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» 2019年10月10日 10時00分 公開

トップダウンではない現場中心のアプローチ:製造業のデジタル化を推進する人材「ファクトリー・サイエンティスト」とは (1/2)

デジタル技術を活用して製造業務を改善できる人材を育成する「ファクトリー・サイエンティスト養成講座」が2019年8月26〜30日にかけて実施された。本稿では同講座の合宿の様子と、ファクトリー・サイエンティストのあるべき姿についてお伝えする。

[淺野義弘,MONOist]

製造業のデジタル化を担う人材不足を解消する講座

 2011年にドイツで提案された「インダストリー4.0」は、製造業のデジタル化やIoT(モノのインターネット)の利用を推進するコンセプトとして広く認知されている。

 日本においても、IoTやAI(人工知能)を活用した生産改善の事例は少しずつ増えてきている。しかし、大規模なシステムの導入や運用コストの大きさ、さらにはそれらを扱う人材の不足といった課題は、製造業のスマート化の足かせになっており、特に中小製造業にとっては高いハードルとなっている。

 こうした課題を背景に、デジタル技術を活用して製造業務を改善できる人材を育てることを目的に実施されたのが「ファクトリー・サイエンティスト養成講座」だ。本稿では、2019年8月26〜30日(5日間)にかけて実施された同養成講座の合宿の様子と、ファクトリー・サイエンティストのあるべき姿についてお伝えする。

プロトタイピングから提案まで学ぶ合宿

 合宿の舞台となったのは、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)。20代後半から40代前半の製造業従事者21人が集まり、昼夜をともにして濃密な5日間のプログラムに取り組んだ。

 講義は座学と実習を交互に行うスタイル。普段ITやIoTに触れていない受講者も多いことから、サーバやデータベースの基礎的な概念や、国内外のデータ活用事例などを豊富に交えてインプットを行った。実習フェーズでは「センサーで取得したデータをクラウドにアップロードし、見やすくビジュアライズして表示する」という一連の流れをハンズオン形式で体験した。大まかな講義の内容は以下の通りである(表1)。

講義テーマ 習得する技術
1日目 ローカル側システムの基礎 Arduino、Wio-Node、各種センサー
2日目 サーバ側システムの基礎 Microsoft Azure(IoT Hub、Stream Analytics、CosmosDB)
3日目 データの加工とビジュアライゼーション Microsoft Power BI
4日目 見える化・見せる化のさらなる追求 Microsoft Flow、Microsoft PowerApps
5日目 最終プレゼンテーション チームごとの発表
表1 大まかな講義の内容

 中盤からは、1チーム4〜5人に分かれて自主課題の制作に取り組んだ。最終日には、講座を運営する慶應義塾大学 教授の田中浩也氏、由紀精密の大坪正人氏、ローランド・ベルガーの長島聡氏に加え、ゲスト講評者としてベッコフオートメーションの川野俊充氏を迎えて、社内でのプレゼンテーションを想定した発表会が行われた。

最終講評の様子 最終講評の様子[クリックで拡大]

 各チームがデモを交えて発表した内容は以下のようなものだ。

  • ロードセルで仕掛かり中の材料数を把握し、一定量を下回ったらアラートを出す
  • 振動センサーを工作機械に取り付け、異常を検知し予防する
  • 作業現場から離れた場所のFAX受信を検知し、注文書に迅速に対応する

 いずれの内容も製造現場の改善につながりそうなものばかりだ。講評者たちからは「受講者は限られた時間の中で、クイックな成功を複数体験できたことで自信が持てたのではないか」(長島氏)、「計測機器の導入コストや分解能についての理解を深めることができたのではないか」(大坪氏)といったコメントや、「IoTありきではなく、現場での経験に基づいたアイデア、暗黙知になっている気付きや感覚をセンサーで形式知にする、技能とセンシングの両方を持ち合わせたバランス感覚が随所に見受けられた」(川野氏)といった評価の声が上がった。

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