製造業にとっての「失われた30年」と、今後勝ち残るために考えるべき5つのことモノづくり最前線レポート(1/2 ページ)

「スマートファクトリーJapan 2019」(2019年6月5〜7日、東京ビッグサイト青海展示棟)の基調講演に、経済産業省 製造産業局長の井上宏司氏が登壇。「製造業を巡る環境変化、課題と対応の方向性」をテーマに、日本の製造業を取り巻くグローバルな環境変化や課題への対応の方向性を示すとともに、これらの実現に向けた政府の取り組みを紹介した。

» 2019年08月16日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 「スマートファクトリーJapan 2019」(2019年6月5〜7日、東京ビッグサイト青海展示棟)の基調講演に、経済産業省 製造産業局長(講演当時)の井上宏司氏が登壇。「製造業を巡る環境変化、課題と対応の方向性」をテーマに、日本の製造業を取り巻くグローバルな環境変化や課題への対応の方向性を示すとともに、これらの実現に向けた政府の取り組みを紹介した。

製造業にとっての「平成」

photo 経済産業省 製造産業局長の井上宏司氏

 「平成」の日本の製造業は、バブル崩壊、リーマンショック、度重なる自然災害など多くの困難に直面した。業界によって差は生まれているものの、こうした中でも製造業は堅調な推移を見せた。特に、品質力や技術力を生かせる部素材を強みとして経済を支えてきたといえる。GDP(国内総生産)に占める製造業の構成比は、2009年には19.1%と下がったが、2017年には20.7%に回復。国際競争力も、完成品のシェアは低下したものの、部品や素材、製造装置などは依然高いシェアを維持しており「これらの領域における製造業の強さはいささかも失われていない」と井上氏は強調する。

 1990年代後半から2000年代初頭にかけては、新興国の急成長を背景とした産業空洞化への危機感が強くあったが、工程ごとの国際機能分業や部素材立国化などの立地戦略が進んだことにより、役割を変化させながら国内製造業は強さを維持している。

 最近では、競争環境の変化や新興国の人件費上昇もあり、中国や東南アジアなどから生産拠点を移したり、日本での稼働率を上げたりするなど国内回帰への動きも見られるようになっている。また、多くの自然災害の影響を受けた経験から「災害対策を通じて、自社だけでなくサプライチェーン全体を強化する認識が高まり、対策が進んできた」と井上氏は変化について説明する。

「部素材」が持つ日本の製造業の強み

 最近の状況を詳しく分析すると、2012年12月以降緩やかな回復が続いているものの、2018年12月に実施したアンケート調査では「直近の売上高や営業利益の水準、今後の見通しには弱さが見える。厳しさを感じている経営者が多いようだ」(井上氏)。さらに、人件費の上昇や海外情勢不安に伴う、調達コストの増加もあり、今後に備えて慎重な判断を行う企業が増えている。人手不足もますます深刻化しており「技能人材はじめ人材確保に何らかの課題がある企業がアンケートでは94.8%となった」(井上氏)という。

 一方で、日本の製造業を世界各国と比較(2006年と2016年)してみると、エレクトロニクス関係の最終製品は、販売額、シェアともに2006年に比べて低下した。一方で自動車および部素材は、販売額、シェアともに上昇している。井上氏は「60%以上世界でシェアを持っている主要な製品が270製品あり、特に部素材が270のうち212を占めるなど多い」と部素材における強みを強調した。

 さらに、この状況を維持、進展させるために「IoT(モノのインターネット)などの技術革新による変化に取り残されないようにしなければならない」と井上氏は語る。例えば、自動車ではMaaS(Mobility as a Service)に代表されるような、従来のモノづくりの領域を超えた、新たな顧客価値提供の動きがある。売り切りのかたちではなく、ライドシェアなどの新しいビジネスのかたちも現れており、その際に異業種との連携を行うケースもみられる。

 井上氏は「製造業の課題として今後注視していかなければならないのは『いい製品は作ったが利益は稼げない』という状況に陥らないようにすることだ。モノが価値の全てではなく『新しい顧客価値をモノ以外と組み合わせてどう提供していくのか』など、広い視野に立った取り組みが必要になる」と警鐘を鳴らしている。

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