必要な時に必要なだけシミュレーションできる、HPCクラウドのメリットとはHPCクラウド

アンシスはHPCクラウド「ANSYS Cloud」の国内サービス提供を開始した。これにより大手製造業のみならず中堅、中小規模の製造業においても本格的なシミュレーションおよびそれを支えるオンデマンドのHPCの活用が可能となる。その先に見えてくるのが、製品ライフサイクル全体を見渡したエンジニアリングの革新だ。

» 2019年06月19日 10時00分 公開
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シミュレーションが製品開発にもたらすメリット

 製造業の競争はグローバルに広がり、製品化のリードタイムは年々短くなっている。サイクルタイムも従来では5年以上が普通だったのが、現在では数年も経てば陳腐化してしまうのが実情で、次々に新しい製品を市場に投入しなければ競合企業に差を広げられていくばかりだ。また、顧客のニーズそのものも多様化しており、特にコンシューマー製品については、今まで以上に多くのバリエーションを用意しなくてはならない。製造業は高まるプレッシャーに日々さらされているのが実情だ。

 では、これらの課題とどのように向き合い解決を図っていくのか――。そうした中で注目されているのがシミュレーションである。試作品を作って行っていた検証作業をコンピュータ上に作成したモデルで代行するもので、3D CADのデータがあれば即座に実行することができる。これによって製品を開発するエンジニアは、以下の3つのメリットを享受できる。

  • リードタイム/サイクルタイムの短縮:実物がない段階でも性能や問題を確認できる(コスト削減)
  • 品質の向上:現実世界と同等の精度で数百万通りの設計オプションを検討できる(リスクの解消)
  • イノベーションの推進:製品提供に対して制約を受けない考え方を可能とする(複雑さの管理)
アンシス・ジャパン マーケティング部 部長の柴田克久氏 アンシス・ジャパン マーケティング部 部長の柴田克久氏

 このシミュレーション分野のリーディングカンパニーとして知られるのがANSYS(アンシス)だ。構造解析や流体解析、電磁界解析、光学解析など幅広いエンジニアリング分野のシミュレーション製品を提供。世界中に拠点を展開し、顧客数は4万5000社を超える。Fortune 100 industrial companiesにランキングされる製造業の実に97社が同社のシミュレーション製品のユーザーなのだ。

 そして同社は現在、シミュレーションの適用領域をさらに拡大させている。アンシス・ジャパン マーケティング部 部長の柴田克久氏は、「従来はシミュレーションといえば製品開発の上流工程で用いられるものでしたが、最近は予兆保全など保守分野のほか、組み込み機器の製品化、セキュリティ機能などについてもシミュレーションのテクノロジーを活用する動きが広がっています。アンシスとしてもこのニーズを捉え、アイデア化から設計、製造、運用、製品化に至る製品ライフサイクル全体をカバーする『Pervasive Simulation』を提唱するとともに、そのプロセスをシームレスにつないだシミュレーション環境をインテグレーションしています」と語る。

シミュレーションは製品ライフサイクルのあらゆる段階に適応領域を拡大している シミュレーションは製品ライフサイクルのあらゆる段階に適応領域を拡大している

膨大な計算パワーを備えたHPC環境をクラウドから提供

 ただし、シミュレーションと言ってもその解析対象や求める精度などの条件によって計算規模は大きく異なる。スタンドアロンのエンジニアリングワークステーションで十分処理できるものもあれば、膨大な計算処理が必要で大規模なHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)環境が求められるものもある。と同時に、処理にかかる時間も重要な要素となる。スタンドアロンのワークステーションで数分〜数十分で処理できる規模であれば問題ないが、数時間から数週間かかるような計算処理は、多数のCPUによる並列計算を行うHPCで処理して結果が出るまでの時間を大幅に短縮しなければ全体的な製品開発スケジュールに影響が及んでしまう。

 当然、このように状況や要求によって変化するシミュレーションニーズに対応するためには、どの程度の頻度で規模の大きい処理が発生するかを正確に予測できなければ、最適な規模でオンプレミスのHPCクラスタを構築することが難しい。そのためピーク時に合わせた処理能力ではなく稼働率が適度になるように考慮して規模を設定したHPCを導入する企業が多い。

 この場合、ピーク時にはHPCの計算能力が足りず計算に時間がかかるという事態が発生してしまう。こういった計算能力の不足をクラウドで補いたいという要望は、これまでも中堅、中小規模の製造業から上がっていた。しかしながら、人員的な余裕のない状況でITの専門知識が必要なクラウドの設定やデータ保全を行うことに関しては、知識不足や経験不足による漠然とした不安などがあり、二の足を踏む顧客が多いというのが現状だった。

 この課題に向けてアンシスが提供を開始したのが「ANSYS Cloud」だ。マイクロソフトとの協業に基づく「Microsoft Azure(以下、Azure)」との連携によって実現したHPCクラウドサービスで、世界7番目の拠点となる日本国内のデータセンター(Azureの東日本リージョン)を通じて、2019年5月末からサービスを開始した。

