スマート工場の構築を加速させる「CC-Link IE TSN」がいよいよ実用段階へ、対応製品や開発ツールが続々登場IIFES2019特別企画(CC-Link協会)

スマート工場化の流れの中で大きな注目を集めている「TSN」がいよいよ実用フェーズに入りつつある。産業用ネットワークでいち早く「TSN」技術を適用した「CC-Link IE TSN」の、対応製品および開発ツールが広がりを見せている。オートメーションと計測の先端技術総合展「IIFES2019」での「CC-Link IE TSN」の動向を紹介する。

» 2019年12月24日 10時00分 公開
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 工場内のさまざまな工程や装置および機器をネットワークでつなぎ、生産現場のデータをリアルタイムに収集・活用することで、生産性や品質を高めるスマート工場化の動きがグローバルで加速している。しかし、その中で大きな障壁となっているのが、バラバラに構築されたネットワーク環境を「シームレスにつなぐ」ということだ。多くの工場では複数の産業用オープンネットワークや標準イーサネットが使用されており、より簡単に生産現場のデータを収集し、ITシステムへのシームレスな伝送を実現するためには、ネットワークの統合が求められている。

 この障壁を打破する突破口として製造業を中心に大きな期待を集めているのが「CC-Link IE TSN」だ。「CC-Link IE TSN」は、標準イーサネットの規格を拡張した「TSN(Time Sensitive Networking)」をベースとしたネットワークである。「TSN」技術の活用により、産業用ネットワークに不可欠なリアルタイム性や時刻同期などの機能を持ち、同一幹線上で複数の異なるプロトコルが混在可能だ。これにより、バラバラなシステムやプロトコルの情報をまとめて収集し、データ分析などを簡単に行えるようになる利点がある。

 「CC-Link IE TSN」の規格そのものは2018年11月に発表されているが、規格公開後、開発ツールや対応製品の開発が進み、いよいよ実導入フェーズに入りつつある。2019年11月27〜29日に東京ビッグサイトで開催された「IIFES2019」での「CC-Link IE TSN」の動向について紹介する。

photo IIFES2019におけるCC-Link協会のブース(クリックで拡大)

サーボモータとロボット256軸を同期制御、映像情報も同一配線上に

 「CC-Link IE TSN」の普及促進を図るCC-Link協会(CLPA)が今回のIIFES2019で強調したのは「実用フェーズに」という点である。その意味でも象徴的な展示となったのが、「キネティックアートデモ機」である。

 「CC-Link IE TSN」対応製品として、2019年5月に三菱電機からサーボシステム「MELSERVO-J5シリーズ」を含むFA製品群が初めて発売されたが、「キネティックアートデモ機」ではその「MELSERVO-J5シリーズ」を256軸分用いて、球体のオブジェクト254個とロボット2台を制御し、13種類の形や文字を表現した。制御信号だけでなく、デモを撮影したIPカメラの映像信号なども同じケーブル上で流しており、複数のネットワークプロトコルをシームレスに連携できる「CC-Link IE TSN」の特長を示した。

 CLPA 事務局長の川副真生氏は「256軸を高速・高精度で同期制御するという制御ネットワークとしての性能に加えて、映像信号などを同一配線上に流しても制御に影響しないという特長を表現しました。スピードや精度など実際のアプリケーションに使うケースと異なるのは事実ですが、こうした展示を実現することで少しでも使用のイメージを持っていただくとともに、市場投入されている製品を用いてデモを実現できているという点を訴えたいと考えました」と説明し、「CC-Link IE TSN」が市場での実用レベルに達していることを訴えた。

photo 「CC-Link IE TSN」によるキネティックアートデモ機の様子(クリックで拡大)

「CC-Link IE TSN」対応製品や開発ツールが続々登場、パートナーとの関係性もますます強化へ

 市場投入製品によるデモと合わせてCLPAが強く訴えたのが、パートナーによる「CC-Link IE TSN」対応製品や開発ツールの拡充の動きである。CLPAでは「CC-Link IE TSN」の規格発表以降、パートナーとの関係性強化を進めており、グローバルでさまざまなパートナープログラムを推進。これらを生かした「CC-Link IE TSN」対応製品や開発ツールが続々と登場し、市場提供が開始されつつある状況だ。IIFES2019でも「拡がる接続製品」として、パートナーによる「CC-Link IE TSN」対応製品を動態展示含めて数多く出展。また、開発ツールの仕様なども紹介した。

photo <写真・中央>「拡がる接続製品」として訴えた「CC-Link IE TSN」の世界(クリックで拡大)

