AIでAIのための新材料が見つけられるのか、長瀬産業の取り組みインターネプコン ジャパン2020

エレクトロニクス製造および実装技術の展示会である「インターネプコン ジャパン2020」(2020年1月15〜17日、東京ビッグサイト)の特別講演に、長瀬産業 執行役員 NVC室室長の折井靖光氏が登壇。「マテリアルズインフォマティクスプラットフォームの開発〜AIは新材料を見つけることができるのか?〜」をテーマに講演した。

» 2020年03月31日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 エレクトロニクス製造および実装技術の展示会である「インターネプコン ジャパン2020」(2020年1月15〜17日、東京ビッグサイト)の特別講演に、長瀬産業 執行役員 NVC室室長の折井靖光氏が登壇。「マテリアルズインフォマティクスプラットフォームの開発〜AIは新材料を見つけることができるのか?〜」をテーマに講演した。

 ビッグデータ分析とAI(人工知能)などの進化により材料開発へのIT活用が以前にも増して重要視されるようになってきている。その中でも「マテリアルズインフォマティクス(MI)」は注目を浴びている技術の1つである。「マテリアルズインフォマティクスを活用することで、材料開発の期間やコストの削減、従来は難しかった革新的な素材の発見が実現する可能性があるためだ」と折井氏は語る。

AIの発展により生まれた限界

 AIはこれまでさまざまな可能性を広げてきた。中には、白血病治療に対し、人間には不可能だと思われる2000万件の関連論文と1500万の電子データをAIが読みこなし、照らし合わせて、人間が考えつかなかった対症療法を導き出したという事例がある。

 AIなどを活用するための前提となるデータの総量は、2011年には1ZB(ゼタバイト)程度であったが、2020年には44ZBに達する見通しだ。今では人間よりもIoT(モノのインターネット)技術によりセンサーがデータを作る時代(全体の44%を占める)となっている。データには構造データと非構造データがある。これから増えてくるのはさまざまなドキュメントや音声などの非構造データだ。コンピュータにはこれら非構造データを処理することは難しく、これまでは人間が構造データへと変換する作業を行ってきた。しかし、データ量が増えてくると人間の手では対応できなくなる。

 非構造データの中には“天然資源”ともいうべき「価値を生むデータ」が含まれており、これらをAIの利用により価値化する流れが生まれている。現在は第3次AIブームだとされており、ブームをけん引する4つのポイントがある。「圧倒的な非構造データの量」と「これらをいかに価値に変えるかという点」「センサーからクラウドに上げるスピード」「アルゴリズムとハードウェアの進化」である。

 ハードウェアについてみると、コンピュータの能力は過去60年間で1兆倍に向上するなど劇的に進化した。これによりAI、ビッグデータとの相乗効果が生まれている。しかし、このままでいくと電力不足がボトルネックとなり、コンピュータやAIを使えない状況が危惧されている。実際に2015年のデータセンターの消費電力は同年の英国1国の消費電力を上回るというデータもある。

AIの限界突破にAIを活用したマテリアルズインフォマティクス

photo 長瀬産業 執行役員 NVC室室長の折井靖光氏

 この供給電力の問題に対応する手段としては2つ考えられており、折井氏は「1つはクラウドに全てやらせるのではなく、エッジに任せる『AI at the Edge』(エッジ側のインテリジェント化)の推進がある。もう1つは人間の脳を模倣したような新しいデバイスにより、クラウドの負荷を軽減させる『Brain inspired Devices』(人間の脳を模倣した新しいデバイスを作る)がある」と紹介した。

 「AI at the Edge」は、センサーのデータをそのままクラウドに上げるのではなく、エッジ側をインテリジェント化することで、エッジ側で非構造データを構造データに変えてクラウドに上げる方法だ。それにより、クラウド側は従来のコンピュータ処理ですむことになり、エネルギー効率が高くなる。「Brain inspired Devices」は、半導体そのものの消費電力を下げようという取り組みだ。人間の脳のような、低消費電力のシステムにするため、人間の脳にあるシナプスを模した、この技術の研究にさまざまな企業が取り組んでいる。

 この2つの技術に対してはいずれも半導体が関わってくる。半導体の微細化は進んでいるが、それも限界がきている。ムーアの法則がコンピュータ発展の第5のパラダイムと位置付けられたが、折井氏は「6番目のパラダイムシフトを考えないとAIを支える半導体が出てこない」と課題を示した。

 このパラダイムシフトを可能にするために重要となる、新材料の発掘の手段としてAIを用いることを同社は目指している。世の中に知られている材料は10の9乗(10億)あり、一方、知られていない材料は10の62乗存在しているといわれている。この大きな数字の中から、AIによって次世代半導体に適した新素材を見つけようとしている。

 考え方としては2つあり、1つはAIが素材に関する膨大な文献やデータを読み込み、データを理解、体系化した上でユーザーが求める

新材料を提案する「コグニティブアプローチ」である。もう1つは、膨大な物質の化学構造と物性値の関連性を学習し、ユーザーが求める物質の「化学構造式」を示す「アナリティクスアプローチ」というものだ。

 長瀬産業では、IBMと共同で、これら2つのアプローチを実現するエンジンを搭載した「マテリアルズインフォマティクスプラットフォーム」の開発を進めている。この2種類のアプローチを同時に利用して、新規材料や代替材料の探索を行う。この「マテリアルズインフォマティクスプラットフォーム」は、2020年中に提供開始だとしている。

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