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» 2019年10月08日 11時00分 公開

寡占市場での勝ち残り術:エポック社のカプセルトイが攻め過ぎている理由【後編】 (1/2)

エポック社のカプセルトイ「カプセルトイができるまで」をご存じでしょうか。成形金型、塗装用のマスク型とスプレーガン、そして梱包用の段ボールと、実際のカプセルトイができるまでの各工程をミニチュア化した製品。そんな斜め上を行く「カプセルトイができるまで」の誕生秘話やカプセルトイづくりの難しさについて、担当者に話を聞いてきました。

[八木沢篤,MONOist]

 【前編】では、カプセルトイ市場の現状、「カプセルトイができるまで」の誕生秘話、そしてエポック社によるカプセルトイ開発について紹介しました。今回の【後編】では、カプセルトイ開発の難しさ、そして、エポック社の3Dツールおよびデジタル技術活用について取り上げます。

カプセルトイができるまでをミニチュア化した「カプセルトイができるまで」 カプセルトイができるまでの工程をミニチュア化した「カプセルトイができるまで」(クリックで拡大)

⇒【前編】をチェックする

完成度の追求と安全性の確保の両立、カプセルトイ開発の難しさ

 「カプセルトイができるまで」の商品化では、玩具メーカーならでは、カプセルトイならではの、さまざまな苦難に直面してきたといいます。

 まず、カプセルトイ全般で共通するのがコストの課題です。近年、カプセルトイの価格は200円が基本で、高額な500円商品も登場していますが、生産拠点(中国)の工賃高騰といった外的要因などにより、業界全体で300円基準にシフトしつつあるようです。

 しかし、エポック社ではこうした流れに対し、あくまでも200円メインの商品展開に軸足を置き、価格優位の強みを発揮しようとしています。「大手2社(バンダイ、タカラトミーアーツ)の背中を追い、シェアを拡大していくには価格戦略も重要な要素になってきます。『安くて面白いものをエポック社なら作れる』という強みを発揮し、勝負していきたい考えです」と、エポック社 ラクーン事業部 企画室 マネージャーの佐藤隆さん。

 2019年10月から消費税もアップし、内税商品であるカプセルトイづくりはさらに厳しくなっていきます。200円で商品化できるように仕様とコストを合わせるのが非常に難しいとしながらも、引き続き無駄のない、効率的なモノづくりを追求していくといいます。

エポック社 ラクーン事業部 企画室の河本さん(左)と佐藤さん(右) エポック社 ラクーン事業部 企画室の河本亜衣さん(左)と佐藤隆さん(右)

 もう1つカプセルトイの共通課題であり、先ほどのコストにもかかわるのが、カプセルサイズの問題です。企画力重視でさまざまなバリエーションの商品が展開される中、ものによってはカプセルの中身がぱんぱんに詰まったものも出てきます。特に近年は、バラバラのパーツを組み上げることで、カプセルサイズよりも大きなものが出来上がるフィギュアなどが人気を博しています。

 「そのため、完成サイズだとそのまま入らないものを、いかにしてカプセルの中に納めるかが非常に苦労するポイントになっています。カプセルサイズも大・中・小と複数バリエーションあるにはあるのですが、先ほどのコストの問題もあって、材料費のかかる大きなカプセルではなく、できるだけ小さなカプセルに納めて、その分、商品(カプセルの中身)そのものにコストをかけたいという思いがあります。だから最近では一番小さいサイズのカプセルを前提に、商品を企画、設計することが多いですね」と、佐藤さんはカプセルトイならではの難しさを語ります。

 こうしたカプセルトイ共通の課題を克服しなければならないことに加え、「カプセルトイができるまで」ならではの苦労も多くあったといいます。

 1つ目は精度の問題です。「カプセルトイができるまで」の成形金型のミニチュアには、PVC製のランナー付き犬(猫)フィギュアが含まれ、成形金型の溝にPVC製フィギュアがぴったりとはまる仕様になっています。

金型にランナー付きフィギュアがぴったりとはまる仕様になっている 金型にランナー付きフィギュアがぴったりとはまる仕様になっている(クリックで拡大)

