連載
» 2019年12月11日 06時00分 公開

和田憲一郎の電動化新時代!(35):ダイソンEV撤退をケーススタディーとして考える (1/4)

EVを開発すると宣言し、撤退した案件としては、投資額や雇用人員ともダイソンがこれまで最大規模であり、この撤退の真因に迫ることは、今後のEV開発に極めて重要ではないかと考えた。あくまで筆者の見立てであるが、元EV開発の経験からダイソンEV撤退をケーススタディーとして、EV開発の困難さおよび事業の難しさについて考えてみたい。

[和田憲一郎(日本電動化研究所 代表取締役),MONOist]

 2019年の一番のエポックメイキングな出来事といえば、筆者の中ではdyson(ダイソン)のEV(電気自動車)事業撤退である。報道では、従業員向けのメールで、「採算が取れる見通しが立たなかった。また事業の譲渡先を探したが買い手が見つからなかった」と述べている。しかし、筆者からみれば、世の中に試作車を一度も発表しておらず、撤退の原因としては、あまりに腑に落ちないのである。

 EVを開発すると宣言し、撤退した案件としては、投資額や雇用人員ともダイソンがこれまで最大規模であり、この撤退の真因に迫ることは、今後のEV開発に極めて重要ではないかと考えた。あくまで筆者の見立てであるが、元EV開発の経験からダイソンEV撤退をケーススタディーとして、EV開発の困難さおよび事業の難しさについて考えてみたい。

あまりにも突然で、かつ不自然!

 最初にダイソンがこれまでの内容を覆し、2019年10月10日にEV事業撤退を発表した時の印象である。それも撤退の理由として、「採算が取れる見通しが立たなかった。また事業の譲渡先を探したが買い手が見つからなかった」と述べている。本当であろうか。何かもっと別の理由があるのではないだろうか。

 ダイソンEV開発の件は、開発段階としてはTesla(テスラ)以上に多額の資金投入と人員を確保し、元EV開発者からみれば、うらやましいような大量の人、モノ、金の投入であった。だからこそ、創業者であるジェームズ・ダイソン氏(以下ダイソン氏と記載)の考え方をじっくり調べ、筆者なりに、今回の事業撤退の原因を考えることは、EV開発および事業として極めて有効に思えた。そのため、もし筆者がこのプロジェクトマネジャーに任命された場合、どのような事態が生じたら、プロジェクト撤退を決断するのか、ケーススタディーとして考察したものである。

 なお、最初にお断りしておかなければならないのは、これはダイソンや、創業者であるダイソン氏を非難するものではない。ダイソン氏については、彼が出願した国際特許を見るたびに、よくこれだけ大量かつ多彩な特許を出願できたと驚くとともに、エンジニアとして尊敬の念を持つものである。

 さて、いきなり筆者の結論を申し上げると、ダイソンによるEV撤退の原因は、技術的な問題ではなく、開発の進め方に関する相違が生じてしまったのではないかと推測する。つまり、開発陣とダイソン氏との間で、どうしても埋められない溝が生じてしまい、次第にますます乖離(かいり)することで、抜き差しならぬ関係となり、プロジェクト破綻に至ったと思われる。

 筆者は、今回の要因として3つを挙げたい。このことは必ずしもダイソンだけではなく、その他の企業においても同様なことが起こるのではないかと考えている。順を追って筆者の考えを説明したい。

(1)エジソン流開発への確執

 一体何のことか分からないかもしれないが、自叙伝ともいえる「逆風野郎!:ダイソン成功物語」(原題Against the odds : an autobiogrqphy)をじっくり読むと、ダイソン氏はサイクロン式掃除機を開発するために、自ら5127回試験を行い、最終的にこれまで世の中になかったサイクロン式掃除機を完成させている。そして、ダイソン氏の根底に流れるものは、エジソン流開発手法である。どういうことかといえば、エジソンはテストで実証する時、1度に1つの要素しか変更してはならないという哲学であった。ダイソン氏もこれをかたくなに守り、1つ1つの要素の優劣を判定して、5000回以上の試験を経て、サイクロン式掃除機などの商品を作り上げてきた。

図表1:サイクロン掃除機 DC07(クリックして拡大) 出典:ダイソン

 しかし、掃除機とEVでは桁違いに部品点数が異なる。例えば、走行距離を伸ばそうと思っても、その要素を1つ1つ変更して実験していては、何億通り、いや何十億通りとなり、現物で確認することは不可能である。そのため、自動車メーカーでは、できる限りモノを作らず、あらかじめCAEもしくは各種解析により予測している。その結果、各要素の最適と思われるものを選び出して、目標に到達するのか否か、ある程度めどがついてからモノを作るようにしている。

 モノを作って実験を行うのは、自分たちが想定していたものと同等か、異なるかを確認するためである。衝突安全などでは、CAEで導き出した結果と実際の衝突結果が異なる場合があるが、実車結果が予想と異なる場合、ひょっとしたら実車はある箇所の溶接が外れていたのではと、不一致な点まで比較して見つけることができるようになっている。

 ベンチャー企業が最も苦労する点、かつ多大な費用を要する点がここにある。既存の自動車メーカーは過去のガソリン車、EVなどの実車衝突データと、整合性を高めたCAE結果があるため、それほど費用や時間をかけなくても比較することは容易である。しかし、ベンチャー企業は、過去のデータがなく、自ら設計した構造について確信が持てない。CAE解析を行おうにも信頼に足るデータをそろえることができない。もちろん高価な試作車で衝突試験を数限りなく行うこともできず、多くはここでつまずくことになる。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.