特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
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» 2019年10月15日 10時00分 公開

サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(3):花王・アマゾン・アスクルの事例に学ぶ、デマンドチェーンマネジメントの重要性 (3/3)

[小野塚征志(ローランド・ベルガー),MONOist]
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アスクルの「LOHACO ECマーケティングラボ」

 アスクルは、オフィス用品の通販で国内最大手の地位を築いていますが、2012年からは、B2Cのインターネット通販サービス「LOHACO」を開始するなど、事業領域の拡大にも積極的に取り組んでいます。

「LOHACO ECマーケティングラボ」の位置付け 「LOHACO ECマーケティングラボ」の位置付け(クリックで拡大) 出典:アスクル

 LOHACOは、B2Cのインターネット通販であるがゆえに、「誰が何を買ったのか」という情報を蓄積できています。Amazonほどではないにしても、特定個人の購買傾向を把握できます。「顧客情報」を自社内に蓄積し、データプラットフォームサービスとして外販することで、新たな収益を得ることも可能なわけです。しかしながら、アスクルは「LOHACO ECマーケティングラボ」の設置を通じて、そのビッグデータを参加企業と共有する道を選びました。

 同マーケティングラボに参加した企業は、LOHACOの顧客データ、購買データ、商品ページへのアクセスログ、問い合わせやレビューのデータ、配送データなどを自由に利用できます。参加企業もデータを提供することが求められており、そのデータは競合相手であっても提供されます。おそらくは、LOHACOの「顧客情報」を呼び水に、参加企業間でデータを広く共有することで、今までにはないマーケティングを共創しようとしているのでしょう。

 例えば、あるトイレタリーメーカーは、マーケティングラボでのデータ分析を通じて、店頭販売とECでは容器のデザインを変えた方がよいことに気付きました。店頭販売では、商品を目立たせる必要があるため、「除菌効果」や「消臭性能」といった訴求ポイントを前面に押し出す必要があります。結果として、日々の生活にはなじまないデザインになっていました。ECであれば、容器のデザインで訴求する必要はありません。「家の中で、どこにどのように置かれる商品になるか」を軸に、デザインを一から見直すことで、LOHACOでの販売を10倍以上増やすことに成功しました。しかも、家の中の目に見える場所に置かれるようになったことで、リピート率も大幅に高まったのです。

 参加企業間での共創の取り組みも広がっています。例えば、同時に購入される割合の高い商品を対象に、企業の枠を超えて共通のパッケージデザインを導入したり、まとめ買いの割引価格を設定したりするなどのコラボレーション企画が実施されています。「自社の商品」ではなく、「顧客から見て共通項のある商品」を組み合わせることで、購買意欲を高めようとしているのです。これらの取り組みの全てが販売の拡大に結び付いているわけではありませんが、成功事例のみならず、失敗事例も含めて参加企業間で情報を共有し、PDCAサイクルをより高速に回すことで、一企業ではできないレベルでの全体最適を実現しつつあるといえます。

「暮らしになじむLOHACO展2018」の出展商品 ECならではのデザイン商品イベント「暮らしになじむLOHACO展2018」の出展商品(クリックで拡大) 出典:アスクル

 2014年に開設された当初、同マーケティングラボへの参加企業は12社でした。推察するに、競合他社にも情報が共有されるということで、参加をためらった企業も存在するでしょう。それが、現在では、100社をはるかに超える企業が参加しています。情報を共有することのリスクよりも、リターンの方が大きいと考える企業が増えたのではないでしょうか。マーケティングラボのオープンプラットフォームとしての価値が社会的に認識された結果だと思います。

デマンドチェーンマネジメントによる「効率化だけではない価値」の創出

 本稿の冒頭に記したように、デマンドチェーンマネジメントとは、川下にある情報を的確に把握・共有し、全体最適を戦略的に実現しようとする経営手法です。その第一義は、どの商品が、どこで、どの程度売れるのかを予測・推定し、作り過ぎたり、在庫を持ち過ぎたり、欠品が発生したり、店舗間で在庫を融通したりといった非効率を最小化することにあります。その点からして、オペレーションコストの低減を図るための手段と捉えることも可能です。

 他方、花王、アマゾン、アスクルの事例にある通り、デマンドチェーンマネジメントは売上の拡大を実現するための経営手法でもあります。誰に対して、どこで、どのような商品を、どの程度提供すればよいのか、どのようにすればマーケティング効果を高められるのか、どのような価値の提供が期待されているのかといったことを科学的に把握できるようになるからです。調達、生産、保管、輸送といった供給のプロセスのみならず、企画・設計、研究開発、マーケティングといった機能にも情報を還元し、コストの低減と売上の拡大の双方を成し得ることこそが、デマンドチェーンマネジメントの眼目といえるでしょう。



 さて次回は、素材・部品の調達・生産から、エンドユーザーへの小売・消費に至るまでのプロセスを一気通貫で最適化しようとしている先進企業の取り組みを紹介します。サプライ/デマンドチェーンマネジメントの範囲をより広く捉えることで可能となる全体最適の方向性と、新たなビジネスモデルの可能性をお伝えできればと思います。

筆者プロフィール

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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。

株式会社ローランド・ベルガー
https://www.rolandberger.com/ja/Locations/Japan.html

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