特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

オムロンが工場5Gの実証実験、無線接続でフレキシブル生産ラインの実現へスマートファクトリー(1/2 ページ)

NTTドコモ、ノキアグループ(以下、ノキア)、オムロンは、工場など製造現場において5Gを活用した共同実証実験を実施することで合意した。オムロンの産業機器の主力工場である草津工場を中心に取り組みを進める。具体的な実証実験の内容は2019年内につめて、早期に実施したい考えだ。

» 2019年09月11日 06時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 NTTドコモ、ノキアグループ(以下、ノキア)、オムロンの3社は2019年9月10日、東京都内で会見を開き、工場など製造現場において次世代移動通信方式の5Gを活用した共同実証実験を実施することで合意したと発表した。オムロンの産業機器の主力工場である草津工場を中心に、生産ラインのレイアウト変更を柔軟かつ容易に行える「レイアウトフリー生産ライン」や、セル生産を行っている作業者により最適な作業手法をリアルタイムで伝える「AI/IoTによるリアルタイムコーチング」などの取り組みを進める。具体的な実証実験の内容は2019年内につめて、早期に実施したい考えだ。

会見に登壇した3社の責任者 会見に登壇した3社の責任者。左から、NTTドコモの中村武宏氏、オムロンの福井信二氏、ノキアソリューションズ&ネットワークスの木田等理氏

 今回の実証実験では、NTTドコモが実証実験に向けた5Gの免許取得をはじめとする5G装置を活用した実証実験の実施に関わる技術的知見を提供する。ノキアは、5G基地局を含むプラットフォームを提供するとともに、ノキアの通信技術開発の中核拠点であるベル研究所の先端技術や知見の提供も行う。オムロンは、製造現場で用いられるFA機器や制御技術の他、製造業における知見、自社工場を用いた実証実験環境の提供を担う。

モノづくりの現場に“人離れ”が起きている

 オムロン 執行役員 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部長の福井信二氏は「現在、モノづくりの大きな課題として挙がっているのが、かつて農業などの一次産業が経験した“人離れ”だ。オムロンとしては、この人離れを解決すべく、人と機械の関係性を変えて行きたい。かつては、機械による自動化は人の作業を『代替』するためのものだったが、現在は既に機械と人が作業を分担する『協働』になっている。そして将来的には、機械が人の能力や創造性を引き出す『融和』を実現できれば、人離れの解決に貢献できるだろう」と語る。

オムロンが目指す人と機械の関係性 オムロンが目指す人と機械の関係性(クリックで拡大) 出典:オムロン

 同社はイノベーションの実現に向けた「i-Automation」というモノづくりコンセプトを推進している。「ロボティクスやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)を活用してきたが、それらだけでは限界がある。5Gが加わることで可能性を大きく広げられる」(福井氏)という。

「i-Automation」は5Gによって可能性が広がる 「i-Automation」は5Gによって可能性が広がる(クリックで拡大) 出典:オムロン

 今回の実証実験のユースケースとなる「レイアウトフリー生産ライン」は、人々のニーズが多様化し製品サイクルが短期化する中で求められている、マスカスタマイゼーションや変種変量生産に対応するためのものだ。5Gの大容量、低遅延といった特徴を生かして、生産設備の通信接続を無線ネットワーク化するとともに、オムロンの自動搬送ロボット(AMR)を組み合わせることで、工程ごとに切り離したレイアウトフリーな生産ラインの実現を目指す。福井氏は「これまで、設備の間をつなぐネットワークは100Mbpsや1Gbpsの有線のイーサネットしか選択肢がなかった。このため生産ラインのレイアウトは固定するしかなく、生産する品目に合わせた変更に対して人が動かなければならなかった。しかし、5Gによって無線化できれば、人ではなく機械や設備が動くレイアウトフリーな生産ラインが可能になる」と説明する。

「レイアウトフリー生産ライン」のイメージ 「レイアウトフリー生産ライン」のイメージ(クリックで拡大) 出典:オムロン

 もう1つのユースケースである「AI/IoTによるリアルタイムコーチング」は、深刻化する熟練工不足に伴う、作業者の早期育成や生産性の向上が目的となっている。セル生産ラインにおける製造設備のデータに加えて、作業者の作業動線や動きを撮影した映像データなどを収集し、AIで解析するために5Gの特徴である大容量、高速性を生かす。熟練者との違いを作業者へリアルタイムにフィードバックすることで、生産性の向上と早期習熟をサポートし、モチベーションを向上させるような新たな人と機械の協調を目指すという。

「AI/IoTによるリアルタイムコーチング」のイメージ 「AI/IoTによるリアルタイムコーチング」のイメージ(クリックで拡大) 出典:オムロン

 なお、オムロンは、製造現場のIoT活用について「標高10m以下の世界で強みがある」としてきた※)。同社の見立てでは、ITベンダーが取り組む基幹系や上位系のシステムが現場を俯瞰して見る標高100mの世界に対して、現場の情報を取りまとめ上位系システムとの連携を実現する産業用PCレベルが標高10m、センサーや装置などの製造現場が標高0〜1mになる。今回の実証実験で用いる5Gは、高速・大容量、低遅延、多数端末の同時接続という特徴があり、オムロンの強みとなる標高10mを飛ばして、標高100mと1mを直接つなげることが可能な技術だ。福井氏は「現在のソリューションに5Gを入れるだけだと、われわれの仕事が少なくなってしまう可能性はある。ただしそれ以上に、今までできなかった新しいことを実現できる期待の方が大きい」と述べている。

※)関連記事:オムロンの“標高10mのIoT”は製造現場を明るく照らすか(前編)

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