産業用IoTの中心地で見たもの、ハノーバーメッセ2019に見る製造業の生きる道ハノーバーメッセ2019

インダストリー4.0の進捗確認の場とされているハノーバーメッセは毎年、産業用IoTの新たなトレンドが生まれる場所として注目を集めている。その中で2019年はどのような傾向が生まれたのだろうか。日本マイクロソフトが開催したハノーバーメッセのレビューセミナー「産業用IoTの現在地:今、製造業は何をすべきか」の内容をお伝えする。

» 2019年05月27日 10時00分 公開
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ドイツの国策「インダストリー4.0」の進捗確認の場

 ドイツのハノーバーで毎年4月に開催される産業技術の総合展示会「ハノーバーメッセ」が産業用IoTのトレンドを生み出す中心地として大きな注目を集めている。その背景にはドイツが国策として進めるモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」がある。インダストリー4.0は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など先進デジタル技術を駆使した新たなモノづくりの実現を目指すもので、世界の製造業のデジタル変革に大きな影響を与えてきた。

 この「インダストリー4.0」のコンセプトが最初に発表されたのが、ハノーバーメッセであったことから、ハノーバーメッセは「インダストリー4.0の進捗確認の場」という役割を担うようになった。今では産業用IoTの新たなトレンド発信地として定着しつつあるのだ。2019年4月1〜5日に開催されたハノーバーメッセ2019では、どういう新たな動きが生まれたのだろうか。日本マイクロソフトが2019年4月22日(東京)、25日(大阪)に開催した、ハノーバーメッセのレビューセミナー「産業用IoTの現在地:今、製造業は何をすべきか」の内容をお伝えする。

photo 盛況だった日本マイクロソフトのハノーバーメッセレビューセミナーの様子(クリックで拡大)

IoT、AI、標準化など各面で正統派進化

photo ベッコフオートメーション(日本法人)の代表取締役社長である川野俊充氏

 ハノーバーメッセ2019を総括して「さまざまなポイントで正統派進化が見られたと考えます」と語るのが、基調講演に立ったベッコフオートメーション(日本法人)の代表取締役社長である川野俊充氏である。川野氏が所属するベッコフオートメーションはドイツに本社を構えるPCベースの産業用制御機器メーカーで、グローバルの生産現場でのオートメーション化を支える企業である。同社はインダストリー4.0のさまざまなプロジェクトにも参加しており、特に制御領域や生産現場領域においては中心企業の1つだといえる。

 川野氏が見たハノーバーメッセ2019の主要なトピックは以下の通りである。

  • エッジ、クラウドソリューションが出そろう
  • xR(AR、VR、MR)については、HoloLens2への期待が集中
  • IoTはプラットフォームの乱立が続く
  • AIの事例は予防保全や画像処理系が中心
  • 既存設備のIoT化手段へのニーズが高止まり
  • 標準化は静かに進行中

 川野氏がこの中で特にトピックとして強調したのが、産業用IoTの領域で標準規格として定着が進む「OPC UA」の動きである。産業用領域では使用されている機械などにひも付くさまざまな通信規格が使用されており、これらから一元的にデータを集約し、企業IT基盤などと連携を行うことが難しかった。「OPC UA」は、プラットフォーム依存がないため、さまざまな規格の通信情報をシームレスに扱うことが可能。制御系ネットワークと情報系ネットワークを結ぶ通信技術として最適だとされ、以前からインダストリー4.0でも推奨されてきた。

 OPC UAを推進するOPC Foundationでは、異なる装置の標準化をOPC UAで規定する「コンパニオンスペック」を推進しているが、ハノーバーメッセ2019ではこのコンパニオンスペックでの連携をベースとし、「World Interoperability Conference」を開催し、さまざまな産業団体が作る通信規格と連携が容易に行えるということをアピールした。例えば、ドイツ工作機械工業会(VDW)などが推進する工作機械の通信規格「umati」や、欧州のプラスチックおよびゴム機械製品の工業会が作る射出成形機などの通信規格「EUROMAP」などが、積極的に連携を訴えた。

