ほほ笑みの国で進むデジタル変革の波、タイランド4.0における日系製造業の役割モノづくり最前線レポート(1/3 ページ)

デジタル変革の動きが全世界で同時に進む中、タイでもタイランド4.0とする大きな経済政策が進められている。タイ国内においてこれらの変革を推進するのに、大きな役割を果たすと期待されているのが日系企業である。JETROバンコク事務所所長の三又裕生氏と工業団地の運営を行うIAETの総裁であるソムチット・ピルーク氏に、タイのデジタル変革の現状と、日系企業への期待について聞いた。

» 2019年06月05日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 第4次産業革命ともいわれるデジタル変革の動きは、先進国や新興国などにかかわらず、全世界で同時進行的に進んでいる。その中で、タイでは「タイランド4.0」とする政策を推進。デジタル化を含めて経済構造の変革に取り組んでいるところだ。タイには多くの外資系企業が進出しているが「タイランド4.0」を進める中で、日系企業にも大きな期待が寄せられている。

 タイのデジタル変革の現状と、日系企業への期待について、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所の所長 三又裕生氏と、タイ工業団地公社(Industrial Estate Authority of Thailand、IEAT)総裁のソムチット・ピルーク(Somchint Pilouk)氏に話を聞いた。

30年以上にわたるタイと日本企業の蜜月関係

 タイは早くからASEAN地域における製造拠点として注目され、日系製造業も数多く進出してきた。JETROの三又氏は「タイはASEANの周辺国と比べてもGDP(国内総生産)に占める工業の割合が高く35%を占めている。早くから工業国として発展してきた国だといえる」と述べる。

photo 日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所の所長 三又裕生氏

 製造業の中でも中心を占めるのが、自動車産業、電機産業、食品産業である。この内、食品産業はタイの地元企業が強くグローバルでも力を持つ企業が数多く存在するが、自動車産業と電機産業については外資系企業が中心となっている。その中でも特に日本企業の存在感は非常に大きい。1つの例として自動車の販売動向がある。タイ国内で販売される自動車の9割は日本企業の製品となっており、圧倒的なシェアを握っている状況である。

 さらに製造したものの多くを輸出していることも特徴である。「自動車産業が特徴的だ。タイでは年間200万台規模の自動車が生産されている。その内100〜120万台規はタイ国外に輸出している」(三又氏)とし「数十年前の日本と同じような経済構造になっている」と三又氏は語る。

 これまでの日本企業とタイとの関わりについて三又氏は「日本企業のタイ進出が進んだのは円高が進んだ1980年代以降である。円高により日本国内での生産が難しくなったことから海外への工場進出が進み、その有力候補地の1つがタイだったためだ。その後30年間多くの日本企業がとどまり続けている。タイは政変も多く、通貨危機や大きな洪水被害などもあった。欧米企業はこうした動きに俊敏に対応し、変化に合わせて撤退するケースなども多かった。しかし日本企業は幸か不幸か腰が重く、結果として良い時も悪い時もタイに居続けた。それが信頼につながっている面がある」と過去の歴史を振り返る。

“中所得国のわな”を回避する「タイランド4.0」

 ただ、こうした状況にも変化の波が押し寄せている。1つはタイが“中所得国のわな”という状況にはまりつつあるという点である。「中所得国のわな」とは、新興国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや経済戦略の転換ができずに成長率が低下したり、低迷したりすることを示している。

 例えば、1980年代ではタイの人件費は安かったが、経済発展とともに人件費やさまざまなコストが高騰している。既にASEANの周辺国に対してコスト競争力という面では弱みとなっている状況が生まれている。

 加えて、産業の大きな変化の動きがタイ経済にもたらす影響などもある。例えば、タイは自動車産業の一大生産拠点となっているが、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアード、電動化)などにより自動車産業そのものが大きな変化の波に襲われる中で、今後も持続的に一大拠点としての地位を確保できるかどうかは分からない状況だ。

 これらに対し、タイ自体が経済成長を続けるためには新たな取り組みが必要だと見られているわけである。そこでタイ政府が打ち出したのが「タイライド4.0」とした政策である。「タイランド4.0」は、タイの経済社会発展を段階として示し、新たな産業構造となる第4段階へと進めなければならないということを訴えたものだ。第1段階は、農村社会や家内工業を中心とした産業構造であり、第2段階は軽工業を中心に輸入を代替する工業化を進めた段階となる。そして現在の第3段階は、重工業を中心とし輸出志向の工業化を進める段階だとしている。「タイランド4.0」では新産業への対応と創出を大きなテーマとしているが、具体的には、ターゲット産業を絞り込み強化を進める方針を示している。

 ターゲット産業と位置付けられているのは以下の10業種である。

  1. 次世代自動車
  2. スマートエレクトロニクス
  3. 医療、健康ツーリズム
  4. 農業、バイオテクノロジー
  5. 未来食品
  6. ロボット産業
  7. 航空、ロジスティクス
  8. バイオ燃料とバイオ化学
  9. デジタル産業
  10. 医療ハブとなる産業
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