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» 2020年03月06日 07時30分 公開

イノベーションのレシピ:熟練者頼みの航空機の運航ダイヤ修正、ANAと日立が自動化に向け実証実験

全日本空輸(ANA)と日立製作所は、日立コンサルティングと共同して、航空機の運航ダイヤ修正を高速かつ最適に自動立案する技術の開発を進めていると発表。2020年3月末をめどに、ANAの過去の運行データを用いたPoC(概念実証)を行っており、ANAは2020年以降にPoCの結果を評価した上で実採用を判断する方針だ。

[朴尚洙,MONOist]

 全日本空輸(以下、ANA)と日立製作所(以下、日立)は2020年3月5日、日立コンサルティングと共同して、航空機の運航ダイヤ修正を高速かつ最適に自動立案する技術の開発を進めていると発表した。同年3月末をめどに、ANAの過去の運行データを用いたPoC(概念実証)を行っており、ANAは2020年以降にPoCの結果を評価した上で実採用を判断する方針。日立側は、ANAとのPoCを通して開発した技術を基に同社のデジタルソリューションサービス「Lumada」の航空会社向けサービスとして展開する計画である。

ANAと日立が実証実験を進める運行ダイヤ修正の最適化技術のイメージ ANAと日立が実証実験を進める運行ダイヤ修正の最適化技術のイメージ(クリックで拡大) 出典:日立

 経済のグローバル化の進展を受けて航空需要は拡大しており、航空会社は乗継便を含めてネットワークを拡大している。ANAの1日当たりの便数も、国内線で約800便、国際線で約200便、合計で約1000便に達している。ANA オペレーションマネジメントセンター オペレーションマネジメント部 フライトスケジュールマネジメントチームのアシスタント マネジャーの筒井謙一氏は「従来と比べて、より緻密な運行ダイヤの立案と計画に即したオペレーションが求められるようになっている」と語る。

 ANAのオペレーションマネジメント業務では、運行ダイヤの立案や計画だけでなく、悪天候や機材メンテナンス、空港・空路の混雑などのイレギュラーによるダイヤ修正も行っている。しかしこのダイヤ修正は、オペレーションマネジメントセンターでダイヤ統制を行う熟練者が、収集したさまざまな情報から経験則を基に影響を見積もりながら修正するダイヤの候補を導き出しているのが現状だ。

 ANAの場合、使用している航空機のバリエーションも多く、所有する約280機は74人乗りのプロペラ機から500人以上登場できる大型機まである。そして、1つの機材は1日当たり5〜10便に使用されておりダイヤにそれほどの余裕がない中で、乗客や機材の運用に大きな影響を与えないように、かつできるだけ短時間でダイヤ修正を立案しなければならないのだ。しかし、複雑性が高まる一方のオペレーションマネジメント業務に対して、ダイヤ修正を短時間で立案できる熟練者の数は限られており、育成にも数年かかるという課題があった。

ダイヤ修正のプロセスダイヤ修正の難しさ オペレーションマネジメント業務におけるダイヤ修正のプロセス(左)と難しさ(右)(クリックで拡大) 出典:ANA

 そこでANAは、ある意味でアナログ的な作業の極致にあったダイヤ統制という業務にデジタル技術を導入することを決めた。2018年夏から1年間、パートナー企業の選定を進めて、白羽の矢が立ったのが日立と日立コンサルティングだった。「航空会社各社も同様の悩みを抱えており、これを解決したいというわれわれ要望はかなりのチャレンジになる。そのことをしっかりと理解した上で、さまざまな技術と実績、そして信頼もあり、両社と取り組むことを決めた」(筒井氏)という。

ダイヤ統制にデジタル技術を導入し課題解決を目指す ダイヤ統制にデジタル技術を導入し課題解決を目指す(クリックで拡大) 出典:ANA

熟練者と同等の速度で4つのダイヤ修正候補を立案

 日立は、鉄道や製造業を中心に計画立案を最適化するさまざまな技術やノウハウを有している。これに加えて、日立コンサルティングが総合商社や小売流通、製造業、サービス業などに展開してきた「計画立案の最適化・自動化コンサルティング」を基にして、今回のPoCに向けた最適化モデルを開発した。

日立の取り組み内容日立コンサルティングの取り組み内容 日立と日立コンサルティングの取り組み内容(クリックで拡大) 出典:日立

 2019年6月から、ANAの過去の運行データとこの最適化モデルを用いたシステムのPoCを開始しており、モデル精度の向上や改善も随時図られている。日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 第四システム部 技師の生田博久氏は「これまでは、情報収集、ダイヤ修正ともに熟練者が手作業で行っていたが、今回の最適化モデルを用いたシステムでは情報収集とダイヤ修正の両方を自動化することができている。また、ダイヤ修正案を出すスピードや精度についてもANAの熟練者とほぼ同レベルを達成できている」と説明する。

 また、サーバ4台による並列処理を行うことで、熟練者と同等の速度でダイヤ修正の候補案を4つ出せるようにしている。これらの案は、それぞれ重視するKPI(重要業績評価指標)が異なっており、最終的なダイヤ修正の決定を柔軟に行えるようにアシストできるようになっている。「各案のKPIをレーダーチャートで表示するなどして、担当者の意志決定に役立つような工夫も取り入れている」(生田氏)という。

PoCの検証状況ANAの方針 PoCの検証状況(左)。ANAも同様の見方だが、今後はPoCの結果を評価・分析した後、採用は別途判断する(右)(クリックで拡大) 出典:日立、ANA

 筒井氏は、PoCを行っているシステムの採用について「PoCの結果を評価、分析してから決める」と述べるにとどめた。しかし「名古屋空港でのプロペラ機の故障によるダイヤ修正をPoCで実施したが、その後実際のオペレーションで同じような条件で熟練者ダイヤ修正を行うことがあった。結果として、PoCと熟練者の立案内容はほぼ同じで、とても大きな手応えを感じた瞬間だった」と述べた上で、「採用するのであれば、なる早でやりたい」(同氏)と前向きなコメントを残している。

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