 川野氏は「ドイツではインダストリー4.0の実現に向けたさまざまなドキュメントが発行されています。その中の、具体的な実現を目指す『インダストリー4.0実践戦略』では、さまざまな通信規格間を結ぶために『管理シェル』という概念が示されています。OPC UAのコンパニオンスペックはまさにこの管理シェルの位置付けとなるもので、この枠組みの元、さまざまな標準化が進んでいくということが見えてきたと考えます」と標準化について述べている。

クラウドからエッジまで、産業分野向け先進技術を提供するマイクロソフト

 こうしたさまざまな傾向の中で「デジタルフィードバックループが必要になります」と強調するのは、「ハノーバーメッセ2019にみるマイクロソフトのStrategy」をテーマに講演を行った、日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長の榊原彰氏である。

photo 日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長の榊原彰氏

 マイクロソフトではここ数年、産業用ソリューションの主要展示会としてハノーバーメッセを重視し、ユーザーやパートナーと共に、出展を重ねてきた。今回は「Intelligent Manufacturing」をテーマとし、「Optimize digital operations(デジタルによる業務最適化)」「Reimagine manufacturing(製造業の再創造)」「Deliver new services(革新的サービスの提供)」「Empower your workforce(従業員の働き方改革)」という4つのゾーンで出展を行った。

 榊原氏は「デジタルトランスフォーメーションには『Engage customers(顧客との関係性を変える)』『Optimize operations(オペレーションを最適化する)』『Transform products(製品を変革する)』『Empower employees(従業員に力を与える)』の4つの柱があると考えています。これらのそれぞれでデータを集め、分析などでインテリジェンスを加え、アクションにつなげるというフィードバックループが必要になります」とハノーバーメッセ2019の出展内容について述べる。

photo デジタルフィードバックループのイメージ(クリックで拡大)出展:日本マイクロソフト

 これらの幅広い領域をカバーし、デジタルフィードバックループの中心となるテクノロジー基盤として同社が訴えるのが「Microsoft Azure」(Azure)である。マイクロソフトでは「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」としてクラウド基盤だけではなくエッジコンピューティングを組み合わせたハイブリッドな環境を訴えている。Azureはクラウド基盤が中心だが、このエッジ領域とのシームレスな連携が実現可能な仕組みを各種取り入れていることが特徴である。

 「IoTで成果を得るためには、クラウド、エッジそれぞれの得意領域を使いこなす必要があります。遠隔監視や管理、データの統合、AI活用など膨大なストレージやコンピューティング資産が必要な場合はクラウドの方が得意です。一方で、リアルタイムレスポンスを要求される制御領域や、プライバシー保護が必要な領域ではエッジの方が得意だといえます。これらを整合性のある形で結び付けるということが最適な解となります」と榊原氏は述べる。さらに、クラウドからエッジまでをシームレスに結び付けることができ、それぞれの領域で最適なアプリケーションやソリューションを提供できる点がマイクロソフトの強みだと強調した。

 ハノーバーメッセ2019のマイクロソフトブースでは、実際にこれらのコンセプトを体現する新たなソリューションなどを用意。さらに数多くのユーザーやパートナーがブース内に出展し、マイクロソフトのさまざまなテクノロジーを採用したユースケースやソリューションを紹介した。

photo ハノーバーメッセ2019におけるマイクロソフトブース(クリックで拡大)

 具体的には、「インテリジェントエッジ、インテリジェントクラウド」を実現する新サービスとして、エッジ領域では「Azure IoT Edge」や「Windows 10 IoT」では、エッジでAIを稼働させる実行環境などを用意。また、オンプレミスサーバ上でAzure IoTの機能を稼働可能とする「IoT Hub on Azure Stack」のプレビューを開始したことを紹介した。クラウド側については、インダストリー4.0の推奨規格であるOPC-UA機器のセキュアな管理とデジタルツイン化を容易に実現するオープンソースソフトウェア「OPC Vault」「OPC Twin」を用意し、公開したことなどを発表した。

photo 日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 インダストリーマーケティングマネージャーの鈴木靖隆氏

