「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
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» 2019年11月27日 06時00分 公開

モビリティサービス:通院や往診が難しい地域に「医療MaaS」でオンライン診療、フィリップスとMONET

フィリップス・ジャパンは2019年11月26日、長野県伊那市において、同年12月から医療MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証事業を行うと発表した。看護師と各種医療機器を乗せた「ヘルスケアモビリティ」が患者宅を訪問し、医師が遠隔からオンラインで診療できるようにする。実証事業の期間は2021年3月末までで、フィリップス・ジャパンは伊那市やMONET Technologiesと協力して取り組む。

[齊藤由希,MONOist]
ヘルスケアモビリティの実車。写真左からフィリップス・ジャパンの堤浩幸氏、MONET Technologies 代表取締役社長の宮川潤一氏、伊那市長の白鳥孝氏(クリックして拡大)

 フィリップス・ジャパンは2019年11月26日、長野県伊那市において、同年12月から医療MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証事業を行うと発表した。

 看護師と各種医療機器を乗せた「ヘルスケアモビリティ」が患者宅を訪問し、医師が遠隔からオンラインで診療できるようにする。実証事業の期間は2021年3月末までで、フィリップス・ジャパンは伊那市やMONET Technologiesと協力して取り組む。

 伊那市は南アルプスと中央アルプスに囲まれた長野県南部の街だ。人口は6万8020人、面積が667.93km2で、東京23区よりも広い。医師の不足や病院の偏在が課題となっているだけでなく、中山間地域が多く移動に時間がかかるため訪問診療の継続が難しいという問題も抱えている。

 「23区内であればクルマで1日6〜7人に往診できるところを、伊那市ではどう頑張っても3人しか往診できないような地理的要因がある。そのため、病院の経営的に往診を続けるのが難しく、訪問診療でカバーしきれない地区がある」(フィリップス・ジャパンの担当者)。フィリップス・ジャパンやMONETは、オンライン診療の医療MaaSが伊那市だけでなく、日本の他の自治体や海外にも水平展開できると見込む。

 伊那市長の白鳥孝氏は「スローガンとして『伊那に生きる、ここに暮らし続ける』という思いを掲げている。暮らし続ける決意を、技術を使って支えられないかと官民協働で取り組んできた。医療とMaaSの組み合わせによって、1人の医者が今よりたくさんの患者を診療できるようにならないか、往診しなくても健康に生活を送れるようにならないか、と期待している。将来的には、処方薬のやりとりもMaaSに取り入れたい」と語った。

ハイエースにぎりぎり収まった、オンライン診療の設備

 伊那市の実証事業で使う車両は、地元の開業医が慢性期疾患の患者の経過観察など再診に使用し、オンライン診療を中心としたヘルスケアモビリティの有効性を確かめる。慢性期疾患は症状が比較的安定しているが長期の治療を必要とし、認知症、高血圧や糖尿病といった生活習慣病、関節リウマチや骨粗しょう症が該当する。実証事業に参加する医師が、全ての診療をヘルスケアモビリティに置き換えるわけではないため、カバーする患者の人数などは現時点では未定だという。

 今回のベース車両はトヨタ自動車の「ハイエース」で、医師や看護師の声を取り入れながらレイアウトや設備を検討した。開発費用は伊那市からの補助金と、トヨタ・モビリティ基金からの支援でまかなった。車両のナンバーは、病院や診療所が治療、健康診断に使用する車両である「医療防疫車」として取得。ヘルスケアモビリティのコンセプトを企画した初期段階では、車両登録時の届け出に該当するカテゴリーがなく、どのように自動車と医療の法規を満たすかが課題となっていた。

ヘルスケアモビリティの車内。ベッドの一部が跳ね上げられている(左)。看護師が使用する設備(右)(クリックして拡大)
車内の様子(左)。車いすでも乗車することができる(右)(クリックして拡大)

 車内には心電図モニターや血糖値測定器、血圧測定器、パルスオキシメーター、AED(自動体外式除細動器)といった医療機器やベッドを設置している。医師は乗車しないコンセプトのため、医師が使う機器は載せていない。車内では、看護師が医師のテレビ電話越しの指示に従って、慢性期疾患の患者の検査や必要な処置を行えるようにしている。検査結果や患者宅訪問の情報は、インターネットイニシアティブ(IIJ)の情報共有クラウドシステム「IIJ電子@連絡帳サービス」で看護師が記録し、医師とデータを共有する。介護事業者などとの情報共有は現時点では行わない。患者が診察や配車を申し込むスケジュール予約機能も採用した。

 車内には、患者や看護師が医師と会話するためのテレビ電話用のモニターとカメラを備える他、車いすで乗車するためのリフトも搭載している。必要な機器や装備は「なんとかハイエースに収まった」(フィリップス・ジャパンの担当者)という格好で、「車内で看護師が気持ちよく仕事ができるかというと、まだ課題はありそうだ」(同担当者)。ヘルスケアモビリティのベース車両はハイエースのようなバンに限定しているわけではなく、よりサイズの大きい商用車でヘルスケアモビリティを開発することも検討している。ただ、患者宅の前まで乗りつけるにはハイエースのサイズが最大であり、より大きな商用車を使う場合は、公民館や学校に集まってもらうような使い方になるという。

 2021年3月までの実証事業期間では、車両に搭載した一般医療機器を用いたオンライン診療や、医師と看護師の間での情報共有に取り組む。また、薬機法改正に合わせて、オンラインでの服薬指導も実践したい考えだ。さらに、2021年4月以降は、より幅広い診療をカバーするなどオンライン診療の高度化や、提供エリアの多様化、ヘルスケアデータを利活用した地域全体のシステムへの発展、服薬指導や処方の高度化などに取り組みを広げる。さらに、地元の開業医との連携強化に加えて、地域の中核病院との連携も目指す。

 フィリップス・ジャパンや伊那市が目指すのは移動型のクリニックや薬局だが、今回のヘルスケアモビリティにはそうした機能は盛り込まれていない。薬剤の処方や服薬指導をオンラインで完結させる法的な環境が整備中であり、厚生労働省は場面やケースによってオンラインではなく対面で診療して判断するよう求めている。

 フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏は、「ヘルスケアモビリティでは現在は特区でも実装が難しい機能があるが、法律に合わせて段階を追って機能や事業を拡大していきたい」と語る。また、堤氏は、5G(第5世代移動通信)の普及によって医師とオンラインで対話する以上の機能が実現することにも期待を示した。5Gによって、より詳細な患者のデータのやりとりや、地元の診療所や病院だけでなくさらに遠隔地にいる専門の医師からの診察などの進化を見込んでいる。

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