オンリーワンのモンスターネオ一眼、ニコン「P1000」はどうやって生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(13)(3/4 ページ)

» 2019年06月24日 10時00分 公開
[小寺信良MONOist]

ユーザーの「期待」に対する「裏切り」のバランス

―― こうした商品企画をするに当たって、スペックとして目指すのは数字のキリのいいところだったりするんでしょうか。

増田 その時は、キリがいいところでズーム倍率100倍、2400mmっていうのと、125倍、3000mmという2パターンで検討が進んでいました。確かに倍率100倍は数字としてはキリがいいんですけれども、前作のP900がズーム倍率ではなく、2000mmを強くうたっていたんですね。それが好評でしたので、じゃあその次は3000mmだってところで、社内の意識が変わっていきました。商品企画を通す時は、どうせやるならやれるところまでやってみよう、挑戦しようということで、みんなの意見が一致しました。

―― できる見込みはあったんでしょうか。

増田 P900を発売して以降、早い段階から次を検討していったので、もちろん見込みがあってのことですね。多分お客さまは、次は2400mm、100倍というところを想定しているんだろうなというのがなんとなく分かっていたので、思い切ってお客さまの期待を超えて先に行った方が絶対受け入れられるというところがありました。

―― しかしそうなると、次の商品は自らハードルを上げたことになりますよね(一同笑)。さすがに4000mmはどうだろう……と。

増田 今のスマートフォンも、カメラ性能がここまでになるとは誰も思っていなかったわけです。例えばスマートフォンで使われている小さいセンサーがもっと進化していくと、高倍率でも全体的には小さくなるはずなので、そういう方向性で焦点距離をもっと上げてサイズが今ぐらいというのは、可能性は全然ゼロではないと思っています。

「ミライのカメラ」も増田氏の頭の中には構想ができている 「ミライのカメラ」も増田氏の頭の中には構想ができている

―― レンズを拝見しますと、一番手前のレンズの大きさに対して、そのすぐ後ろのレンズ群がぐっと小さくなっていますね。そこがすごく特殊なレンズっていう感じがしますが、ここに設計のテクニックがあるということなんですか。

増田 レンズ設計としては、レンズ群は4群とか5群構成で、競合他社さん同様オーソドックスな光学系ではありますね。これまでずっと積み上げてきたタイプの進化形になるんですけれども、そのまま作ってしまうと、今のサイズの倍くらいになるところ、その想定より半分ぐらいの長さになっているところに、技術的な難易度がありますね。

―― とはいえ、望遠端だと鏡筒部が相当前に突き出すことになりますよね。

増田 ボディ重量のうち、レンズがほとんどを占めています。特に一番前の大きなレンズ群だけで、全体の17%ぐらいの重量になります。従って、樹脂製の鏡筒部でどうやって強度を出すのかが課題です。

 鏡筒部品の構成、材料などで工夫をして強度を出したりしています。レンズの重さで鏡筒部が下に曲がったりすると、光軸がずれてしまいますから、こうした鏡筒部のノウハウというのは大きいかもしれないですね。

強度を出すため、レンズ鏡筒の構成や材料を工夫した 強度を出すため、レンズ鏡筒の構成や材料を工夫した(クリックで拡大)

―― 同時にレンズも、3000mmともなれば、レンズの真ん中あたりしか使わないということですから、レンズ収差を押さえるのが大変かと思います。その難易度は、設計よりもむしろ製造技術になりますか。

増田 そうですね、色収差を抑えるところがかなり課題になってきます。そこをしっかり抑えられるようなレンズの構成とか、実際使うガラスの硝材の種類とかを吟味して、この24mmから3000mmという長いスパンの全域で色収差を抑えられるというところにつながっています。

―― 最近は、画像処理エンジンで色収差の補正もかなりできるようになっています。

増田 そこもキーになっていて、機能でいうと今回から4Kが撮れるようになっています。そういうところのエンジンの進化は大きく影響していると思います。

―― センサーサイズの影響はいかがでしょう。1/2.3型というとかなり小さいですが、やはり小さい方が合焦しやすい?

増田 望遠側でいうと、センサーサイズが小さい方が被写界深度を稼げるところがあるので、このサイズと性能で全体を収めるという意味でも、1/2.3型というセンサーでないと、難しかったと思います。

 1/2.3型でももっと高画素センサーを使われるところもあるんですけれど、今回はあえて1600万画素を選んでいます。1つ1つの画素が大きいので、明るく、ノイズを抑えて撮れる。画素を稼ぐのではなく、実際の描写性能が良くなる方向にセンサーを選定したというところが、ポイントかなと思います。

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