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連載
» 2019年10月21日 10時00分 公開

初心者のための流体解析入門(8):実際の現象とCFD 〜翼の揚力の解析を例に〜 (1/2)

流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は「設計で扱う数字と流体解析(CFD)」をテーマに、セスナ 172型機の主翼に使用されている「NACA 2412」を題材に、翼の上下に流れる空気の状態を解析する。

[水野操 mfabrica合同会社 社長/3D-GAN,MONOist]

 皆さん、こんにちは。流体解析CFD:Computational Fluid Dynamics)ソフトを使う上で知っておかなければならないことについては、これまでの内容でおおむねカバーできたと考えています。ここからは、もう少し理論と実践というスタンスで考えていきたいのですが、筆者の準備不足でなかなかそこまで追い付いていません。

 それでも今回からは、「実際の現象とCFDの比較」という観点でお話をしたいと思います。理論的なお話は今回もあまり出てきませんが、できる限り“根拠のあるCFD”という方向に持っていきたいと考えています。

セスナ 172型機の主翼を解析する

 で、今回のお題は「翼」です。

 翼も理論からきちんとお話を始めますと、「なぜ飛行機は飛ぶのか?」といった話につながり、「クッタ・ジュコーフスキーの定理」など、小難しい話題が登場してきます。ただ、そこまで足を突っ込んでしまうと誌面も尽きてしまうため、本稿では、そこは割愛して話を進めていきます。

 LCC(Low Cost Carrier)の普及などにより、かつてないほど“空の旅”が手軽なものになってきました。飛行機の話になると必ずといってよいほど、「なぜ飛行機は飛ぶのか?」の話題が出てきます。その原理をものすごく簡単に説明すると、“翼の上下を流れる空気の速度は異なっており、そこに圧力差が生じて結果的に揚力が発生している”のです。大型のジェット旅客機の巨体を浮き上がらせるわけですから、ものすごい揚力が働いているということになります。

 この揚力ですが、どの程度の力が発生するのかは、翼の断面形状に大きく依存しています。もちろん、その断面は適当に決められているわけではなく、標準的な翼の断面というものが存在しています。

 実は、翼には「NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)」「Göttingen」「RAF(Royal Aircraft Factory)」などの基本翼型があり、バリエーションはその系列ごとで与えられています。

 例えば、NACAにもさまざまな翼型があります。NACAの4文字系列の翼の1つである「NACA 3309」は、最大反りが翼弦長の3%で、前縁から翼弦長の30%の位置にあり、最大翼厚が翼弦長の9%(実際には、前縁から任意の位置における上縁と下縁の翼厚さで与えられています)となっています。

 今回は、練習機としてもよく使用され、筆者もパイロットのライセンスを取得する際によく操縦していたセスナ 172型機の主翼に使用されている「NACA 2412」を用いて解析をしてみたいと思います。

揚力係数と迎え角の深い関係

 今回見てみたいのは、「揚力係数(CL値)」と「迎え角(AOA:Angle Of Attack:α)」の関係です。

 揚力係数とは、揚力を動圧と代表面積で無次元化した数値です。この値は、迎え角や抵抗係数(Cd値)などとの関係を表す際に使用されます。一方、迎え角とは、流れの方向に対して主翼がどのくらいの角度で傾いているのかを表す数値です。

図1 揚力係数と迎え角の関係 図1 揚力係数と迎え角の関係(クリックで拡大)

 離陸する際、飛行機は機首を上げて上昇していきます。もっとも、飛行機はこのとき、機首が向いている方角に進んでいるわけではありません(ロケットではありませんから)。機首が上を向いてはいますが、若干前滑りしているような感じです。つまり、進行方向に対して翼が上向きになっている(角度が付いている)わけです。

 この揚力係数と迎え角の間には、深い関係があります。迎え角がゼロのときから機首を上げ、翼も上向きになって迎え角が大きくなるとともに、揚力もそれに比例して大きくなっていきます。

 しかし、それもいつかは限界を迎えます。限界の迎え角を超えると、翼は突如として揚力を失います。これが、俗にいう「失速」という状態です。着陸時に失速が起きるとどうなるか……、容易に想像が付くかと思います。着陸時は、そもそも高度が低いわけなので、ここで失速してしまうとそのまま墜落につながります。

 同様に、離陸の際も機首を上げ過ぎると、エンジンはフルパワーであるにもかかわらず、「パワーオンストール」という状態に陥り、墜落事故につながってしまいます。通常、飛行機は失速状態になったとき、自動的に機首が下がるように設計されています。機首が下がることによって、迎え角を小さくできるからです。

 なぜ、このようなことになるのでしょうか。実は、迎え角が大きくなり過ぎると、翼上面の空気の流れが、翼の上面から剥がれる「境界層剥離」という状態に陥ります。この際、翼上面の空気は飛行機の進行方向に従って流れずに、渦を巻いたような状態になってしまいます。

 この状態から揚力係数は減少を続けますが、これに対して抵抗係数は増加していきますので、非常に危険な状態に陥ります。加えて、空気の流れも乱れているので操縦自体が困難になります。つまり、失速とはそれほど危険な状態であるため、何としてでも避けなくてはなりません。

 なお、揚力係数(CL)は以下の式1で計算できます。

式1 揚力係数を求めるための計算式 式1 揚力係数を求めるための計算式

 Lは揚力、ρは空気の密度、Uは代表速度、そしてSが代表面積です。

図2 揚力、空気の密度、代表速度、代表面積について 図2 揚力、空気の密度、代表速度、代表面積について(クリックで拡大)

 ちなみに、飛行機が旋回すると揚力の成分がさらに減少するので失速しやすくなります。時々「低空で旋回中に失速して墜落した」といった飛行機事故のニュースが出ることがありますが、その多くは低速旋回しているにもかかわらず、不注意でバンクを入れ過ぎたことに起因しています。

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