2019年の深センから見た、ハードウェアスタートアップシーンの今現地レポート(3/3 ページ)

» 2019年12月27日 13時00分 公開
[越智岳人MONOist]
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深センがスタートアップ都市であり続ける理由

 今回取り上げた2社は、深センのスタートアップエコシステムのごく一部を紹介しただけにすぎないが、工場やサプライチェーンだけでなく、VCやアクセラレーターなど資金面や事業面を支える企業も集まり、「アジアのシリコンバレー」にふさわしい都市であり続けている。

 大企業の生産拠点が深センから東南アジアに移転する傾向にはあるが、千個単位以下で安く早く作りたいスタートアップの需要を支えるのは、依然として深センや東莞を中心とした珠江デルタ地域だ。

中国のEV自動車スタートアップ「NIO」のショールーム。撮影時は日曜だったこともあり客足は途絶えなかった 中国のEV自動車スタートアップ「NIO」のショールーム。撮影時は日曜だったこともあり客足は途絶えなかった[クリックで拡大]

 数年前までは中国の工場に直接交渉を試みるも、商慣習や言葉の違い、そして工場独特の文化から苦戦を強いられるスタートアップが多く見受けられた。

 しかし、現在では中国での量産をスタートアップ向けにアレンジする中間業者や、HAXのような工場とのネットワークを持つアクセラレーターがスタートアップをサポートしている。また、ジェネシスホールディングスのような日本人経営者による生産、組立工場がスタートアップの量産を請け負うケースもあり、スタートアップと中国の距離感は着実に縮まっているようだ。

深センの書店に並ぶ子供向けタブレット端末。去年はロボットが並んでいたが、軒並み入れ替わっていた。ロボットは教育に向いてなかったのだろうか? 深センの書店に並ぶ子供向けタブレット端末。去年はロボットが並んでいたが、軒並み入れ替わっていた。ロボットは教育に向いてなかったのだろうか?[クリックで拡大]

 品質の面でも、厳しい基準を設けている海外の大手企業との取引実績をアピールする工場も増えた。そういった工場は品質にバラつきのあるサプライチェーンをうまく使い分けながら、不良品率を減らしたり、金型製造後の射出成形で利益を上げることで、金型製造費を安く抑えたりと、さまざまな工夫をこらしている。

 IoT(モノのインターネット)の影響も大きい。データの処理がチップではなくクラウドに移り、高度な機械学習のプラットフォームをGoogleやAmazonが提供するようになったことで、ハードウェア側の負担は劇的に下がった。

 それに伴いハードウェアの構成は、非常にシンプルになった。安価なモジュールや部品がそろう深センのサプライチェーンで部品を調達し、現地工場で金型や基板を製造して、組み立てるといったことも可能で、出来上がる製品の幅は広がった。

 こうした環境が海外からスタートアップを呼び寄せると同時に、中国国内からも成長著しい企業を育てることを可能にしている。ユニコーン企業からスピンアウトして、新たな製品を開発する中国発スタートアップも続々生まれている。

2017年に創業したEcoFlow TechnologyはDJIの技術者らが立ち上げたスタートアップ。電気自動車(EV)のバッテリーも充電できる大容量のポータブル電池を開発している

 2020年以降、深センの力を借りて、どのようなスタートアップが世界中でイノベーションを起こすのか。同時に中国国内のスタートアップシーンはどのように変化するのか。機会があればレポートしたい。

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