北欧型AI戦略とリビングラボから俯瞰する医療機器開発の方向性海外医療技術トレンド(45)(2/3 ページ)

» 2019年03月29日 15時00分 公開
[笹原英司MONOist]

EU域内や北欧・バルト海地域と共通のAI戦略基盤

 そして、デンマーク国家AI戦略のベースになっているのが、2018年4月10日、デンマークを含む24のEU加盟国およびノルウェーが共同で署名した「人工知能に関する協力宣言」(関連情報)である。これを受けた具体的なアクションの一環として、同年12月7日、欧州委員会が「人工知能に関する調整計画」(関連情報を発表している。計画の概要は以下の通りである。

  1. パートナーシップを介して投資を最大化する
    • 国家AI戦略:2019年半ばまでに、全加盟国が国家AI戦略を策定し、投資レベルの概要を示す
    • 新たな欧州官民連携パートナーシップ:AIに関する新たな研究イノベーション・パートナーシップを創設する
    • 新たなAI拡大基金:欧州委員会は、AIおよびブロックチェーンのスタートアップ・イノベーターに対して、アーリーステージおよび拡大フェーズの双方で支援する
    • 世界を先導するAIセンターの構築・接続:欧州AIエクセレンスセンターが構築・接続され、世界的に参照される検証施設が創設される
  2. 欧州のデータ空間を創造する
    • 欧州委員会は、2019年半ばまでにデータ共有支援センターを立ち上げる
  3. 人材、スキル、生涯学習を育成する
    • 欧州委員会は、各国とともに、AIに特化した上級学位プログラムや、デジタルスキル向上のための生涯教育を支援する
  4. 倫理的で信頼性のあるAIを構築する
    • 欧州委員会は、2018年末までに「信頼性のあるAI倫理ガイドライン」草案を公表し、2019年3月に最終版を提示する

 また、EU主導の「人工知能に関する協力宣言」と合わせて、デンマークのAI戦略のベースになっているのが、2018年5月14日、北欧閣僚理事会(2018年当時の議長国:スウェーデン)とバルト海諸国が連携して共同署名した「北欧・バルト海地域におけるAI」協力宣言(関連情報)である。北欧・バルト海諸国のAI協力宣言では、以下のような点について協力するとしている。

  • 当局、企業、組織が、より広い範囲でAIを利用することを可能にするスキル開発の機会を向上させる
  • AI利用が、北欧・バルト諸国における生活向けによりよいサービスを提供することを可能にするデータへのアクセスを強化する
  • いつ、どのようにしてAIアプリケーションが利用されるべきかについての指針となり得る、倫理的で透明性のあるガイドライン、標準規格、規範、原則を開発する
  • 相互運用性、完全性、セキュリティ、信頼、ユーザビリティ、モビリティを保護するために、インフラストラクチャ、ハードウェア、プログラム、データに関する国際標準規格をもたらす作業を行う

 このようにみると、デンマークの国家AI戦略は、EUレベル、北欧・バルト海諸国レベルの包括的な枠組を踏まえた上で、設計・構築されたものとなっている。そのベースとなる産官学連携エコシステムでは、研究者や企業に加え、パブリックセクターの役割を強調している点が特徴となっている。

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