 「ここは非常にこだわったポイントの1つなのですが、金属とPVCでは実際に原型を成形したときの収縮率が異なるため、うまくはまらないのではないか? という懸念がありました。成形金型の醍醐味(だいごみ)といえるこの仕様が実現できなければ、商品として致命的です。そのため、綿密に中国の生産工場とやりとりを行い、精度向上に努めました」と、エポック社 ラクーン事業部 企画室の河本亜衣さんは振り返ります。その努力のかいもあって、見事に1回目のテストショットの段階で想定通りの精度に仕上げることができたそうです。

安全性に配慮し、わずかな力で簡単に外せる仕様に変更したミニカプセル 安全性に配慮し、わずかな力で簡単に外せる仕様に変更したミニカプセル(クリックで拡大)

 そして、もう1つが安全性です。これはカプセルトイに限らず、玩具全般にいえることなのですが、安全性への配慮は絶対に欠かせないポイント。時には想定していた仕様を変更しなければならないこともあり、企画担当者として苦渋の決断を迫られることもあるといいます。

 実際、梱包(こんぽう)工程のアイテムに含まれるミニカプセルに関しては、当初、本物のカプセルと同様に、しっかりとはめることができる仕様にしていたのですが、「球体のままだと、誤飲をした際に気道確保ができなくなる可能性もあるので、わずかな力ですぐに外れるような緩い嵌合(かんごう)に仕様を変更し、さらにカプセルに空いている穴の大きさも想定より大きくし、より高い安全性を確保するようデザインを変更しました」と河本さん。

 ちなみに、このミニカプセルは、もともと本物のカプセルと同じPP(ポリプロピレン)素材で製作したかったそうなのですが、「カプセルトイができるまで」のほとんどのアイテムがダイカスト型とPVC型で成形されるため、ミニカプセルのためにPP型を新たに追加することはコスト的にかなわなかったといいます。

 さらにもう1つ安全性に関する、ちょっと笑い話にも聞こえるような工夫もしています。それはカプセルの破損によるケガの防止です。「えっ!? そんなに危険なカプセルトイなの?」と誤解されそうですが、そうではありません。実は「カプセルトイができるまで」の成形金型のミニチュアは、使用している金属材料の量が多いことから、一般的なカプセルトイと比較してかなり重く作られています。そのため、カプセルトイ自販機から出てきたカプセルが硬い地面などに落下すると、カプセルが割れてしまう恐れがあるのです。そこで、商品を緩衝剤で包んだり(商品は実際に緩衝剤で包装されています)、厚紙で保護したりとさまざまな工夫を施してみたそうなのですが、何度試験しても完全に破損を防ぐことができなかったといいます。

“米の字”状にセロハンテープを巻き、カプセルの破片が飛び散らないように配慮 重量のある成形金型については、“米の字”状にセロハンテープを巻き、カプセルの破片が飛び散らないように配慮(クリックで拡大)

 最終的に、どうせ割れてしまうのであれば「破片が飛び散らないようにしよう」と考え、セロハンテープをタテ、ヨコ、斜め(×2)の“米の字”状に巻いてカプセルの破片が飛び散るのを防止するという苦肉の策を選択したそうです。「企画段階では、正直ここまで(重くなることを)想定していませんでした。結果的に梱包作業が一手間増えてしまいましたが、万一が重なって事故につながることも考えられます。そうなってからでは遅いので、安全最優先でこのような対応に至りました」と佐藤さん。

 なお、「カプセルトイができるまで」の対象年齢は15歳以上となっていますが、エポック社では玩具安全基準(ST基準)に準拠した安全性を確保しているといいます。「通常、対象年齢15歳以上の商品はST基準の対象外となっていますが、エポック社の社内基準がST基準に準拠しているため、対象年齢が何歳以上の商品であろうがST基準をクリアしていないと発売できません。カプセルトイであっても、基本的な考えは玩具と同じです。商品としての完成度の追求と安全性の確保の両立は正直難しい部分もありますが、『シルバニアファミリー』に代表される子供向け玩具を作るメーカーとしてプライドをもって取り組んでいます」と、佐藤さんは安全性を第一とする玩具メーカーとしての強い思いを口にします。

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