特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

自動車に次ぐ輸出産業となるか、「スマート治療室」の最上位モデルが完成製造業IoT(2/3 ページ)

» 2019年04月04日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

スマート治療室で「従来と比べて2倍以上の症例をこなせる」

 スマート治療室は、IoTを活用して各種の医療機器や設備を接続、連携させることで、手術の進行や患者の状況などの情報を瞬時に時系列をそろえて整理統合し、医師やスタッフ間で共有できる総合的な医療システムだ。

 手術室などの現場では、多種多様な医療機器、設備から発生する膨大な情報を、医師やスタッフが限られた時間内に判断しつつ治療を行っているという課題がある。例えば、「診断」と「治療」の作業が独立しているため、手術中にリアルタイムの診断情報に基づく高度な治療判断が難しいことなどが挙げられる。手術室にあるさまざまな医療機器をIoTによって連携させ、医療スタッフにそれらの情報をリアルタイムかつ統合的に提供することが、スマート治療室の開発目的となる。

 スマート治療室は、AMEDの「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」のプロジェクト「安全性と医療効率の向上を両立するスマート治療室の開発」として、5大学/11社が参画し、2014年度から5年間かけて開発が進められてきた。

スマート治療室プロジェクトの実施体制 スマート治療室プロジェクトの実施体制(クリックで拡大) 出典:東京女子医科大学

 これまで、2016年6月に広島大学に「ベーシックモデル」を、2018年7月に信州大学医学部附属病院に「スタンダードモデル」を導入している。今回のハイパーモデルは、スタンダードモデルを基に、ロボット化やAI支援などとの組み合わせをも想定した最上位モデルとなる。

スマート治療室プロジェクトの開発ロードマップ スマート治療室プロジェクトの開発ロードマップ。2018年度でいったん終了するが、今後もロボット化やAI支援などを組み合わせてさらなる進化を目指す方針だ(クリックで拡大) 出典:東京女子医科大学
広島大学の「ベーシックモデル」信州大学医学部附属病院の「スタンダードモデル」 広島大学の「ベーシックモデル」(左)と信州大学医学部附属病院の「スタンダードモデル」(右)(クリックで拡大) 出典:東京女子医科大学

 東京女子医科大学 理事長の岩本絹子氏は「スマート治療室のベースになったのは2000年に開発されたインテリジェント手術室だ。これまで当大学病院では、インテリジェント手術室で1960件の症例を積み重ねている。そして、スマート治療室のハイパーモデルを設置した第一病棟と、今後建設を予定している第二病棟をつなげて次世代の手術場としていく考えだ」と語る。また、東京女子医科大学 病院長の田邉一成氏も「スマート治療室のハイパーモデルほどのインテリジェンスサージェリーは他にない。困難な脳神経外科の症例を従来と比べて2倍以上こなせるのではないか。第二病棟は5〜6年後に完成する予定だが、その際にはハイパーモデルを中心に全てをネットワーク化した手術場にしたい」と意気込む。

スマート治療室の会見の登壇者 スマート治療室の会見の登壇者。前列左から、東京女子医科大学の村垣善浩氏、岩本絹子氏、田邉一成氏、同大学 脳神経外科学 教授・講座主任の川俣貴一氏。後列左から、デンソーの奥田英樹氏、AMED 産学連携部 部長の竹上嗣郎氏、日立製作所 外科治療ソリューション本部 本部長の中西彰氏(クリックで拡大)

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