸精度の見積もりは±2.7mとなり、ようやく実現のめどが立った。そしてタッチダウン当日、はやぶさ2が実際に着陸したのは、L08-E1の中心からわずか1m程度しか離れていない場所。まさに「ピンポイント」と呼ぶにふさわしい、見事な誘導制御だった。

実際の着陸場所 実際の着陸場所。L08-E1の中心には、やや大きめの岩があったのだが、ちょうどその横の平らな場所にサンプラーホーンが接地したようだ(クリックで拡大) 出典:JAXA

 しかしオフセットが可能とはいえ、ピンポイントタッチダウンの精度は、ターゲットマーカーから離れるほど低下してしまう。当初計画していた「L08-B1」は幅12mほどあり、L08-E1よりも広かったが、ターゲットマーカーから15mほど離れていたため、精度が成立しなかった。投下地点のすぐそばにL08-E1が見つかったのは幸運だったといえる。

タッチダウン候補地点の位置関係 タッチダウン候補地点の位置関係。L08-B1(赤)は広いが遠い、L08-E1(緑)は近いが狭い、というトレードオフになっていた(クリックで拡大) 出典:JAXA

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