 2019年の出展内容について「世界のデジタルトランスフォーメーション最前線」をテーマに講演した、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 製造営業統括本部 インダストリーマーケティングマネージャーの鈴木靖隆氏は「従来は、これらのデジタル変革への取り組みは、実証レベルであったり、一部の先進ユーザーのパイロット的なものであったりする場合が多く、実際のビジネスに組み込むところに課題があると見られていた。しかし、2019年の出展では多くのユーザーがコンセプトレベルから脱却し、具体的なユースケースを紹介していた点が印象的だった」と今までとの違いについて述べている。

 また、今後に向けては「『今の次』をイメージすることが重要だと考えます。将来的には全てのサイクルが、デジタルフィードバックループの構築につながってきます。つなげられる領域を徐々につなぎ、成果の得られる領域を広げていく。そういう取り組みを支援していきます」と鈴木氏は述べている。

photo インテリジェントエッジ、インテリジェントクラウドによるデジタルフィードバックループ(クリックで拡大)出典:日本マイクロソフト

製造業のサービス化を訴えた日立ソリューションズ

 このマイクロソフトブースにユーザーおよびパートナーとして出展し、ユースケースを紹介した企業が日立ソリューションズである。

 日立ソリューションズは、日本のパートナーとして、マイクロソフトブース内に出展し、製造業の「モノ」から「コト」へのサービス化を訴えた。日立ソリューションズのハノーバーメッセ2019での出展内容については以下のプレビュー記事で詳細を解説している※)

※)産業用IoTの中心地で何が生まれるのか、ハノーバーメッセ2019プレビュー

photo 日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 通信サービス本部 テレコムソリューション部 担当部長の奥出隆之氏

 セミナーにおいては、日立ソリューションズは「サービタイゼーション最前線」をテーマに講演した。日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 通信サービス本部 テレコムソリューション部 担当部長の奥出隆之氏は「製造業には製品の生産や販売だけのビジネスモデルから製品を活用するサービスで収益を上げるビジネスモデルへの転換が求められています」と語る。

 具体的には、製品データを活用することで、フィールドサービスを高度化するソリューションを用意。フィールドサービスにおける「センサー情報の収集」「情報の分析とワークオーダー作成」「最適な技術者の手配」「現場保守メンテナンス」「収集した各種データの分析」の5つのステップに対し、「IoT Service Hub」と「フィールド業務情報共有システム」の2つのソリューションを通じ、フィールドサービス業務の負荷低減と高度化を両立させることを訴えた。

 奥出氏は「フィールド作業員の熟練技術者不足は世界共通のものとなりつつあり、業務の自動化や効率化が求められています。作業員にとっての負担軽減だけでなく、人員不足や技能伝承の観点からも有用です」と利点について語っている。

photo 日立ソリューションズが描く製造業のサービタイゼーションの姿と日立ソリューションズが提供するソリューション(クリックで拡大)出典:日立ソリューションズ

物流ソリューションをデジタル技術で変革することを目指す豊田自動織機

 豊田自動織機 トヨタ マテリアル ハンドリング グループ(TMHG)は、マイクロソフトとのパートナーシップによりデジタル変革をグローバルで進めている。

photo 豊田自動織機 理事・TMHG(Toyota Material Handling Group)CIOの伊藤寿秀氏

 豊田自動織機はフォークリフトなどを中心に物流システムや各種ソリューションなどをグローバルで展開する大手企業である。「デジタルイノベーションによるロジスティクススマートソリューション」をテーマに講演した、豊田自動織機 理事・TMHG(Toyota Material Handling Group)CIOの伊藤寿秀氏は「物流コストの半分以上が人件費だといわれています。労働人口が大きく減少する中、Eコマースの普及などで物流機能も多頻度や小口などが増え、省人化や生産性改善が重要になっています。一方でインダストリー4.0の一部としてロジスティクス4.0なども重要視されており、サプライチェーンの上流から下流までの情報を一元化し管理していく動きなども出ています。変革が求められる中、これらを実現するにはデジタル技術の活用が重要な取り組みになってきています」と物流ソリューションの変革について語る。