 ブース内で製品紹介を行っていたパートナーの中で、STマイクロエレクトロニクス、エヌエスディ、CKD、図研エルミック、Moxaの5社に「CC-Link IE TSN」への取り組みと期待について話を聞いた。

「CC-Link IE TSN」対応マイコンを紹介したSTマイクロエレクトロニクス

photo 「CC-Link IE TSN」に対応したリモート局用マイコンとして「STM32ファミリ」をパネルで紹介(クリックで拡大)出典:CLPA

 さまざまな半導体ソリューションを展開するSTマイクロエレクトロニクスは、「CC-Link IE TSN」のリモート局開発に対応した「STM32ファミリ」を紹介した。「Arm Cortex-Mコア」を搭載する「STM32ファミリ」は、イーサネット、ワイヤレスを含む多くの通信機能、セキュリティ機能など、さまざまな機能を含む1000種類以上の製品ラインアップがあり、用途に応じたさまざまな「CC-Link IE TSN」対応産業用製品の開発を容易に行うことができる。さらに、10年間の長期供給プログラムによるサポートも特長だ。

 「『TSN』は、産業用イーサネットの新しい標準規格として今後急速に普及していく可能性があり、『CC-Link IE TSN』にも大きな期待をしています。『TSN』対応ネットワークの普及には、専用ハードウェアプロトコルを必要とせず、汎用マイコンとしてのソフトウェアプロトコルのサポートが欠かせません。STM32ファミリの組み込みイーサネットMACは、正確な時間プロトコルをサポートすることで、リモート局用マイコンとして。『CC-Link IE TSN』に接続できます。STM32ファミリは、今後の『TSN』対応ネットワークの拡大に大きく貢献できると考えています(STマイクロエレクトロニクス マイクロコントローラ&デジタル製品グループ マイクロコントローラ製品部 アシスタントマネージャー 村澤学氏)。

「CC-Link IE TSN」対応スリップリングを動態展示したエヌエスディ

photo エヌエスディが出展した「CC-Link IE TSN」対応スリップリングの動態展示(クリックで拡大)

 メカトロニクス関連製品の開発、販売を行うエヌエスディでは、回転体に使用する「CC-Link IE TSN」対応スリップリングを動態展示した。「CC-Link IE TSN」対応製品の開発についてエヌエスディ取締役 開発部長の高塚智史氏は、「当社の製品は、ネットワークシステムの最下層に位置するデバイス(センサなど)であるため、基本的には機器メーカーやエンドユーザーの要望に基づいて、ネットワーク対応製品を開発していくスタンスです。産業用ネットワークについては、デバイスレベルにまで産業用イーサネットが急速に浸透しはじめていると認識しており、その中で『TSN』は大きな技術革新だと注目しています。そうした背景と、CLPAがいち早く『CC-Link IE TSN』の規格を発表し、パートナー展開にも熱心に取り組まれていることや、一部のユーザーから問い合わせも入り始めている事もあり、開発に踏み切りました」と語っている。

 また「CC-Link IE TSN」の普及については、「われわれのユーザーである国内の工場の多く(特に重工業系)は、リプレース(設備更新)が中心となっていますので、ネットワークを大きく変えたり、追加する事はまだまだ少ないようです。特に『信頼性』や『止まらない設備』を最重要視するような現場では、ネットワーク環境そのものがまだまだ行き渡っていないようです。こうした現状に対して、産業用イーサネットや『CC-Link IE TSN』のメリットでユーザーを啓発していけば、信頼性重視の現場にも、受け入れてもらいやすいのではないかと感じております」と高塚氏は述べている。

「CC-Link IE TSN」で“方向制御弁の知能化”を目指すCKD

photo CKDの「CC-Link IE TSN」対応のシリアル伝送子局「M4G/MN4G-T8シリーズ」(クリックで拡大)

 空気圧機器や流体制御機器を展開するCKDは、“方向制御弁の知能化”に向けて「CC-Link IE TSN」対応のシリアル伝送子局「M4G/MN4G-T8シリーズ」を紹介した。「CC-Link IE TSN」への期待について、CKD 事業推進室 主幹の今井芳成氏は「当社は方向制御弁や流体制御製品などを展開していますが、従来は制御情報を受けるだけのものでした。『CC-Link IE TSN』を活用することで、方向制御弁側からの情報を上位で活用しやすくなります。今まで活用されていなかった情報を活用することにより、高精度な予知保全を行うことが可能になります」と語っている。