「ANSYS Cloud」の概要 「ANSYS Cloud」の概要。2019年5月末から日本国内の「Azure」のデータセンターを通じたサービスを開始した
アンシス・ジャパン マーケティング部 マーケティングスペシャリストの土屋知史氏 アンシス・ジャパン マーケティング部 マーケティングスペシャリストの土屋知史氏

 アンシス・ジャパン マーケティング部 マーケティングスペシャリストの土屋知史氏は、「これまでHPCの恩恵にあずかることのできなかった製造業、あるいはオンプレミスの小規模なリソースでしかHPCを運用できなかった製造業が、本格的なHPCを簡単に活用できるようになります。具体的には、ANSYSのシミュレーション操作環境から、クラウド上のHPCに直接アクセスし、構造解析用の『ANSYS Mechanical』や流体解析用の『ANSYS Fluent』、『ANSYS HFSS 3D』『ANSYS SIwave』などの電磁界解析用製品のソルバーを高速実行できます。複雑なセットアップなどはまったく必要ありません」と説明する。

 ちなみにクラウド上にどんなHPC環境が用意されているのかというと、ANSYSのエキスパートによるテストと認証を経て、ANSYSソルバーに最適化された、すぐに使えるPaaSとしてAzure上に実装されている。Azure HBシリーズ仮想マシン(VM)をベースとするもので、帯域幅100Gb/sの「Mellanox EDR InfiniBand」を搭載するなど、Azureならではの高速化テクノロジーがふんだんに盛り込まれている。

 製品設計に携わるエンジニアはこうしたHPC環境を、クラウドの存在さえ意識することなく、必要なときにアドオンして利用できるのである。

「ANSYS Mechanical」内に表示されている「ANSYS Cloud」の設定画面 「ANSYS Mechanical」内に表示されている「ANSYS Cloud」の設定画面。ANSYSのシミュレーション操作環境からクラウドアクセスのための個人の認証後、使用するHPCのコア数を選択して実行するだけで、データのクラウド上の個人専用領域への転送から実行までバックグラウンドで自動的に行われる。そのため従来のユーザーはワークフローをほとんど変える必要がない
Webブラウザを用いた「ANSYS Cloud」のポスト機能 Webブラウザを用いた「ANSYS Cloud」のポスト機能。PCだけでなくスマートフォンやタブレット端末でも高速に表示できるなど、充実した内容となっている

 そしてANSYS Cloudの最大のメリットとなっているのが、サブスクリプション(従量制)の料金体系でそのサービスを利用できることだ。「製品開発のリードタイム、サイクルタイムを短縮し、競合他社に先駆けて製品を市場に投入するためにシミュレーションが欠かせないとはいえ、常にフルパワーの計算が必要なわけではありません。開発のピーク時や繁忙期など、必要な時に必要なだけANSYS Cloudをご利用いただけます」と土屋氏は強調する。

 ANSYS Cloudを利用する際の基本料金となるのが「ANSYS Cloud Service Fee」である。ユーザー1人当たりのクラウドコンピューティング、ユーザーごとに確保された専用の1TBストレージおよび1カ月当たり1TBのデータ転送(ダウンロード)のサービス費用をセットにしたもので、3カ月と1年間の2つのパターンが用意されている。

 そして、これと組み合わせて利用するのが「ANSYS Elastic Units」だ。短期的なクラウドコンピューティングのニーズに基づいて購入するプリペイドカードのようなもので、企業単位でポイントをプールしておき、関係者でシェアしながら、リソースの使用状況に応じてこのポイントから支払いを行う。ポイントの消費量は時間当たりのレートで計算され、例えばスモール構成(1ノード、12コア)でのANSYS Mechanicalソルバーでは毎時13ポイント、ミディアム構成(3ノード、36コア)では毎時18ポイントを消費するという具合だ(ポイント消費数は参考値)。

「ANSYS Cloud」の料金体系 「ANSYS Cloud」の料金体系。「ANSYS Cloud Service Fee」と「ANSYS Elastic Units」から成る

 なお、Azureの利用料金はこれらのサービス料金に含まれているため、別途契約や料金を支払う必要はない。

ANSYS Cloudによるエンジニアリングの改善と進化

 ANSYS Cloudを利用することで、製品ライフサイクル全体をカバーしたエンジニアリングがどのように改善、進化するのか、あらためてその導入メリットを考察してみよう。

 まずは「手戻りの削減」だ。HPC環境を構成するハードウェアリソースの制約が取り除かれることで、必要なシミュレーションを必要なだけ実行することができ、十分な検証を行った上で次のプロセスに移ることができる。あとからミスや不具合が発覚して前プロセスに戻るのを防ぎ、エンジニアリングの生産性を向上する。

 次に「より高精度な結果の獲得」だ。HPCの高度な計算パワーを活用することで、より細かいメッシュ、より多くの条件設定を行うことで精度の高い解析を行い、意思決定や品質の担保を行うことが可能となる。

