アートシンキングで広がる「Society 5.0」なぜモノづくり日本でアートシンキングなのか【前編】(2/2 ページ)

» 2019年05月27日 10時00分 公開
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オリジンとは?

 オリジン(Origin)は“起源”という意味を持ちます。Originという言葉の語源は、ラテン語の“Oriri”であり、意味は「上がる、昇る、現れる、生じる、発生する」などです。オリジンをもう少し、ビジネスサイドでもなじみのある言葉へ翻訳すると「原体験」になります。つまり、自分の人生を通じて確立された、コアの価値観、判断基準のことを指します。

オリジン探索で実際に使用したメモ オリジン探索で実際に使用したメモ

 オリジンは、どこまでも深め続けることができます。それを哲学の域まで深めることが大切です。哲学の受け取り手は、目の前にその対象物があるとき、例えば「このコップには、作り手の哲学を感じるなぁ」といった具合に、短い時間軸の中で“哲学”という言葉を使います。

 これをもう少し長い時間軸で見ていきます。“哲学”が広く知れ渡り、当たり前の思考回路として使われるようになると、“哲学”は時代の“文化”となります。さらに、もう少し長い時間軸で見ていくと、“文化”は“歴史”へと変化していきます。

 アートと聞くとなじみがなく、少し遠いものに感じてしまうかもしれませんが、実は、アートの出発点である“オリジン”を探していくことは、日本で育った多くの人が経験しているはずです。

 例えば、就職活動や転職活動では、面接官に原体験を聞かれることも少なくありません。また、結婚や出産などのライフイベントのときに、深く人生を振り返る文化が、日本人にはあります。つまり、日本人はオリジンベースドアートシンキングを習得するための資質を既に備えており、“オリジンを深めていくコツ”さえつかめれば、オリジンベースドアートシンキングを有効活用できるといえます。

 近年、クリエイティビティの必要性があちらこちらで騒がれていますが、“オリジンから始めること”で、自社や自分にしか生み出せない製品、サービス、価値を創造することが可能となります。

オリジンを深めるとは?

 オリジンは、何階層にも深めていくことが可能です。そして、オリジンの深さは独創性(オリジナリティー)と比例し、状況に応じて、哲学になったり、文化になったり、あるいは歴史に残る領域へと達したりします。

筆者の幼少期 筆者の幼少期

 オリジンの起点は「自分の人生」です。人生のターニングポイントを中心に自分の意思決定や感情を丁寧にひも解いていきます。ポイントは、幼少期にフォーカスすることです。幼少期に好きだったもの、忘れられないくらい強烈な思い出は、何色にも染まっていない、無垢(むく)な自分が心から感じたものです。

 次は、両親のオリジンをひも解いていきます。なぜなら、幼少期の価値観形成時に、大きな影響を与えているのは、両親である場合が多いからです。こうして、どんどん時代をさかのぼり、検討する範囲も、国、地域……と広げていくことで、時代の流れも見えてくるようになります。

 このオリジンをひも解く作業は、個人のみならず、企業においても有効です。なぜなら、今では大きな企業も、創業者のオリジンをベースに作られた共同体であり、そこには代替できない、大切な価値観があるからです。この価値観がうまく継承され、価値判断、行動基準に落とし込まれていると、大戦などのマクロなインパクトの中で目まぐるしく市場が変化しても、力強く生き抜くことができます。

 日本には、100年以上の歴史を誇る企業が多く存在しています。日本人は一見アートに疎い民族であると思いがちですが、こうした事実は“オリジンベースドアートシンキングが実は得意である”ということの証明ではないでしょうか。

オリジンが見つかるとイノベーションを起こせる!?

 オリジンがあることで、世の中にある当たり前や、大前提として思考および再考の対象から外されているものに対して、新たな角度から物事を見直すことができます。この“新たな角度を自社や自分の中に見つける”ということが、イノベーションの萌芽(ほうが)となっていきます。

 オリジンベースドアートシンキングであれば、現在主流であるユーザーを観察することから始めるデザインシンキング、データを分析することを大切にするロジカルシンキング的な思考回路では越えられない域へとたどり着くことができます。次回【後編】では、オリジンベースドアートシンキングとデザインシンキング、ロジカルシンキングなどの思考のフレームワークと併せて、さらなる解説を加えていきます。お楽しみに! (後編へ続く)

筆者プロフィール

尾和恵美加(おわ えみか)
株式会社Bulldozer代表/異色の経歴を持つ、パラダイムシフター

アートシンキングを用いた新規事業開発・チームビルディングワークショップ事業を展開。日本IBMにコンサルタントとして入社し、当時はまだ一般的ではなかったデザインシンキングも用いながら、製造業やエアラインなどの働き方改革案件へ参画。社内で“右脳爆発系”と呼ばれる中、欧州式ファッションデザインスクール「coconogacco」と、デンマークのビジネスデザインスクール「Kaospilot」を経て起業。プライベートでは拡張家族の実験を行う「Cift」へ所属し、モバイルハウスとの2拠点生活を準備中。

株式会社Bulldozer:https://bulldozer.site/



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