特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

いまさら聞けないLPWAの選び方【2019年春版】産業用ネットワーク技術解説(3/3 ページ)

» 2019年05月15日 11時00分 公開
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通信可能なエリアを確保する

 無線通信でポイントとなるのは通信可能なエリアです。それを実現するためには電波状況を鑑みたアクセスポイントの設置が欠かせません。アクセスポイントの運用が事業者の場合は、通信可能なエリアをWebサイト上で確認できる他、アクセスポイントのレンタルという形でエリアを広げる方法があります※3)

※3)参考:KDDI IoT通信サービス LPWA(LTE-M):エリア検索Sigfox Coverage

 また、エリアだけでなくアクセスポイントで確認すべきことは他にもあります。

  • アクセスポイント1つ当たりの見込み収容数と、アクセスポイントで処理可能な同時通信可能数
  • アクセスポイント自体の可用性維持と、アクセスポイントの費用

 特にLPWAは通信距離が長いことで有名です。距離を長くできるということは、1つのアクセスポイントでカバーできるエリアが面で大きくなるため、通信可能な距離に比例して収容する通信デバイス数も必然的に増えることになります。一方で、1つのアクセスポイントで処理可能な同時通信可能数は限界があります。例えば920MHz帯(20mW以下の特定小電力無線局)を用いるLPWAのアクセスポイントは、同時通信可能数(チャネル数)は8ないし16という製品がほとんどです。920MHz帯のLPWAならば通信時間は最大でも400msと短い時間であるため、エリア内のデバイス数が少ない場合は問題ありませんが、競合する確率はデバイスの数に応じて飛躍的に増えることを覚えておきましょう。

通信距離が長いとアクセスポイント当たりの収容数も増える 通信距離が長いとアクセスポイント当たりの収容数も増える(クリックで拡大)

 また、アクセスポイントの故障についても備える必要があります。通信は安定して確保されて初めて役立つものです。この可用性を維持するためには、1つの通信デバイスが複数のアクセスポイントの通信可能な範囲に収まっていることが望ましいでしょう。

 これらの問題については、複数のアクセスポイントを設置することで解決可能であり、特に本格的に運用する際には考慮すべき点となります。一方でアクセスポイントの費用負担が増えてくるということになります。通信規格によっては「中継器」を使って範囲を広げていくことも可能ではありますが、本質的にはアクセスポイントと同じであり、やはり収容数の見込みや可用性、そして費用のバランスは考慮する必要があります。

電力と通信速度のバランス

 LPWAは通信速度を抑えるからこそ省電力化を実現できています。例えばLoRaWANは、通信距離を延ばすことのできるSF10という設定の下では4.4秒に1回11バイトの送信が可能です。

 最近のスマートフォンで撮影した写真データの容量は約2MB程度になりますが、これをLoRaWAN(SF10)で送信した場合は約83万秒、すなわち画像1枚の送信にまる1日かかる上、また送信中は電力を消費しつづけるため、省電力通信とはいえ大容量の電力を必要とする事もあり得ます。よって、画像や動画をそのまま送信するのではなく、数バイトのデータを送ることに向いているといえます。

 昨今、デバイス上で画像や動画の内容を判定し、その結果のみを送信するといった「エッジコンピューティング」といった方法論があります。一見LPWAとの相性が良さそうなのですが、カメラやエッジコンピューティングを実現するCPU、GPUといったハードウェアに大量の電力が必要となるケースがあります。そうなると、通信が省電力でも付属デバイスの消費電力の高さによってLPWAの良さが失われてしまうことにもなります。これはエッジコンピューティングだけでなく、消費電力が比較的高いセンサーデバイスに対してもいえることですので、LPWAと組み合わせるハードウェアデバイスの消費電力にも気を配る必要があるでしょう。

構築/運用コストと収益のバランス

 最後はコストと収益のバランスです。具体的には、各要素の構築や運営の体制が費用に関わってきます。IoTを「役立つ仕組み」として活用するためには、ビジネス面にも目を向けることが大切なのは言うまでもありません。通信を可能にするための構築など初期コストはもちろん、長期にわたって安定的に利用するためには運用コストを見込むことを忘れてはなりません。

 全てを「事業者」が運営しているセルラー通信(3G/LTE、LTE-M、NB-IoT)では、事業者によって基地局の設置や運用、バックホール回線が安定的に提供されるため、利用者は対価を支払って利用する以上のことを意識する必要がありません。その代わり、事業者が提供している仕組みや構成を利用者が自由に選択したり変更したりすることは基本的にできません。

 「自営」は自分で構築できるという特徴を持ちます。例えば、全て自営が可能なLoRaWANであれば、アクセスポイントの設置場所から、バックホールの回線の選択も自由ですし、コアネットワーク用ミドルウェアの構築やカスタマイズすらも可能です。自由度の観点では圧倒的に自営の方が高く、差別化を打ち出しやすい反面、自分でやる必要があるということになります。これは、構築のための事前調査から設備の調達だけでなく、運用や可用性維持のための人員確保といった作業コストも自分持ちということを意味します。

 ここで注意したいのは、事業者、自営という選択肢を単純なコスト面だけを見るのではなく、収益源となる差別化ポイントがどこにあるのかというビジネス的な観点から、事業者任せか自営するのか、また、個々の要素で選べる通信規格なのかを絞り込んでいくことが大切となります。

終わりに

 LPWAを含めたIoT向け無線通信の技術情報は多く公開されており、また、事業者からも提供もされるようになったため、利用しやすい環境が整ってきたといえるでしょう。

 加えて、新たな通信技術も登場してきています。本稿では紹介してこなかったLPWAとしては、ZiFiSense社の「ZETA」や、Wi-Fi Allianceの「Wi-Fi HaLow」、IEEEで策定されている「IEEE 802.15.4k」、そして、日本でも多くの実績がある「Wi-SUN」とさまざまな選択肢がありますが、基本的には本稿で紹介した要素で構成されており、応用が可能な考え方を紹介してきました。

 「IoTはもうからない」と言われがちではありますが、現在利用可能な通信技術、そして、これから新たに登場する通信技術の優位性に拘泥することなく、全体を見渡したビジネス面からの技術選択が「稼げるIoT」の条件の1つになるのは間違いありません。

 技術とは異なった視点からの通信の選び方の指針として、本稿が役立てば幸いです。

プロフィール

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松下 享平(まつした こうへい) テクノロジー・エバンジェリスト 事業開発マネージャー

株式会社ソラコムの事業開発マネージャーとして主にデバイスの企画を担当しながら、エバンジェリストとして、SORACOMサービスを企業・開発者により理解、活用していただくための講演活動を担当。前職はぷらっとホーム株式会社にてIoTソリューションを担当。サブギガ/BLEを用いたIoTシステム構築等、先駆的なIoT導入事例に関わる。

IoT通信プラットフォームSORACOM
https://soracom.jp

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