 さらに「より望ましい設計の実現」だ。クラウド上のHPC環境ならば、多様な設計アイデアを持つ、離れた場所にいるエンジニアともシミュレーション結果を容易に共有することができる。これにより設計スピードを向上する。

 また、「シミュレーションを活用する領域の拡大」の可能性も広がる。製品ライフサイクルの中で既存製品の延長線上で検討していた設計領域や試作品を使った実験が主になっている領域にシミュレーション利用を拡張するのだ。「例えばある製品の全体的な性能改善のため、個々のパーツについて必要な性能を保ちながらどこまで薄く(省スペース化)できるか、軽量化できるかといったチャレンジや従来誰も実用化していなかったような思い切ったデザインで性能が出るかといった試行錯誤など、試作品を作成する検証では時間的制約やコスト面でリスクが高すぎる挑戦もシミュレーションであれば容易にチャレンジできます。そうした中から、これまでと全く違った価値をもつ製品が生まれる可能性があります」と土屋氏は語る。

「ANSYS Cloud」を用いたHPCクラウドによるシミュレーションのメリット 「ANSYS Cloud」を用いたHPCクラウドによるシミュレーションのメリット

 しかも上記のようなシミュレーションのワークロードを、ANSYS Cloudはセキュアな環境で実行できるのだ。「マイクロソフトと協業した理由でもありますが、Azureではデータを厳重に守るセキュリティが担保されています。加えて、ANSYS Cloudは『Azure Virtual Networks』を活用し、お客さまごとに独立したセキュアネットワークアーキテクチャを提供しています。お客さまのデータにアクセスできるのはお客さまだけです」と土屋氏は強調する。

サイバネットシステムが日本国内でのANSYS Cloudの普及を推進

 今回のANSYS Cloudの展開には、ANSYSの日本国内最大のチャネルパートナーであるサイバネットシステムも強い期待を寄せている。もともとスーパーコンピュータでの受託解析サービスなどを手掛けてきた同社が、CAE分野に本格的に参入したのは今から約30年以上前の1985年のこと。以降、ANSYS製品の日本語化、サポート、コンサルティングで大きな存在感を発揮してきた。

サイバネットシステム CAE事業本部 メカニカルCAE事業部 営業部 部長の荒深大輔氏 サイバネットシステム CAE事業本部 メカニカルCAE事業部 営業部 部長の荒深大輔氏

 サイバネットシステム CAE事業本部 メカニカルCAE事業部 営業部 部長の荒深大輔氏は、「その結果、私たちのお客さまは約2000社の民間企業および約500の大学/研究機関に広がりました。なお、民間企業のお客さまの98%が製造業となり、自動車、電機業界だけでなく幅広い業界でANSYS製品をご利用いただいています」と語る。ただ、その一方で荒深氏は、「こうした私たちのお客さまの中でも、HPC環境の普及率は40%程度にしかすぎません」と明かす。

 日本国内においてクラウドを利用した本格的なシミュレーションは、まだ“普及期前夜”にあるのだろう。そうした中にANSYS Cloudはどんなインパクトをもたらすのであろうか。

 「そもそもANSYSのCAEソリューションが全世界で爆発的に普及した経緯は、Windowsに対応したことにありました。その意味で、Windowsと同じくマイクロソフトが提供するAzureをベースにしたANSYS Cloudに対するお客さまの信頼感は非常に高いものがあります。Microsoft Azureの信頼感とANSYSの革新的な技術からなるANSYS Cloudは、これまで多くの製造業がなかなか一歩を踏み出せずにいたHPC活用とクラウド活用という2つの壁を一気に突き崩す可能性があります」と荒深氏は見ている。

 もちろんそのターゲットは大手製造業だけではない。ここまで繰り返し述べてきた製品開発の課題は中堅、中小規模の製造業にも共通するものであり、クラウドを活用したシミュレーションに対する潜在的なニーズはかつてなく高まっている。そうした中で、例えば自動車業界におけるティア2といったスピードが重視されるサプライヤーにおいても、今後ANSYS Cloudの導入は確実に加速していくと考えられる。

 アンシス・ジャパンとサイバネットシステム、そしてマイクロソフトは、緊密なパートナーシップのもとでそうした日本の製造業の取り組みを後押ししていく考えだ。

左から、アンシス・ジャパンの土屋知史氏、柴田克久氏、サイバネットシステムの荒深大輔氏。「ANSYS Cloud」の拡販に意気込む 左から、アンシス・ジャパンの土屋知史氏、柴田克久氏、サイバネットシステムの荒深大輔氏。「ANSYS Cloud」の拡販に意気込む

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タイムリーに顧客ニーズに合った製品を開発し続けるには、多様な要求に対応できるエンジニアリングシミュレーション環境の準備が肝要だ。これを容易に実現できるのがクラウド型のシミュレーションサービスだ。


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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年7月18日

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