 具体的には、物流を取り巻く環境やコスト、最新技術動向などの要素から「総合物流メーカーとしてどういうことをやるべきか」「最新技術で何ができるのか」をマイクロソフトとの協業で話し合いながらデジタル変革を進めているところだとしている。ハノーバーメッセでは、これらの成果の一部を具体的な形としたものを紹介した。

 ハノーバーメッセ2019で出展したのは、欧州で企画、展開している「AI Team Logistics」とするソリューションだ。これは物流トラックが倉庫に荷物を運び入れたタイミングで物流機器が倉庫で自律的に自動搬送を行うというものである。具体的には、無人フォークリフトが自律的に障害物を避けながら、目的地まで走行するだけでなく、フォークを駆動させて対象物を運ぶというデモを行った。

 ポイントは、フォークの上下動が発生するために、2次元での移動だけでなく3次元での自律作業が必要となるという点だ。組み合わせのパターンなどが大幅に増えるために、AI活用などに必要な学習なども複雑になり、アルゴリズム生成に関しコストや時間も大きくかかることになる。これを乗り越えるために活用したのが深層強化学習技術である。マイクロソフトが提供する、深層強化学習AI「Bonsai」を活用し、シミュレーション空間上での学習をより早く行い、アルゴリズムを生成することが可能となる。より早く演算を終えることが可能で、さらに事前に無人フォークリフトにティーチングを行い、実現場での稼働開始までの時間を短縮化できる点が特徴だ。さらに、AIの知識がなくても利用できる簡単さなども魅力だという。

 伊藤氏は「自動化から自律自動化へと進む中でAIによる効率化を追求していきたいと考えています。将来的には物流現場をデジタルツインで現実に近い形で再現し、その中でシミュレーションを行うことで、事前に物流機器にティーチングを行えるようにして現場に入れたらすぐに使えるようにし、さらに現場のレイアウト変更などにも柔軟に対応できる能力を持たせるという世界が理想です。以前は2028年のビジョンとして描いていましたが、これを2020年に実現するように前倒しできないかと検討しているところです」と述べている。

photo ハノーバーメッセ2019での無人フォークリフトの自動走行のデモの様子

 この他、TMHGとマイクロソフトが進める物流のデジタル変革としては、「IoTフォークリフトテレマティクス on Azure」として、テレマティクス用の情報プラットフォームをAzure上に集約し、Dynamics 365やPower BIとの組み合わせで分析などの情報活用をしていく取り組みや、フォークリフトの稼働監視による計画保全サービス支援、保全技術者の作業をMRで支援するメンテナンス作業支援サービスなどを進めているという。

 物流および倉庫の将来像について伊藤氏は「全ての自動化を実現することが全てのお客さまに最善だとは考えていない。人と機械が協働し、適材適所でそれぞれが力を発揮するという環境が理想だ」と述べている。そのためにもまずは機械や人、商品などの情報が一元的に管理できるデータプラットフォームやそれを活用したデジタルツイン環境を作り、リアルとバーチャルが緊密に連携できる仕組みを作り上げていく方針を示している。

デジタル変革を現実のビジネスに

 ここまで見てきたように、IoTやAIを活用して製造業が社内のプロセスおよび、自社のビジネスモデルを大きく変革しようとする動きは、世界中で同時進行的に進んでおり、これらを既に具体化しているところが増えてきていることが理解できるのではないだろうか。ハノーバーメッセ2019での全体の動向、各社の具体的な取り組みの通り、これらの変化の動きは既に実際のビジネスレベルで取り入れられる段階に入ってきたといえる。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年6月26日