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» 2019年06月13日 06時00分 公開

イノベーションのレシピ:生産現場とベンチャーが直接対話、日産のオープンイノベーションは工場から (3/3)

[齊藤由希,MONOist]
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提案がドロップアウトしても関係を継続

 ABEJAは2回目の参加となった。前回のベンチャー企業展示会で武蔵精密工業向けの事例をアピールしたのをきっかけに、日産自動車の生産技術担当者と幾つかの案件を本格検討した。ABEJAは武蔵精密工業のベテラン作業者によるギアの目視検査を、AIの画像認識技術によって自動化した実績がある。

 しかし、武蔵精密工業の事例を日産自動車向けに水平展開することが難しく、半年以上にわたる検討の末に案件はドロップアウトした。しかし、そこで関係が切れることはなく、定期的にABEJAの技術と日産自動車の課題のマッチングを話し合った。その結果、組み立て作業の分析をAI化するというテーマで新たに検討が始まった。

作業員の動きをAI活用で可視化(クリックして拡大)

 生産ラインに立つ作業員が、どの作業にどのくらいの時間を要しているか、計測や分析、集計には多くの工数を要する。

 これに対しABEJAは、作業員の動きを撮影した映像から、AIによって作業員の骨格の動きを割り出し、身体がどのように動いているか、標準的な作業から逸脱したムダがないか、作業ごとにどの程度の時間を要したかを可視化する。組み立て作業の分析が効率化すれば、生産性向上に向けた施策を立てやすくなるためだ。

 AI活用という点ではRidge-iと競合するが、「分析のアルゴリズムをどう作るかよりも、AIを開発、運用するプラットフォームを活用してアルゴリズムの精度をどう向上させ続けるかというサポートに主眼を置いている。そこで差別化を図る」(ABEJAの担当者)という。

一人一人にパワーアシストスーツ

 東京理科大学発のベンチャー企業であるイノフィスも、前年に続き2回目の参加となる。同社の強みは、モーターの代わりに、空気圧式の人工筋肉やガススプリングを用いている点だ。人工筋肉で腰をサポートするモデルと、ガススプリングで腕を上げ続ける作業を支えるモデルを展示した。腰をサポートするモデルが重量4kg、腕をサポートするモデルは2kgだ。

腰をサポートするモデル(左)と腕をサポートするモデル(右)。どちらもモーターを使用しない(クリックして拡大)

 イノフィスが目指すのは、作業員一人一人に配布できるような低コストで普及型のパワーアシストスーツだ。また、空調服のように身に着けられる手軽さも目指している。前回出展した後、イノフィスと日産自動車は実際に工場の生産ラインでトライアルを実施した。その生産ラインには既存のパワーアシストスーツの導入が難しい部分があり、そこに向けてイノフィスと日産自動車は製品の共同開発を進めている。製品としては2020年春の発表を予定している。

 イノフィスの担当者は「モーター駆動は動き続けることは得意だが、一定の体勢を維持するアイドリングのようなアシストには不向きだ。また、バネ式ではアシスト力の調整ができないため、人によってアシストが強すぎたり弱すぎたりする。人工筋肉はアイドリングなしに体の動きに応じてアシストを生み出すのに向いている」とメリットを訴えた。

自転車の空気入れで空気圧を調整可能(クリックして拡大)

 採用している人工筋肉は、1本で200kgほどのアシストを出せる。空気圧は小型の自転車用の空気入れで簡単にアシスト力を調整可能だ。イノフィスのパワーアシストスーツはバッテリーを使用しないため、雨天時の屋外や、寒い場所でも使うことができるという。また、電動駆動でないため、ガスを扱う場所であっても適用可能だとしている。

 現在の価格は腰をサポートするモデルで50万円だ。「構造自体はシンプルなので、サポート力を維持しながらもっと安く、もっと軽くしていきたい」(イノフィスの担当者)。


 日産自動車は横浜工場以外でも同様にベンチャー企業を招いた内覧会を実施することを検討している。また、INCJは、日産自動車と開催した成果を踏まえて、2019年度中に同様のイベントを3〜4社で開催する計画だ。「ある自動車メーカーからは是非やってほしいといわれている。他の自動車関連企業や電機メーカー、精密機器メーカーからも、同じようなイベントをやってほしいという声が上がっている」(INCJ 専務取締役の土田誠行氏)。

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