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» 2019年09月10日 10時00分 公開

次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(15):はやぶさ2が遥か彼方の小惑星に行って戻れる理由〜イオンエンジンの仕組み【前編】〜 (4/4)

[大塚実,MONOist]
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しかし初号機のイオンエンジンでは幾つかの不具合も発生

 小惑星イトカワでのトラブルを乗り越え、なんとか地球への帰路についた初号機。だが、トラブルはこれで終わりではなかった。

 はやぶさには、4台のμ10(スラスターA〜D)が搭載されている。これらのうち、スラスターAは打ち上げ直後から不安定で、ほぼ使っていない。これまでは、残りのスラスターB〜Dを使って、運用を続けてきた。

 これら3台が無事に使えれば、帰路の運用も問題無いはずだったが、まずスラスターBが停止。その半年後に、スラスターDも使えなくなってしまった。スラスターCだけでは、帰還するためのΔVが足りない。またしても、初号機は絶体絶命のピンチを迎えてしまった。

 ここで問題となったのは、中和器の劣化だった。電子を放出するために、マイナスの電圧を加えているのだが、どんどん放出しにくくなり、電圧が上昇。ついに限界に達してしまったのだ。

 ところが、この問題もプロジェクトチームは解決してしまう。高圧直流電源に仕込まれていたバイパスダイオード。これは高圧直流電源の故障に備えて後から追加したものだったが、これを使えば、異なるスラスターのイオン源と中和器をつないで、1台のスラスターとして運転すること(クロス運転)が可能だったのだ。まさに“裏技”である。

中和器Aとイオン源Bをつないで運転が可能に 中和器Aとイオン源Bをつないで運転が可能に。中和器Aは使っていなかったため、寿命の心配は無かった 出典:JAXA

 このバイパスダイオードは、もちろんはやぶさ2にも搭載されている(出番は無い方が望ましいだろうが)。西山氏に、その他に何か“隠し機能”は無いのか念のため聞いたところ、「もう無い」と笑って否定されたのだが、万が一のときには「こんなこともあろうかと」と、また驚くような方法で解決するような気がしないでも無い(笑)。

 はやぶさ2のミッションは、今のところほぼ完璧ともいえるほど順調。イオンエンジンについても、特に大きな問題は起きておらず、スラスターは4台とも健在だ。小惑星リュウグウまでの往路運転について、西山氏は「まだ点数を付けるほど働いていないが、付けるとすると100点だろう」と、振り返る。

はやぶさ2の累積運転時間は約1万8千時間 はやぶさ2の累積運転時間は約1万8千時間。まだ初号機の半分程度だ(クリックで拡大) 出典:JAXA

 初号機のイオンエンジンで発生した問題を、はやぶさ2ではどう改良したのか。次回は、その点について詳しく見ていくことにしたい。

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