「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

バズワード化するMaaS、そして自動運転ビジネス化への道のりは近くて遠い次世代モビリティの行方(5)(1/4 ページ)

これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、主要な海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。連載第5回では、「第3回ReVisionモビリティサミット」での議論から、自動運転領域における日本の現在地を見据える。

» 2019年06月28日 11時00分 公開

 2019年6月、内閣府が実施する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期」推進会が開催され、自動運転に関する研究開発だけでなく、さまざまなデータの活用なども視野に入れた検討を開始する方向性が示された。さらに、「東京臨海部実証実験」に参加する企業が発表され、2019年秋にお台場で開催予定の「第46回東京モーターショー2019」の前後で、自動運転車の大規模な実証実験が開始される。この実証実験では主に、交通インフラによる信号情報を提供する環境の構築や、高精度3次元地図の提供などの実証が予定されており、レベル3〜4の自動運転車の実現可能性が検証されることになる。

 2020年に向けて自動運転への取り組みが加速している一方で、さまざまな報道や記事を見ていると、日本は自動運転分野で海外よりも後れを取っている印象を受ける人も多いだろう。本稿では、この自動運転領域における日本の現在地について、東京都内で開催された「第3回ReVisionモビリティサミット〜自動運転とMaaS、ユーザーエクスペリエンス(UX)が変える次世代のモビリティ・ビジネスモデル〜」での議論や有識者の見解、コメントを交えて紹介する。

「日本の自動運転に関する法整備が遅れている」のは誤った情報

 ReVisionモビリティサミットで講演した清水和夫氏(内閣府SIP自動走行システム推進委員会構成委員、ReVision Auto & Mobility 編集顧問)は講演の冒頭で「日本の自動運転に関する法整備が遅れているという記事が多く見られるが、それは誤った情報である」と指摘した。

 同氏がそのように主張する背景には、2019年度に入ってから、自動運転を実現する法改正案が相次いで可決されたことがある。簡単に紹介すると、2019年4月12日に「道路交通法改正案」が参院本会議で可決されたことにより、レベル3の自動運転車を対象に、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)内での前方監視義務が免除された。これにより、例えば運転中のスマートフォン操作などが可能になる。また、2019年5月17日には「改正道路運送車両法」が成立し、自動運転車の設計、製造、使用などにおける安全性確保のための制度整備が可能となった。

2019年5月に成立した「改正道路運送車両法」の概要 2019年5月に成立した「改正道路運送車両法」の概要(クリックで拡大) 出典:第3回Revisionモビリティサミット、清水和夫氏プレゼン資料

 一方、警察庁も、遠隔自動運転技術を活用したバスやタクシーの実証実験において遠隔操作者に、旅客運送の際に必要な二種免許の所持を義務付ける方針を固めたとされる。というのも、レベル4については、当面は遠隔操作による自動運転車の実証実験が実施され、その事業化も旅客運送の枠組みの中で検討されるからだ。「道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)」において、車両には常に「運転者」がいなければならないことが明記されているが、「車内にいなければならない」とは規定されていない。このため、車外からの遠隔操作により運転者の代行を行う形をとる。

 清水氏は、これらの事実を基に、「道路交通法と免許制度と保安安全基準をセットでレベル3を実現するという法律ができたのは日本が世界に先駆けて初めてのこと。ドイツでもまだ検討中である」と強調した。そしてまた、上述の清水氏によれば「日本がこのような法案を提出したことにより、WP29(自動車基準分野)あるいはWP1(道路交通分野)の『運転者責任』について欧州にアピールして行こうとする国際的な動きも出てきている」としており、自動運転の法制度分野で日本がリードする場面があることを紹介している。

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