連載
» 2019年11月20日 10時00分 公開

ママさん設計者が教える「設計者のための部品加工技術の世界」(2):金属板を「切る・抜く・曲げる」――似ているけど違う精密板金加工とプレス加工 (1/3)

設計者でも知っておくべき部品加工技術をテーマに、ファブレスメーカーのママさん設計者が、専門用語を交えながら部品加工の世界を優しく紹介する連載。第2回は、金属板を“切る・抜く・曲げる”という点で共通するが、実際には異なる加工方法として知られる「精密板金加工」と「プレス加工」について取り上げる。

[藤崎 淳子/Material工房・テクノフレキス,MONOist]

 皆さんこんにちは! Material工房・テクノフレキスの藤崎です。

 前回紹介したモーターケースの試作エピソードでは、金型を作ってプレス成形する仕様の部品を、切削加工と放電加工のコンビネーションで対応した当時を振り返りました。その中で、「量産時に金型を起こしてプレスの絞り加工で作るなら、シートメタルでの試作を検討したい(したかった)」とも書きました。

 今さらの説明で申し訳ないのですが、「シートメタル(Sheet Metal)」は直訳すると“板状の金属(板金)”のことで、製造業界では「精密板金加工」そのものを指す用語としても使われています。

似ているようで異なる「シートメタル」と「プレス加工」

 シートメタルとプレス加工は、いずれも金属板を必要な形状に切り抜いた後に、折り曲げや絞りの力を加えて成形するという点で非常に似ていますが、使用する設備や製作手順に違いがあるため、実際には異なる加工方法となります。今回はそのあたりからお話ししましょう。

 図1は、インクジェットプリンタのシャシー(筐体)です。遠目に見ればプレス加工品と同じようですが、これは“試作品”で、精密板金加工で作られた部品のみでできています。これが“量産”になると、プレス加工で作られるのです。

図1 インクジェットプリンタのシャシー(筐体)の試作 図1 インクジェットプリンタのシャシー(筐体)の試作[クリックで拡大]

 「試作」とは、「設計したものが想定通りに動くか」「強度は問題ないか」などを確認しながら、“試しに作ってみること”です。試作した結果、修正点が見つかれば、設計を見直して再度試作を行います。これを設計意図が正しく反映されるまで繰り返すわけですから、試作にはそれなりの時間やコストがかかります。そのため、多くの企業で試作時間とコストを抑える努力が行われているのです。

 試作とは別に、1点物の装置部品で「この金具が1つだけ必要」というような場合、わざわざ専用の金型を作って、プレス加工で対応していたら時間とコストばかり取られてしまいますよね。従って、精密板金加工が活躍するのは、設計変更が想定されるような試作品と少数多品目の部品製作となります。

 精密板金加工で試作する場合、曲げ加工のみで完成するものは、基本的に金型を作る必要がありません。それは「ベンダー」という機械に、規格化された標準金型を取り付けて曲げ加工を行うからです。型の種類については、Ai-LinkのWebサイトが大変参考になります。ちなみに、ベンダーは「ベンディングマシン」や「プレスブレーキ」とも呼ばれます。

図2 曲げ加工を行うベンダーのイメージ 図2 曲げ加工を行うベンダーのイメージ[クリックで拡大]

 ただし、絞り加工のような特別な形状を加工するには、当然金型が必要になります。とはいえ、絞り加工を精密板金で行うような場合、大量にモノが作られることはまずありません。そのため、このようなケースで用いられる金型は、プレス金型で使用するものとは異なり、絞り形状に合わせて切削したり、板を何枚も積層して溶接したりしてかたどった「簡易金型」であることがほとんどです。量産前に繰り返される試作を精密板金加工で行うのであれば、早く、安く調達できる簡易金型が有効といえます。

図3 絞り加工を伴う形状のイメージ(赤色枠内) 図3 絞り加工を伴う形状のイメージ(赤色枠内)[クリックで拡大]

全ては金属の板を切るところから始まる――展開図について

 精密板金加工もプレス加工も、仕上がり形状からさかのぼって、金属の板を切るところから始まります。この板をどのような形状と寸法で切るのかをデータ化したものが「展開図」となります。展開図がどういうものかは、雑誌の付録などでよく見掛けるペーパークラフトを思い出してみると理解できます。

図4 雑誌の付録などで見掛けるペーパークラフトが「展開図」のイメージに近い 図4 雑誌の付録などで見掛けるペーパークラフトが「展開図」のイメージに近い(小学館『幼稚園 2019年9月号』付録より)[クリックで拡大]

 雑誌付録のペーパークラフトは、1枚のボール紙の中に数種類のパーツが面付けされていて、それらを切り離して折り曲げると、それぞれの立体部品が出来上がり、さらに立体部品同士を組み立てることで構造物が完成します。言ってみれば、冒頭で紹介したインクジェットプリンタのシャシーも同じです。ペーパークラフト(紙)を金属に置き換えれば精密板金製品そのものです。

 ただし、紙を曲げるときと違って、厚みのある金属の板を曲げると、曲げの外側には“伸び”が、内側には“縮み”が生じます。そのため、展開図を作成する際はそれを計算に入れておく必要があります。展開図の作成は、まず2次元DXFの三面図を取り込み、3D投影モデルを作成。その後、伸び値を計算してから平面にモデルを展開するという手順が一般的です。

図5 展開図の作成イメージ 図5 展開図の作成イメージ[クリックで拡大]
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