デジタルツインを実現するCAEの真価

設計者がフロントローディングという怪物に立ち向かうための“3つの武器”構造解析、はじめの一歩(2)(3/3 ページ)

» 2020年03月11日 10時00分 公開
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デジタルトランスフォーメーションって何?

 筆者はよく、いろいろな業種の製造業の会社を訪問します。交換させていただく名刺の部署名で最近目立って多くなってきたものがあります。それは「DX推進○○」というものです。

 「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略語です。DXは15年以上前に提唱された概念です。その概念は「企業がテクノロジーを利用して、事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という抽象的なものです。

 そんなに以前の概念がなぜ今、部署名になるほど注目されているのでしょうか。その理由は日本政府の動きにあります。

 経済産業省は、2018年5月に有識者による「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げました。そして、同年にDX関連のレポートやガイドラインを矢継ぎ早に発表しました。その活動は国家規模に拡大し続けています。

 DXについては、ここで説明するよりも以下の原文をあたってみてください。

 DXには「2025年」という努力期限があります。これは“昭和100年”であり、昭和に作成された多くのインフラのゼロリセット問題を避けるため、ITインフラの刷新を促すものです。最近、2020年を迎えて時計がカウントしなくなったガラケーが出てきているとのことですが、2025年にはそれが企業のインフラベースで起こる可能性があるのです。

 経済産業省の資料を見ていただけたでしょうか。個人的な印象としては、DXは広範囲に及んでおり、抽象的なものである、といったところです。経済産業省はDXにかなり本腰で取り組んでおり、東京証券取引所と共同で、DXに真剣に取り組む企業を「攻めのIT経営銘柄」として選定し、公表しています。選定基準の説明会も開催されています。自社の株に関わることですので、経営層も注目しており、社内に“DX推進組織を設置する”ことで、DXに真摯(しんし)に取り組んでいる姿勢を示そうという狙いがあるわけです。

 DXは広範囲かつ抽象的です。筆者が調べた範囲では、DXの具体例は決定的なものがなく、各企業、各部署で暗中模索ながら推進しているといったところです。単なるIT化という意味では製造業は既に多額の投資をしていますが、さらなる工夫が必要となります。「IoT(モノのインターネット)」や「AI(人工知能)」、そして「クラウド」は重要なキーワードとして位置付けられています。

 DXは広範囲に及ぶ取り組みです。3D CADやCAEはその中のほんの一部ではありますが、製造業にとっては“ライフライン”といえるツールです。必ずDXの対象となる領域です。DXという取り組みを理解し、その大きな波に備えましょう。 (次回に続く

コラム:

さて、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックの開催が迫ってきました。選手が使う道具にも改良が続けられています。新記録続出のマラソンシューズなどが話題になりました。その“道具革命”はパラリンピックの選手の道具にも及び、パラリンピックの記録がオリンピック記録に並ぶ可能性も出てきました。技術が人体そのものの能力をアップする未来が近づいています。


Profile

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。サイバネットシステム株式会社 シニア・スペシャリスト。1983年より37年間、構造解析に従事。I-DEASの開発元である旧 SDRC 日本支社、CATIAの開発元であるダッソー・システムズを経て現在に至る。多くの企業で3次元CADによる設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援を行う。特に設計者のための講座「解析工房」が人気。解析における最適なメッシュ・サイズを決定するための「OK法」を共同研究で模索中。


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