ラズパイで高品質なメロンを栽培、越谷市と富士通が共同研究スマートアグリ

埼玉県越谷市と富士通は2019年7月30日、IoT(モノのインターネット)を活用したメロンの水耕栽培に関する共同研究を開始したと発表した。高収益な農産物であるメロンを安定かつ大量に栽培する方法を確立し、地域農業の振興を図る狙いだ。

» 2019年08月01日 07時30分 公開
[松本貴志MONOist]

 埼玉県越谷市と富士通は2019年7月30日、IoT(モノのインターネット)を活用したメロンの水耕栽培に関する共同研究を開始したと発表した。高収益な農産物であるメロンを安定かつ大量に栽培する方法を確立し、地域農業の振興を図る狙いだ。

越谷市長の高橋努氏(左)と富士通 ソフトウェア事業本部 本部長の藤原隆氏

 越谷市は東京都心のベッドタウンとして都市化が進むが、郊外には水田を中心とした農地が広がっている。しかし、都市化の進行や収益性の低い稲作を廃業する農家が相次いだことによって農地面積は減少傾向にあり、一時期は水害が多発する地域となっていた。同市は農家や農地面積の減少を食い止めるにあたり、稲作に代わる高収益農業を模索。その第一弾として、イチゴ栽培の技術開発と農家育成に取り組んだ同市は、「都心から最も近いイチゴ産地」(越谷市長の高橋努氏)として成果が生まれているという。

 また、同市はイチゴに続く農業振興の柱として高収益が期待できるメロンに着目し、2018年度からメロン水耕栽培の試験を開始した。この栽培試験では、町田商工会議所が開発した「町田式メロン水耕栽培装置」を導入したことが特徴だ。同装置は1株あたり20〜60個程度の高品質なメロンを生育でき、ハウス栽培によって年3〜4回の収穫サイクルが望める画期的な農法となる。

 一方で、越谷市が2018年度に実施した試験栽培では、栽培季節によって収穫個数と良品割合にばらつきが生じたという。その要因として、越谷市農業技術センター所長の石川博規氏は「メロンに限らず植物の生育状態は、温度、湿度、照度、二酸化炭素濃度などが密接に関連するが、われわれの栽培施設では温度しか管理できなかった。湿度、照度、二酸化炭素濃度の管理が不足していたかもしれない」と分析するが、「栽培環境のデータがないので確証が得られていない」(石川氏)とする。

左:町田式メロン水耕栽培装置の槽内部。ゆらぎを伴う放射状水流により養分吸収が促進されるメリットがある 右:通常のメロン栽培では1株あたり数個程度しか収穫できないが、町田式メロン水耕栽培装置は20〜60個程度の収穫が期待できる(クリックで拡大)

 そこで、同市は農業ITで知見を積む富士通と組み、メロンの良好な生育状態と不良状態における水耕栽培データをIoTにより収集、分析し、栽培ノウハウの確立を目指すことを決めた。確立したノウハウは、今後広がると見込まれる市内のメロン農家に提供する。

ゲートウェイにRaspberry Piを採用、農家の費用負担軽減に

 富士通が今回構築したデータ収集システムは、シングルボードコンピュータの「Raspberry Pi」を活用していることが特徴だ。Raspberry Piは安価かつ小型、低消費電力で動作するため、収支バランスが厳しい農家にとっても導入しやすい低コストなシステムとしている。

データ収集システムの全体像(クリックで拡大) 出典:富士通

 メロン試験温室には、温度、湿度、照度、二酸化炭素濃度の各センサーを接続した データ測定用のRaspberry Piを3台、そしてデータ収集用のRaspberry Piを1台の計4台を設置。1分ごとに計測を行い、データを収集する。また、培地を撮影する定点カメラも設置しており、毎朝7時時点の生育状況も画像で保存される。収集されたデータは農業技術センターのタブレット端末からリアルタイムで確認できるとともに、データ解析のため富士通クラウドサービスに送信される。これらデータとメロン収穫量や糖度、形状の関係性を解析し、栽培モデルの確立を行う。

左:ハウス内に設置されたRaspberry Pi 右:タブレット端末からリアルタイムにハウス内の環境データが確認できる(クリックで拡大)

 また、システムへのRaspberry Pi活用にあたりセキュリティ対策も施した。IPA(情報処理推進機構)が公開する指針をベースとして、富士通のセキュリティノウハウを適用したとし、多層防御を行っているとする。具体的には、動作ソフトウェアの堅牢化やトレンドマイクロの「Trend Micro IoT Security」を活用したホワイトリスト機能の適用、セキュリティ証跡の一元管理、ハードウェア自体の物理的堅牢化を行っている。これら対策により、サイバー攻撃によるシステム停止や不正なプログラムの実行リスクを抑制している。

 現在はハウス内環境の可視化に成功した段階とし、今後は「センター職員の行動記録も含めてデジタル化し、育成日誌として一元管理する」(富士通 ソフトウェア事業本部 商品企画室 ビジネス推進本部 水野真博氏)方向でも検討を進める。

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