量子コンピューティングは製造業でも活用進む、その可能性と現実量子コンピュータ(1/2 ページ)

次世代のコンピューティング技術として注目を集める「量子コンピュータ」。製造業にとっての量子コンピュータの可能性について、ザイナス イノベーション事業部 部長で量子計算コンサルタントの畔上文昭氏に、製造業での量子コンピューティング技術の活用動向と現実について話を聞いた。

» 2019年09月03日 12時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 次世代のコンピューティング技術として注目を集める「量子コンピュータ」。従来のコンピュータよりはるかに高い計算能力を持つとされるが、製造業にとってはまだまだ“先の技術”だと見られがちだ。しかし、実際には既にさまざまなところで実用化が進んでいるという。

 量子コンピュータの動向に詳しい、ザイナス イノベーション事業部 部長で量子計算コンサルタントの畔上文昭氏に、製造業での量子コンピューティング技術の活用の可能性と現実について話を聞いた。

 ザイナスは大分県のITシステムインテグレーターで、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)関連技術などによる新たな価値創出に向けてイノベーション事業部を設立。その一環として量子コンピュータの商用利用の拡大にもいち早く取り組んでいる。

2つの量子コンピュータの方式

 量子コンピューティング技術は、計算に「重ね合わせ」が起こる量子ビットを用いて高速計算を可能としたコンピューティング技術である。従来のコンピュータは0と1の2値しか表現できないが、量子コンピュータではこれらの量子の「重ね合わせ」などの特性を利用し、従来のコンピューティング技術に比べて圧倒的な量の計算を高速で行えるようになる。

photo ザイナス イノベーション事業部 部長で量子計算コンサルタントの畔上文昭氏

 量子コンピュータといえば「将来のコンピュータ技術ですぐには使えない」という認識も多いが、畔上氏は「量子アニーリング方式は既に商用利用されている。製造業で既に活用しているケースもある」と述べる。

 量子コンピューティング技術には「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2つの方式がある。以前から「量子コンピュータ」とされてきたのは「量子ゲート方式」である。量子ゲート方式は、古典コンピュータ(一般的なコンピュータ)と同様にゲートの組み合わせによりさまざまな量子計算を行うコンピュータである。一方で量子アニーリング方式は、「焼きなまし法」とされる手法で、「組み合わせ最適化」計算を高速に行える。量子ゲート方式のような汎用性はないものの、商用ベースで使用できる端末が存在することが特徴となっている。

 量子アニーリングは「実は日本とカナダだけが大きな盛り上がりを見せている」と畔上氏は語る。これは量子アニーリングの考え方を作ったのが東京工業大学 教授の西森秀稔氏だったという点や、カナダのD-Waveが量子アニーリングの商用マシンを展開している点などに加えて「量子コンピューティングの世界では、量子コンピュータでなければできないことを探す機運が強いのが要因だ」(畔上氏)。

 量子アニーリングによって実現できることは、既存のAI関連技術でも実現可能なことも多い。しかし「AIで出せた回答に対し、量子アニーリングを使うことで別の回答を出せるかもしれない。それによって得られる価値があるかもしれない。とにかく使っていくことが重要だ」と畔上氏は強調する。

 量子コンピュータの活用について、畔上氏は「量子ゲート方式、量子アニーリング方式それぞれに可能性はあるが、現状では、量子ゲート方式はまだ科学計算が中心で、ゲートマシンの実務レベルでの商用化も難しく、学術レベルでの取り組みが中心だ。商用レベルになるまでにはまだ時間がかかる。一方、量子アニーリング方式はビジネスでの採用の動きが広がっている。量子コンピューティングといえば実務と遠いような印象があるかもしれないが、実は今すぐに取り組もうと思えば取り組める環境ができている」と考えについて語る。

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