標準時間は働き方を監視するためのものではない? 現場管理監督者の役割とはよくわかる「標準時間」のはなし(13)(4/4 ページ)

» 2020年02月20日 10時00分 公開
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4.これからの現場管理監督者像

 現場は、大げさな表現を借りるならば、喜怒哀楽の人間社会を縮図にしたような、誠に泥くさくて汗くさいものであり、そこの長でもある管理監督者は、この縮図を一身に背負いこんだ船長のようなものに例えることができます。

 ちなみに、現場の管理監督者の主な任務を要約すると表3のようにまとめることができます。計画された多品種少量生産で生産条件が目まぐるしく変化する中で、与えられた生産目標だけは何が何でも完成させようというのが、現場の管理監督者の偽らざる願望です。かといって、良い物を安く、効率よく生産するという責任を回避することはできません。

  • 予定の日までに
  • 必要な量の製品を
  • 良質で
  • 安く

 上記のような目標を満たすように作るのが現場の管理監督者の責任なのですから、与えられた生産資源(人、設備、材料)をどう活用するかを知らないということでは、これらの責任を果たすことはできません。いきおい、部下の扱い方、スタッフの利用の仕方に無関心ではいられないことになります。

(1)与えられた目標や予算を達成すること

(2)原価低減、効率向上をはかること

(3)部下の教育訓練を通して、その士気高揚をはかること

(4)機械設備を最適の状態に保つよう、施策を講ずること

(5)職場環境の整備を通して、安全衛生に留意すること

(6)経営改善に関する建設的な意見の具申を行うこと

(7)その他

表3 現場の管理監督者の任務

 また、表4に示す項目は、いずれもIEの分野そのものなのですが、手を打てばたちどころに効果が現れるというほど簡単なものではありません。これからの現場の管理監督者は、第一線の現場の責任においてやるべき改革行動と、スタッフの手を借りてやるべき行動をうまく使い分けるだけの力量が大切な要素になってきます。

(1)部下は、どのような時に高いモラールで仕事に取り組むか

(2)モチベーションを高めるときには、どのような動機付けをすべきか

(3)作業指導の際には、どのような点に留意すべきなのか

(4)スタッフの手を借りた方が良いのはどの分野で、自らの手でやった方がいいのはどのような時か

(5)管理監督者として、部課長やスタッフにどう接し、作業者にどう接したら良いのか

(6)人の効率のムダ、機械設備の効率のムダ、材料・製品の停滞から来る損失はどのくらいあるのか

(7)職場環境の整備を通して、安全衛生に留意すること

(8)効率の悪い原因は何なのか、それを取除くにはどのような手を打てばよいのか

(9)その他

表4 第一線の現場に課せられた改革行動

◇     ◇     ◇     ◇

 標準時間をいつも正しい状態に維持していくということは、言うは易く実は大変困難なことです。現場は生きていますので、変化して飽くことのない現場の姿は、いわば進歩向上の象徴でもあります。これとは逆に、変化のないまま長く安定した現場は、ある意味では進歩からとり残された姿ともいえるわけです。この意味からも、作業上の変化は大いにあった方がいいし、なければなりません。

 ところが、変化に即応して測定の基準となる標準時間を正しくメンテナンスし、生産過程の管理に齟齬をきたさないようにするためには、専門の技術屋さんだけで到底できるものではありません。現場を預かる管理監督者の理解と協力が絶対に必要となります。

 この協力体制ができない限り、多大の工数をかけて決めた標準時間でも、1〜2年もたたないうちに全く役立たない陳腐化した指標となってしまうのです。標準時間の見直しが繰り返されるのは、つまりそんな体制の不備が起因していますので、標準時間を運用していく上で、忘れてはならない重要なポイントです。

 さて、13回にわたってお送りしてきました「よくわかる標準時間のはなし」は、今回で最終回となります。標準時間なくして生産計画や原価管理は不可能です。ぜひ、効果的に活用して、「良い物を安く早く作る」ことに弛まぬ努力を重ねて、競争力ある磐石なモノづくりを目指していただきいと思っています。

 次回からは、新たな連載として「工程管理は、あらゆる現場問題を解決する(仮称)」をお送りする予定です。

(連載完)

⇒前回(第12回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら

筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)

日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。



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