 CKDではまずは自社工場で「CC-Link IE TSN」の導入を進め、その中で価値を実証し、外部提案につなげていく方針である。今井氏は「スマート工場化が進む中で方向制御弁を含めてより装置末端の情報をリアルタイムに生かすことが求められています。『CC-Link IE TSN』はその原動力の1つになると考えます」と述べている。

「CC-Link IE TSN」マスタ局対応のSDKを披露した図研エルミック

photo 図研エルミックの「CC-Link IE TSN」マスタ局用SDKの仕様(クリックで拡大)出典:CLPA

 図研エルミックは、「CC-Link IE TSN」のマスタ局のソフトウェア開発に対応するSDK(ソフトウェア開発キット)「Ze-PRO CC-Link IE TSN(Master)」を披露した。マスタ側のSDKについては、「CC-Link IE TSN」対応開発ツールとして初の製品だという。

 図研エルミック 営業本部 FA Protocol 担当部長の長谷川佳久氏は、「『TSN』規格は時分割方式で複数の通信プロトコルを同一配線に乗せることができます。これはエンドユーザーにとっての導入のハードルを下げることになり、大きな価値を生むと考えています。さらに、従来のCC-Linkファミリーの多くはASICなどのハードウェア開発が必要でしたが、『CC-Link IE TSN』はソフトウェアプロトコルスタックに新たに対応しており、PCベース制御なども行えるようになりました。マスタ局の製品についても従来以上に用途が広がることが考えられ、ユーザーも増えると考えています」と期待感について語っている。

「CC-Link IE TSN」対応スイッチングハブを出展したMoxa

 グローバルでネットワーク関連機器を展開する台湾のMoxaは、「CC-Link IE TSN」対応のスイッチングハブのプロトタイプ製品を出展した。Moxa アジア営業本部 日本営業部 IIoT事業開発マネージャの長澤宣和氏は、「Moxaはグローバルで『TSN』技術に注目し普及に力を入れてきました。その中でCLPAは、産業用ネットワークにおいていち早く『TSN』技術を採用した『CC-Link IE TSN』を発表しました。Moxaとしても積極的にかかわっていきたいと考え、ネットワークスイッチ製品の開発をすすめているという流れです」と語っている。IIFES2019ではプロトタイプ製品としての出展だが、「2020年の発売を計画している」(長澤氏)としている。

 スマート工場化などが広がる中で「Moxaでは『CC-Link IE TSN』対応のネットワークスイッチだけでなく、スマート工場化には欠かせない、セキュリティ対策製品なども新たに用意しています。よりオープンで安全な世界を実現するために、CLPAとも協力していきたいと考えます」と長澤氏は語っている。

photo Moxaの「CC-Link IE TSN」対応ネットワークスイッチ(赤丸部)を活用したアプリケーションイメージ(クリックで拡大)

実用フェーズに入った「CC-Link IE TSN」

 ここまで見てきたように、「CC-Link IE TSN」の対応製品は、2019年〜2020年にかけて投入が進む見込みだ。併せて開発ツールのリリースなども進んでおり、「CC-Link IE TSN」の世界がいよいよ本格的に広がってくるといえる。

 川副氏は「2018年11月に『CC-Link IE TSN』の規格を発表して以降、さまざまな取り組みを進めて参りましたが、ようやく開発環境なども拡充し、製品投入も本格的に進む兆しが見え始めてきました。今後はできる限り早く、エンドユーザーの環境において『CC-Link IE TSN』での成功事例を作りたいと考えています」と今後の抱負について語っている。

 スマート工場化が加速する中、製造現場のさまざまな装置や機器もオープンな形で連携し、自由に情報をやりとりできる環境が求められるようになっている。産業用ネットワークでいち早く「TSN」規格に対応した「CC-Link IE TSN」は、その基盤として大きな役割を果たす可能性があるといえるだろう。

photo 「CLPA」の文字を表示した「キネティックアートデモ機」の前に立つCLPA事務局長の川副氏(クリックで拡大)



IIFES2019 CLPAブース CC-Link IE TSN関連展示実施パートナー企業一覧

※日本語読み(アルファベットはカタカナ読み)の50音順で並べております。


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提供:一般社団法人CC-Link協会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月29日

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