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» 2020年02月14日 10時00分 公開

海外医療技術トレンド(55):新型コロナウイルスに立ち向かう中国デジタル大手、今も生きる経済危機の経験 (1/3)

2020年に入ってから、中国湖北省の武漢市から拡大した新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の影響が世界的な注目を集めている。このような緊急時にITは何ができるのだろうか。中国の大手デジタルプラットフォーマーであるBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)を中心に取り組みを紹介する。

[笹原英司,MONOist]

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 2020年に入ってから、中国湖北省の武漢市から拡大した新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の影響が世界的な注目を集めている。このような緊急時にITは何ができるのだろうか。

2008年世界経済危機からの脱却を支えた中国の医療イノベーション

 本連載第40回で触れたように、米国では、オバマ政権が2008年のリーマンショック後の景気浮揚策の中核に医療産業を据えて、「2009年米国再生再投資法(ARRA)」および「経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律(HITECH)」を制定し、医療機関における電子カルテ導入支援策「Meaningful Use Stage 1」をスタートさせた。実は中国でも、医療を支えるインフラストラクチャやITの整備が、リーマンショックからの経済復興のけん引役を担ってきた歴史がある。

 中国では、2008年第4四半期の成長率が急激に下がったことを受けて、当時の胡錦濤政権が、総額5860億米ドル規模の景気浮揚パッケージを打ち出した(関連情報、PDF)。図1はその内訳を示しており、地域別にみると1730億米ドル(29%)が中央政府向け、1800億米ドル(31%)が地方政府向け、2330億米ドル(40%)が銀行貸出向けとなっている。また分野別にみると、インフラストラクチャ(38%)、四川大地震復興(26%)、農村生活インフラストラクチャ(10%)、低廉化住宅(10%)に続いて、「自主創新」プロジェクト(9%)、保健医療・教育(4%)、生態系・環境プロジェクト(3%)となっている。

図1 図1 中国の2008年経済危機に対する景気浮揚計画(クリックで拡大) 出典:World Bank「Infra Update: June 2010」(2010年6月)

 その後、大規模な交通・エネルギー関連インフラストラクチャの建設プロジェクトが中央政府主導で進む一方、住宅、診療所、農道などのプロジェクトが地方政府主導で立ち上がっていった。加えて景気刺激のための支出は、新たな産業の創出や社会課題の解決の機会であるという認識から、技術イノベーションや構造調整への投資が加速した。2008年当時、この景気浮揚策の中に組み込まれたのが医療制度改革だ。

 当時の中国では、都市部の企業の従業員・退職者を対象とする都市労働者基本医療保険(1998年)、農村部に居住する市民を対象とする新型農村協力医療保険(2003年)、労働者・退職者以外の都市部に居住する市民を対象とする都市住民基本医療保険(2007年)が導入されるとともに、医療保険加入者数が急増し、医療空白地帯だった農村部における保健医療サービスの拡大が急務となっていた。

 医療ITに関しても、北京や上海に代表される沿岸地域の都市部では、大規模病院が集中し、民間病院の参入や電子カルテ・最新医療機器の導入が進んでいた。他方、内陸地域の農村部では、ゼロベースからの医療施設の新設・整備が急ピッチで進む中、短期的にはハードウェアの導入が先行し、ソフトウェアやサービスが後追いする形でIT投資が実行された。2009年からスタートした新医療改革では、沿岸部と内陸部、都市部と農村部の医療格差是正という社会課題の解決手段として、医療ITへの期待が高まっていったのである。

 また、中国の医療機器市場では、GEヘルスケア、フィリップス、シーメンスに代表される海外ブランドが圧倒的なシェアを誇っていたが、前述の「自主創新」を契機として、国産医療機器に関わるイノベーション支援策が推進されるようになった。

クラウド連携するデジタルプラットフォーマーと医療コミュニティー

 米国では、リーマンショック後の景気浮揚策として、医療ITに加え、ブロードバンドインターネット網やスマートグリッド網の整備も行われ、クラウドコンピューティングを利用しやすい環境が拡大した。同時期の中国でも、外資系プレイヤーに加え、中国電信(China Telecom)、中国移動(China Mobile)、中国聯合通信(China Unicom)、華為技術(Huawei)、中興通訊(ZTE)など、国内通信キャリア系プレイヤー/サプライヤー企業を中心にクラウド技術の本格導入が始まっていたのである。

 クラウドセキュリティの分野でも、2010年10月、北京でクラウドセキュリティアライアンス・チャイナチャプターが発足し(関連情報)、ガイドライン類の中国語化などの活動を開始した(その後、北京、大連、杭州、香港/マカオ、上海、広東/深セン、西安などの各都市・地域にチャプターができている)。筆者も2010年のキックオフイベントに参加したが、当時の熱気は米国シリコンバレーや日本を上回るものだった。

 他方、百度(Baidu)や阿里巴巴(Alibaba)、騰訊(Tencent)は、オープンソースをベースとする自社サービス向けプラットフォームにクラウドコンピューティングを実装しながら、デジタルプラットフォーマーとしての地位を確立していった。そして、自社による開発と運用で得られた技術とノウハウをビルディングブロック/ソリューション化し、百度網盤(Baidu WangPan)(関連情報)、阿里云(Alibaba Cloud)(関連情報)、騰訊云(Tencent Cloud)(関連情報)といった外部向けクラウドサービスを展開してきた。クラウドセキュリティ管理については、外資系プレイヤーと共通のフレームワーク上に、中国独自の管理策をプラスした「C-STAR」(関連情報)の枠組を採用している。

 各クラウド事業者とも、IoT/AIサービスなどの有望市場として、ライフサイエンス/医療産業に注目しており、クラウドユーザーであるMedtech/Healthtechスタートアップ企業との連携を積極的に進めてきた。このような状況下で起きたのがCOVID-19の感染拡大であり、COVID-19によるさまざまな問題を克服するための取り組みの進展である。ここからは、「BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)」に代表される中国の主要デジタルプラットフォーマーが関わる医療関連事例やCOVID-19関連対策を紹介しよう。

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