デジタルツインを実現するCAEの真価

シミュレーション主導設計の実現に向けた八千代工業の挑戦CAE事例(2/3 ページ)

» 2019年06月27日 13時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

八千代工業が目指した設計プロセス改善のアプローチ

 では、この考えを実際の燃料タンクの設計に当てはめるとどうなるのか。まず、現状(従来)のアプローチの場合、簡単な形状から複雑な形状まで設計者の過去の知見や経験を頼りに設計を進め、ある程度形状が決まった段階で初めてシミュレーション(CAE)を適用する。「既にこの段階まで来ていると設計の自由度もあまりないため、ここから改善にもっていくのは非常に難しい。加えて、開発期間も限られているため、この時点からではせいぜい3〜5件程度しか改善案を出すことができない。また、従来のアプローチだと一度に複数のシミュレーション要件を考慮することが難しいという課題がある」と海老原氏は述べる。

八千代工業が目指した設計プロセス改善 八千代工業が目指した設計プロセス改善 ※出典:八千代工業

 これに対し、現在開発中の新たな設計プロセスでは、初期段階の簡単なタンク形状(設計自由度の高い状態)から、CAEを実験計画法に基づき活用していくアプローチをとり、そのサイクルを回しながら設計品質を高めていく。そして、最終的には最適化なども行い、ベストなタンク形状を導き出す。「この手法であれば、100案以上から最適なものを抽出でき、燃料タンク設計に必須の3つのシミュレーション(※1)を一度に全て実行しながら最適解を導き出すことができる」(海老原氏)。

※1:八千代工業では燃料タンクの設計に必要なシミュレーションとして、タンクに高圧をかけて製品強度が十分に保たれているかを確認する「バーストCAE」、高温環境下で燃料タンクが膨張した際の最低地上高や車体とのクリアランスを確認する「膨潤変位CAE」、成形性を検証する「ブローCAE」を挙げる。

新たな設計プロセスをどのように実装したのか

 八千代工業では、この新たな設計プロセスを実現するため、Isight(自動化および最適化)、CATIA V5(形状更新)、Abaqus(モデル更新)を活用したシステム構築を目指した。CATIAとAbaqusの間はCAD連想インタフェース「CAI(CATIA Associative Interface)」で接続し、Isightから形状更新の命令がCATIAに渡ると、形状を更新し、Abaqusでメッシュを切り、解析を行い、結果抽出を行うという一連の流れが自動で行われる。ちなみに、この自動化サイクルを実現するため、同社はAbaqus、Isightの他、「Tosca(最適化ツール)」「fe-safe(疲労解析ツール)」を1つのライセンスで利用できる「SIMULIA Abaqus Extended Package」(※2)を活用している。

※2:SIMULIA Abaqus Extended Packageとは、契約ライセンス数を上限とし、SIMULIAブランドとして展開するAbaqus、Isight、Tosca、fe-safeを自由に運用できるライセンス体系。1つのラインセンスで、これらCAEツールのうち任意のものを使用できる。また、ライセンス数を増やすことで、別々のツールを組み合わせて同時使用したり、同じツールを複数利用したりできる。

CAEの自動化システムの構築 CAEの自動化システムの構築 ※出典:八千代工業

 この“CAEの自動化”の仕組みを構築し、まずは非常にシンプルなタンク形状を用いて検証を行い、どのような計算ができるかを把握。次に、製品形状に近いモデルを用い、板厚をパラメータとした最適化および近似モデルなどの理解を深めることにつなげ、最終的に製品形状で形状寸法をパラメータ化して実際の製品設計に近い形の技術を構築することにつなげていった。「このように簡単なモデルから検証を進めていき、少しずつ理解を深めながら技術構築を行ってきた」と海老原氏は語る。

 講演では、実験計画法を用いたパラメトリックスタディーとして、バーストCAEと膨潤変位CAEの2つのシミュレーションモデルを作成し、検証を行った結果についても触れた。「この取り組みで分かったことは、設計の初期段階、つまり簡単な形状の段階で最適化を実施するのではなく、まずは実験計画法に基づき解析を行い、設計空間の特性を把握することが最も重要であるという点だ。とにかく最初はどこが危なそうかを捉えることだ。最終的に要件や形状が決まってきて初めて最適化という流れになる」(海老原氏)。このように、八千代工業では今回構築した技術を従来の設計フローに当てはめて段階的に適用し、その効果を検証している。現在のところ、レベル4の剛性最大化の評価まで実現しているが、今後、軽量化、ロバスト設計などにつなげていくとのことだ。

新開発の設計フローについて 新開発の設計フローについて ※出典:八千代工業

 海老原氏は膨潤変位CAEにおける新設計プロセスの適用効果についても紹介した。「従来手法だと最大変位量が23mmだったものが、今回開発の技術(新設計プロセス)の適用により17mmまで改善した。そして、Toscaによるビード最適化まで適用してみると15mmまで抑えることができた。通常、変位量を1mm抑えるだけでもかなり苦労するため、この技術の効果は非常に大きいといえる。うまく現場に適用できれば大幅な性能改善が見込めるはずだ」(海老原氏)。

新設計プロセスの適用例(膨潤変位CAE) 新設計プロセスの適用例(膨潤変位CAE) ※出典:八千代工業

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